「毎日のように怒ってしまう」「言うことを聞いてくれなくて困る」「夫(妻)と育児方針がかみ合わない」……などなど、育児に悩みは尽きません。特に、毎日忙しく過ごしている共働き夫婦なら尚更でしょう。ここでは、育児中のマイナビニュース会員に"育児の悩み"についてアンケートを実施。寄せられたお悩みに対して"どのようにすべきか"を、NHKの育児番組でキャスターを務めた経験を持ち、現在は育児のセミナー講師や書籍執筆なども行っている天野ひかりさんに、アドバイスしてもらいます。

  • 「叱りたくないのに……」ほめて育てた子との違いはあるの?

    「叱りたくないのに……」ほめて育てた子との違いはあるの?

「叱りたくないのに、今日もイライラ怒ってしまって自己嫌悪」「ほめて育てたいのに、ほめるところが見つからない」でもちょっと待って、ほめることは、そんなに大切でしょうか。親子コミュニケーションアドバイザーがお答えします。

「もうそろそろお片づけして!」――お父さんお母さんが、子どもに言うことばナンバー1、と言われています。

前回でも考えたように、指示してやらせることに意味はありません。大人だって、指示されたら嫌な気持ちになりますよね。子どもだって同じです。では、なんと言えばいいのでしょうか。

「そろそろ片付けて、おいしい夕食にしようよ」――つまり、指示するのではなく提案です。

目指すのは「指示待ちの子」ではなく「自分で決められる子」

決めるのは、子ども自身です。ですから提案に対して、「もうちょっと遊びたいから、このまま片付けないー」という日もあれば、「うん!お腹ぺこぺこだから、早く片付けてご飯にする!」という日もあるでしょう。

もっと賢くなれば、「途中だけど、一旦片付けて、この続きは明日やる!(ご飯の後にやる)」と考える力が進化していきます。

この繰り返しで、子ども自身が自分で考え、片付けをしたり、遊びを最後までやり遂げたり、さらには、遊びの途中でも片付けてご飯を食べる方がいいことなどを学びとっていきます。

"指示待ちの人"ではなく、"自分で決められる人"に育っていくのです。

子ども自身が決める機会は日常会話にあり

親はこちらの言うことを子供に聞かせなければ!と思うから「なんで言うこと聞かないの?なぜ片付けないの?」とイライラ怒ってしまうことになるのです。

"怒ること"がだめというより、こちらの指示に従わせて"子どもが考える機会を奪うこと"がよくないと思います。考えて決めるのは、子ども自身です。

でもそれはわかっていても、余裕のある日ばかりではありませんよね。譲れない時もあります。さらには、兄弟がいればその中で決めることが違ったりもします。「ぼくは、もっとあそびたい!(兄)」「ぼくはお腹すいた!(弟)」といった具合に。

そんなときのために、行うコミュニケーションがあります。

まずは、「そうだよね。もっと遊びたいよね」とお兄ちゃんの気持ちを受け止め、「そうだよね。もうお腹すいたよね」と弟の気持ちも受け止めます。黙認ではなく、声に出すことが大事です。

その後で、「わかるよ。でも、お父さん(お母さん)が帰ってきた時にスッキリしたお部屋で、4人で美味しくごはんを食べたいんだよね!だから、きょうのところは、お部屋を片付けてくれると助かるんだけど。お願いできるかな?」と親の考えを伝えます。

子どもたちは、日頃、自分の気持ちを受け止めてもらっているので、意外に素直に親のお願いを受け入れてくれるはずです。が、さらに続けます。「この遊びの続きは、明日(日曜日)やろうね」と。

つまり、自分の要求を通すためには、相手のメリットを必ず提案すること。これを小さい頃から親がお手本として見せることで、将来、プレゼン力を身につけた大人になります。そして親は明日やる、という約束は必ず守ってくださいね。口だけだと逆効果です。

ほめて育てるは正解か?

では、叱らずにほめた場合も考えてみましょう。

「もうそろそろお片づけして!」――親が指示した時、「はい!」とすぐにお片づけしてくれるお子さんもいます。

そして親は、「言うこと聞いてお片づけできるなんて、本当にお利口さんね」とほめてしまいがちです。では、この子どもは本当にお利口さんでしょうか。子どもの心の中を見てみましょう。

子どもは、自分がどうしたいのかを考えるより、ほめられることや親の喜ぶことをしようと考えてしまうのです。とても健気です。

そしてこれが続くと、自分の本音や、好きなこと、やりたいことがわからない子に育ってしまうおそれがあります。

実は、お利口さんとほめて育てられると、親の望むことはわかるけど、自分のやりたいことを考える機会が減り、「自分の人生を歩んでないのではないか」と悩む高校生、大学生がとても多いのです。

さらには、「もし、親の言うことを聞かなかったら、私はダメな子なんだ」と自分を否定するようになってしまいます。せっかくほめたのに、ほめ方を間違えると、自己肯定感が育てられないのです。

条件付き(〇〇できたから)でほめるより、子どもが自分で考え、やろうとしたことをそのままを認める言葉をかけることで、「私は私だから大丈夫」と、自己肯定感は育ちます。「お片づけすることにしたんだね」とか「遊びを最後までやり遂げることにしたんだね」など。

つまり、ほめることも、叱ることも、実は親の望むことを押し付け、子ども自身が考える機会を奪う行為という点では同じなのではないでしょうか。

親が指示してほめたり叱ったりしてやらせるより、子どもが考えて決められるように心がけたいですね。そのために、お子さんの気持ちや考えを育む器の大きな子を育てることばをかけていきたいと思います。