ITジャーナリストの久原健司です。前回、国が地方創生とITに力を入れ出した背景についてお話しましたが、今回から具体的に地方創生にITを活用した例についてご紹介します。

1.IoTを活用した農山漁村の灯油難民防止等に向けた実証実験

  • 灯油タンクのふたにセンサーを取り付け、毎日の残量を可視化

    灯油タンクのふたにセンサーを取り付け、毎日の残量を可視化

北海道新篠津村で行われたこの実験は、総務省主催の「ICT地域活性化大賞2019」で大賞/総務大臣賞を受賞した案件です。

同賞は、ICT(情報通信技術)を活用して、地域が抱える様々な課題を解決し、地域の活性化を図るため、自律的な創意・工夫に基づき地方公共団体や地域団体、民間企業等がICTを利活用している事例を広く募集して表彰するものです。この実験は中でも高い評価を得たのですが、具体的にどのような内容なのかを見ていきましょう。

総務省の説明には、「IoTで灯油残量を可視化した効率的配送」とあります。北海道は冬の寒さの厳しい寒冷地です。人口減少・過疎化が進んだ地域では、最も重要なライフラインのひとつである「灯油配送」の採算性悪化・人手不足が生じて、将来、「灯油難民」とも言うべきエネルギー弱者が生まれる懸念があります。そこで、行政・灯油配送業者・IoT関連企業が協力して、低コストなスマートセンサーと低コスト通信サービス(LPWA等)を使った効率的な灯油配送システムの地域実証実験を新篠津村で実施したところ、大きな成果を得たということです。

つまり、灯油タンクのふたに、タンク内の灯油の残量を測れるセンサーを取り付け、毎日の残量を可視化したことで、必要なタンクに必要なタイミングで灯油を配送することができるようになったのです。その結果、給油回数は約20%削減、配送日数は約36%削減できたと報告されています。最適な量の灯油だけ、最適なルートで運ぶことができれば、とても効率的だと思います。

他の地域、灯油以外の用途でも活用可能

前回もお話しましたが、ITを導入する際に、高いコストをかけて新しい商品を開発する必要はなくて、既存のセンサーを活用し、少し改良することで解決できます。

この案件に、センサーを活用したデータ収集システムを提供したゼロスペックの代表取締役・多田満朗氏によると、導入したセンサーは、もともとあった部品と基盤を組み合わせ、低コストで作ったものとのこと。すでに使用されている灯油タンクのふたと同じものにセンサーを取り付けているため、ふたを取り替えるだけで設置できるそうです。

この案件は大賞を受賞していますが、センサーの仕組み自体は、水面までの距離を測るというシンプルなものです。したがって、もし、他の自治体や地域などでも同様のものを導入したい場合、既存のサービスや商品をうまく活用することで解決できるはずです。そこで、また新たなものを開発する必要はないのです。

実際、ゼロスペックのシステムは、北海道での実証実験後、他の地域から灯油以外の用途でも需要があり、北海道から沖縄まで納品しているそうです。

IoTが地方の問題を解決する

また前回、5Gによって、様々なサービスの拡大が見込める話をしましたが、今回の案件は、通信速度が速い5Gとは逆に通信速度が遅いLPWAを使っています。LPWAは長距離の通信が可能な上、コイン電池1個で10年稼働できるなど、バッテリーの寿命が非常に長いのも特徴です。スマホのように多くのデータについて即時性の高い処理をする必要がある場合は、5Gが適していますが、一方で今回のように一日数回計測すればいい、あまり即時性を重視していないサービスにはLPWAが適していると考えられています。

IoTの目的の多くは「遠くに離れたモノや、現場で起こっているコトをデジタル化する」ことです。例えば、インターネットのECサイトでは、買い物客がどのような商品に興味があるかを検索したデータや、ショッピングカートに入れた情報をもとに、足取りをデータ化し、すでに活用しています。

IoTデータは、実生活に設置されたモノから情報を取得しており、そのデータを分析することで、人々が実生活でどのようなサービスや商品に興味があるかがわかるだけではなく、効率的な人員配置やサービス提供を行えるようになりますので、少子高齢化の日本にとって、特に地方の問題を解決する重要な方法のひとつなのです。