決まった住所を持たず、日本中を旅しながら生活しているカメラマンの南谷有美(なんや・ゆみ)さん。訪れた地域では人々とどのように交流し、どんな仕事をしてきたのか。それぞれの地域の魅力についても綴っていただきます。


私が注目しているアーティストを紹介するシリーズ。今回は、彫刻家の植田明志さんです。私が初めてお会いしたときは、名古屋芸術大学に通う学生さん。キラキラした青年がいるなという印象でしたが、あれから5年経過した現在では、国内外で様々な賞を獲得するアーティストへと変貌をとげていました。

今回はそんな植田さんに、現在の仕事内容や作品への想いについてお話を伺ってきました。

  • 彫刻家の植田明志さん

国内外からオファーが相次ぐ人気彫刻家

1991年三重県生まれの植田さん。小学生の頃からアートに興味を持ち、飯野高校のデザイン科に進学。当初は画家や漫画家などを目指していましたが、その分野ではすでに上手な人がたくさんいて「ここでは、難しいかも」と直感的に思ったのだそうです。

そこでもう一つ興味を持っていた粘土を専攻し、造形の分野にシフトチェンジ。名古屋芸術大学に進学してそこで4年間、造形を学びました。

大学卒業後、多くの同級生が就職していく中、植田さんは就職せずに彫刻家として生きていくことを決意。1、2年はひたすら作品を作り続けたのだそうです。

そんな人知れぬ努力が実を結び、現在は作品の収益のみで生計が立てられるように。国内外からオファーが相次ぐ人気彫刻家となりました。

作品が誕生するまで

個人的に私がどうしても聞きたかった、作品の生み出し方。どういう工程で、どのような想いで作られているのかをお聞きしました。

まず初めに行うのは、デッサン。頭の中に浮かんだイメージを紙におこしていきます。

  • デッサンの数々

その後はすぐに、制作に取り掛かります。

  • 作りながら軌道修正をしていくのだそうです

植田さんが作品作りの過程で大切にされているのは、そのコンセプト。自分の中でピンときたキーワードを書き出し、それをいくつか組み合わせて作っているのだそうです。

よく使うキーワードは、「憧れ」「切なさ」「畏怖」などで、これは植田さん自身の根底にあるもの。これにいろいろと付け加えてイメージをより膨らませ、作品という形で世に送り出しています。

植田さんの作品

国内外にファンの多い植田さんの作品。その技術はもちろんのこと、先程ご紹介したような作品に込められている力強いメッセージもその魅力の一つです。植田さんに解説していただきながら、作品の一部をご紹介します。

惑星の魚

3月に東京で開催された個展にも出されたもので、チョウチンアンコウをモチーフにした作品です。相反するものが共存する、不思議な作品となっています。この作品は「過去・今・未来」の時間軸で表現されており、尾が過去、身体が今、頭が未来となっています。

  • 作品/惑星の魚

この作品には、「自分の好きなことで生きていくが、深く潜るということは苦しくてしんどい。でも、一筋の光に向かって前に進んでいる」というメッセージが込められています。これは自画像的な作品で、植田さん自身の想いを表現しているといいます。

  • 子ども=過去の記憶。身体に吸収されていく

  • 立派なエラ。そのおかげで呼吸をすることができる

  • 道しるべとなる鳥。暗闇を照らしてくれる

海の音を聴くカロン

こちらの作品のキーワードは「記憶」。記憶の中で眠るというイメージを元に作られています。作品の至るところに、「子どもの頃の記憶」が隠されています。

  • 作品/海の音を聴くカロン

一つは、角が貝になっているところ。「海の音=子どもの頃の記憶」となっています。

  • 穏やかな表情がかわいいです

もう一つは、琥珀。背中がひび割れて、元の記憶が琥珀みたいに見えているといったイメージです。また「はちみつ色=子どもの頃の記憶」も掛け合わせており、幼少期の甘酸っぱい思い出も表現しています。

  • 背中からはちみつが。ちょっとおいしそう

作品にはそれぞれにコンセプトがありますが、個展ではあえてキャプションをつけないことも。「それぞれの感性で作品を捉えてもらえれば」とお話していました。

アート界に新風を

最後に植田さんに今後の予定をお伺いしたところ、今年は5月にオーストラリアでグループ展、11月にサンフランシスコでグループ展、東京で個展が控えているそうです(※ 新型コロナウィルスの影響で延期される可能性もあります)。

また、来年に東京で開かれるグループ展では、植田さんをはじめとする若きアーティストが集結します。彫刻や造形は、普通に生活している私たちにとってはあまり馴染みのないもの。グループ展を通して、「アートの新ジャンルを確立できたらいいな」と話されていました。

  • 植田さん、ありがとうございました

お話を聞いていて、私自身とてもワクワクさせてもらいました。今後のご活躍も楽しみにしています。

南谷有美(なんや・ゆみ)

カメラマン/ライター
2018年4月に認可外保育園の園長を退いてから、各地を巡る旅人に。リモートで仕事をしながら、好きな場所で好きなことをして生活しています。