ここで勝率の話をしますと、勝率は0%と100%以外では、損益額とは比例しません。仮に勝率が90%であっても損益ではマイナスになる場合もありますし、逆に勝率が10%であっても、トータルではプラスになる事もあります。従って、勝率だけではトレードがうまいとかへただとかという判断は下せないのです。しかし、これは職業として日々トレードを行っている人達の間における常識でしかありません。一般の個人投資家においては、勝率が10%や20%程度でトータルの損益をプラスにすることはまれなことでしょう。

また、損益額以上に重要なポイントとなるのは、「投資意欲」の問題です。例えば平均勝率が30%だとしましょう。10回に3回は利益になる計算ですが、それは10回に7回は損失になるわけです。野球の打率で3割は首位打者も狙える高打率ですが、投資の世界では「いつも損ばかりしている」感覚になり、これはとても強いストレスになります。この「投資意欲」に関しては後に別の視点からもお話する予定なので、ここでは、個人投資家における勝率に必要以上にこだわる必要はありませんが、軽視するべき項目ではないことを認識しておいてください。

「なぜ負け組になってしまったのか?」を解き明かす

それでは本線に戻りまして、前回にお話しました「模擬売買研修」によるデータから、3カ月のトレードにおける損益において残念ながらマイナスで終わった"負け組"が、「なぜ負け組になってしまったのか?」について、その主因を解き明かしていきたいと思います。

前回の数値を再度確認しますと、"負け組"の平均勝率は約53%、総合の損益額はマイナス1,100万円超というものでした。この数字から見えるものは、「トレードにおける勝率と損益額は別物である」という点だけで、ここからはまだその要因を特定することはできません。ですが、これらの数字を逆算しますと、"負け組"は、「負けトレードの金額が勝ちトレードの金額よりも大きい」ということが、簡単に計算できると思います。そこで次のキーワードとなるのが、「損小利大」なのです。

「損小利大」とは書いて字のごとく「損失は小さく、利益は大きく」ですが、これがなかなか実現できません。平均勝率50%であれば、損失時のマイナス額よりも利益時のプラス額が大きければトータルでは必ずプラスになる計算が成り立ちます。これは勝率が30%でも20%であっても計算上でその金額を設定することは簡単な作業でしょう。

そこで以下の例で考えて見てください。

ドル円のFX取引で、あるポジションに対して利食いを60銭、損切りを40銭に設定したとします。この「値幅設定」を変えずに、数十回の取引を繰り返す。

勝率50%を維持できるならば、計算上では2回のトレードごとに、「20銭」づつ利益が積み上がっていくことになりますね。20回では「2円」、100回では「10円」のトータル利益になる計算です。ところが現実には、その損益を値幅ありきの設定にした場合、その勝率は値幅に比例して変化することになります。とても単純な話で、あるポジションから上がるか下がるかは同等の確率ですが、その値幅60銭と40銭とではどちらが先にヒットする確率が高いのか? という考え方です。この場合では取引を重ねるごとに勝率は40%に近づくこととなるはずです。つまり「損小利大」とは、それを目標として掲げることは簡単ですが、現実の売買でそれを達成することはとても困難なのです。

なぜこれほどまでに「損失」が膨らんでしまったのか?

【別表3】

また話が寄り道にそれてしまいましたが、それでは【別表3】のデータをご覧ください。ここで用意したデータは、"勝ち組"と"負け組"の1トレード当たりの平均損益額と平均取引日数です。先ほども述べましたように、"負け組"の負けトレードの額は、勝ちトレードの額に対して1.7倍程も多くなっていて、先ほどの損小利大とは真逆の結果となってしまったわけです。この損益額から、トータルをプラスマイナスゼロ以上にするには、64%以上の勝率でなければなりません。ですが、だからと言って負け組の敗因を「勝率が53%しかないため」とするのは無理があるでしょう。53%という勝率は充分に合格点といえるのです。

次に考えられるのは「損失時の額が大きすぎる」ことですが、確かにそれは"勝ち組"の負トレードと比較しても明らかです。しかし、ここで最も重要なことは、結果としての損失額ではなく、『なぜこれほどまでに損失が膨らんでしまったのか』を究明することであり、実は、ここに「"負け組"が"負け組"になってしまった最大の敗因」が存在するのです。

では再度【別表3】のデータをご覧ください。注目していただきたいのは、平均損益ではなく、平均取引日数です。勝ち組と負け組の決定的な違いがここに現れています。"負け組"は利益となったトレードの日数は、"勝ち組"の約半分です。一方、損失のトレードは"勝ち組"の2倍超の時間を費やしていることが確認いただけると思います。この"負け組"のトレードを"創作四文字熟語"で表しますと、「損長利短」となりますが、これを単に結果論であると片付けてしまってはいけません。先ほどの「損小利大」とは違って「損長利短」は改善することが可能であるからなのです(続く)。

執筆者プロフィール : 久保修眞(くぼ しゅうま)

ひまわり証券 情報企画チーム マネージャー。大学卒業後、一貫して先物取引やFXを中心とした相場関連業務に従事。30年にわたる経験で培われた相場やトレードに対する深い洞察力をベースに、現在は投資セミナーの企画・プロデュースや、メールマガジン『どるうえざー』の執筆活動などを展開している。著書に『為替取引・7日間速攻ゼミ-誰にでもできる身近な資産運用』(同友館)などがある。