ITジャーナリストの久原健司です。前回、地方創生にITを活用した北海道新篠津村の例をご紹介しましたが、今回は群馬県前橋市の例についてお話しします。

2.マイナンバーカードを活用した高齢者等への移動支援(群馬県前橋市)

  • マイナンバーカードでタクシーを利用

    マイナンバーカードでタクシーを利用

総務省の「ICT地域活性化大賞2019」奨励賞を受賞した前橋市の案件は、もともと市で平成28年から実施していた、高齢者らの移動困難者へのタクシー運賃補助制度「マイタク」に、マイナンバーカードを活用したものです。

マイタクは、2019年3月現在、登録者数約24,000人、月間で約25,000件利用されています。運用にあたっては、毎月約25,000枚に及ぶ利用済み利用券の回収や、利用実績の入力・確認等の膨大な事務負担がタクシー会社と市役所に発生していました。そこで、平成30年1月から、利用登録証及び利用券をマイナンバーカードで電子化し、利用者が乗車時に車載タブレット(市内全てのタクシーに配備)にマイナンバーカードをかざすだけで利用できるようにしたということです。

結果的に、利用者の利便性は向上し、タクシー会社や市役所の事務負担やコストの大幅な縮減が実現できました。さらに、GPSデータを活用して利用実態を把握したり、ビッグデータの分析によって交通政策等へ反映したりといった付加価値も生まれたそうです。平成31年3月時点では、3,000人以上がマイナンバーカードでマイタクを利用していると報告されています。

国が推進するMaaSとは?

最近、高齢者の運転が問題になっていますが、地方では特に交通手段が限られる上、自家用車を運転する人の高齢化が進んでいます。自動車メーカーが自動運転車の開発を頑張ってはいるものの、実用化へはまだ時間がかかると思われます。そこで、地方での移動を便利にするサービスをITの活用によって考えてみたいと思います。

記事やニュース等で MaaS(Mobility as a Service 「マース」)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは、国土交通省では「出発地から目的地までの移動ニーズに対して最適な移動手段をシームレスに一つのアプリで提供するなど、移動を単なる手段としてではなく、利用者にとっての一元的なサービスとして捉える概念」と定義しています。

簡単に説明するとGoogle Mapで目的地を入れた場合、電車やバスなど複数の交通手段を跨いだ移動ルートは検索結果として出てくると思いますが、運賃の支払いは各事業者に対して個別に行う必要があります。この支払いに関して、スマートフォンから行えれば、利便性が高まるだけではなく、支払いでのタイムロスがないので移動の効率化につながり、交通渋滞の緩和が期待できます、また地方での交通弱者対策などの問題解決に対しても役立てようとする考え方となっています。

利用者は、主にスマートフォンのアプリを用いて、交通手段やルートを検索、利用し、運賃等の決済を行います。こうしたサービスを、地方自治体でも積極的に活用することで、問題解決につながるのではないかと考えられます。

市内での移動を考えた場合、たとえば、市役所に用事があって行きたいという人がいるとします。そこで、市役所に勤める職員が、通勤時に自分の車にその人を乗せていく。あるいは、高齢者にとっては病院も重要ですが、病院の職員が通勤する時に、病院に行きたい人を乗せていき、乗せてもらった人がガソリン代を払えば、お互いウィンウィンです。現在は法的な規制があり、すぐに実現することは難しいとはいえ、そうした人たちをマッチングするサービスがあったら、便利ではないでしょうか。

仮に、もしこれを実用化しようとした場合でも、わざわざ地方自治体が数千万円かけてアプリなどを作る必要はありません。相乗りタクシーのようなサービスは、すでに長距離ライドシェアの「notteco(のってこ!)」など、既存の民間サービスがありますので、そうしたものを活用すればいいのです。

交通のサブスクリプションは可能か?

もうひとつ考えられるのは、最近人気のサブスクリプション(定額制)のサービスです。映像配信のNetflixや音楽配信のSpotifyなどは、実際に利用したことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

それの交通版ともいえるのが、東京都のシルバーパスです。70歳以上の都民が利用できる定額の乗り放題サービスで、住民税が課税の方は20,510円、非課税などの方は1,000円で1年間、都内の電車やバスが乗り放題になります。

ただし、これを利用するには、健康保険証や運転免許証などの書類を窓口に持って行って申し込みをしなくてはいけません。とても面倒だと思うのですが、もしマイナンバーカードを持っているだけで、そのまま電車やバスに乗る時に提示して、自動的に運賃が無料になったり、割引になったりするようにすれば、はるかに便利だと思います。さらに、利用状況のデータによって、利用者が何時にどこから乗って、どこで降りたかがわかれば、「おじいちゃんが出かけたまま帰ってこない」などという場合も、その足取りをたどることができます。

とはいえ、交通の定額制は、映像や音楽のようにダウンロードするだけというわけにはいきません。運営にはガソリンや運転手が必要で、どうしてもコストがかかります。実はそこが似ているようで違うビジネスモデルなのです。現状の交通サービスとの兼ね合いもありますし、利用者数とのバランスによって価格設定の問題も出てきます。

したがって、交通手段の整備は国や地方自治体が税金を使って公共事業としてやるしかないでしょう。それでも、前橋市くらいの都市だったら可能かもしれませんが、過疎地では難しいと考えられます。ですから、先ほどの市役所や病院へ行く例を挙げたマッチングアプリのようなものが必要となってくると思います。

執筆者プロフィール:久原健司(くはら・けんじ)

株式会社プロイノベーション代表取締役・ITジャーナリスト
1978年生まれ。2001年東海大学工学部通信工学科卒業後、ITの人材派遣会社に入社。大手コンビニエンスストアのPOSシステム保守運用業務を担当する。2003年からソフトウェア開発会社で、システムエンジニアとして、大手通信会社のWebアプリケーションシステム開発など多くの業務に携わるも、2006年、小さい頃からの夢であった独立を決意。2007年(29歳)に株式会社プロイノベーションを設立し、当時としては珍しいオブジェクト指向によるモデリング開発でのサービス提供を始める。また、2018年「振り向くホームページ」サービスを開始。プロのフリーランスを集めて企業の成長をサポートすることで、フリーランスとしての働き方を応援する傍ら、日本一背の高いITジャーナリストとして様々なwebメディアで執筆。また「キャッシュレス決済」についてのセミナーや講演会も全国各地で精力的に行っている。