ITジャーナリストの久原健司です。前回、地方創生にITを活用した群馬県前橋市の例をご紹介しましたが、今回は和歌山県白浜町の例についてお話しします。

3.白浜町におけるパブリッククラウドサービスを利活用した先進的テレワーク推進及び生活直結サービス構築・検証事業(和歌山県白浜町)

  • 和歌山県白浜町のテレワーク

    和歌山県白浜町のテレワーク

白浜町のテレワーク事業は、「ICT地域活性化事例 100選」に選ばれています。平成28年11月に、NECソリューションイノベータが「平成28年度予算 ふるさとテレワーク推進事業」を活用して、白浜町に南紀白浜サテライトオフィス(白浜センター)を構えました。

入居先は、白浜町役場が運営する「白浜町ITビジネスオフィス」。海岸を見下ろす眺望の良いオフィスで、「観光リゾートモデル」のふるさとテレワークを実施しました。また、子育て・防災等に関する生活直結サービスの提供も行っています。

  • 海が目の前に広がる白浜町ITビジネスオフィス

    海が目の前に広がる白浜町ITビジネスオフィス

実証の結果、地方移動人数は27人、地元雇用人数は4人の成果があり、サテライトオフィスは現在も継続して利活用され、同社を含めて9社の企業が入居し、満室状態だそうです。さらに、平成30年6月にオープンした「白浜町第2ITビジネスオフィス」も、全4室がわずか数カ月で満室になっています。

白浜町によると、移住のサポート(引っ越し、転居、住む場所の提案等)のほか、企業同士や地元の若者との交流も積極的に行っており、これらのオフィス新設や移転を通じて、100人以上の人が白浜町で雇用されたということです。

  • 白浜町第2ITビジネスオフィスの外観

    白浜町第2ITビジネスオフィスの外観

テレワークが進まない理由

テレワークは今盛んに言われていますが、なかなか進まない理由は、行き先が不便なことです。地方に行ってみると、買い物する場所も遠いし、遊ぶところは少ない。仕事をするだけだったらいいのですが、実際には生活がありますので、本音では「不便なところには行きたくない」となってしまいます。

さらに率直な話として、システム開発はパソコンがあれば、全国各地に散らばっていても同じような生産ができると思われているのですが、それは勘違いです。各技術者のスキルのばらつきもありますし、何より人はそれほど物事を伝えることが上手ではないので、電話やネットのチャットなどで連絡を取り合ったとしても、なかなか思うように伝わらなかったりします。それよりは、実際に人が横にいて、「これがこれで、これをこうして、ここを見てください」と直接話して指示したほうが、断然早くて効率的です。だから、あまりにも分散しすぎるのは逆に非効率的になってしまうのです。

  • 飲食チェーン「サブライム」の白浜事務所

    飲食チェーン「サブライム」の白浜事務所

「地方に住みたい」と思えるのは、都会の家が狭いというほかに、海が好きだとか、現地に高い付加価値があってこそではないでしょうか。単にテレワークがしたくて、地方に行く人はあまりいないと思います。

仮に海があって、いい波があるのなら、テレワークだけを目的とせず、例えばパソコンで仕事ができれば、サーフィンやダイビングがやりたい放題といった条件が揃っているとか、近くに巨大なショッピングモールがあるなど、生活に便利だったら行くかもしれません。つまり地方は、その場所の「強み」で勝負したほうがいいということです。

地方移住を成功させるカギ

  • 白浜町のビーチ

    白浜町のビーチ

また、衣食住の中で特に住は高額ですから、住居の問題は大きいのですが、特に結婚した人は、ただ「家賃や物価が安いから」で移住はしないでしょう。もし、広さが120平米ぐらいの住宅があって、その上で洗濯物は全部メイドさんがやってくれるとか、ホテル暮らしのような生活が可能だったら行く人はいるような気がします。

あるいは、子どもの教育に関して非常に充実しているということでしたら、移住の動機になる可能性があります。いじめやハンディキャップなど、子どもの問題を抱えている親は多いと思いますが、そうした問題を解決してくれるのであれば、地方に移住することも考えられます。

私が今注目しているのは「イエナプラン教育」です。ドイツで生まれ、オランダで普及しているオルタナティブ教育のひとつで、今年4月に長野県に日本初の学校がオープンしたのですが、学年で分けるのではなく、異なる年齢の子と一緒にグループを作り、一人ひとりを尊重しながら自律と共生を学ぶのが特徴です。この学校があるところで、仕事や生活の環境が整っているとしたら、私自身も移住する可能性は考えられます。

このように、仕事だけでなく、生活に関する問題を解決してくれる環境が整っていれば、地方が魅力ある移住先として捉えられるのではないかと思います。他の地域の成功事例は、どんどんオープンにしてコピーしていき、それを各地で広めていけば、日本全体に成功例が増えていくということになるのではないでしょうか。

執筆者プロフィール:久原健司(くはら・けんじ)

株式会社プロイノベーション代表取締役・ITジャーナリスト
1978年生まれ。2001年東海大学工学部通信工学科卒業後、ITの人材派遣会社に入社。大手コンビニエンスストアのPOSシステム保守運用業務を担当する。2003年からソフトウェア開発会社で、システムエンジニアとして、大手通信会社のWebアプリケーションシステム開発など多くの業務に携わるも、2006年、小さい頃からの夢であった独立を決意。2007年(29歳)に株式会社プロイノベーションを設立し、当時としては珍しいオブジェクト指向によるモデリング開発でのサービス提供を始める。また、2018年「振り向くホームページ」サービスを開始。プロのフリーランスを集めて企業の成長をサポートすることで、フリーランスとしての働き方を応援する傍ら、日本一背の高いITジャーナリストとして様々なwebメディアで執筆。また「キャッシュレス決済」についてのセミナーや講演会も全国各地で精力的に行っている。