企業の経営層は、過去にどんな苦労を重ね、失敗を繰り返してきたのだろうか。また、過去の経験は、現在の仕事にどのように活かされているのだろう。そこで本シリーズでは、様々な企業の経営層に直接インタビューを敢行。経営の哲学や考え方についても迫っていく。

第14回は、冷凍×ECで楽しく食事管理ができるサービスを提供する株式会社Muscle Deliの代表取締役社長CEO、西川真梨子氏に話を聞いた。

経歴、現職に至った経緯

まずは経歴について。西川氏は関西学院大学出身。卒業後は繊維メーカーに就職し、営業職として勤務。大手総合スーパーマーケットや化粧品メーカーに向け、衣料品や雑貨の商品開発や生産管理を行っていたという。2013年、株式会社ASOBIBAを創業。エンターテインメント施設の立ち上げや運営事業を手掛けた。

その後、西川氏はコンサルティング会社に転職。大手企業の新規事業立ち上げや社内ベンチャー制度支援に携わったのち、2016年に株式会社Muscle Deliの創業に至った。設立に至った理由について、西川氏は自身が食事の重要性を実感したことを挙げる。

「29歳のとき、歳を重ねてもずっと綺麗でいたいと思い、ジム通いを始めたんです。その中で、運動と同じくらい食事が重要だと知りました」

ただ、食の重要性を理解したところで、「実践するのは大変だった」と西川氏は振り返る。自分に合った栄養素を計算し、実現するメニューを準備するには時間も手間もかかる。仕事が忙しくなると、その時間が取れず、つい「毎日コンビニでサラダチキンを買うように」なってしまったそうだ。

「もともと食べることが好きだったこともあり、楽しみを削ってつらい思いをするのが正解なのかと思うようになり、挫折しそうになりました」

そんな西川氏が出会ったのが、欧米にある「マッスルミール」というサービス。栄養が計算されたさまざまなメニューが自宅に届くサービスだ。「こんなサービスを使いたい!」と思った西川氏だったが、当時の日本にマッスルミールのようなサービスはなかった。そこで、自ら会社を立ち上げてサービスを始めたのだ。

会社概要について

Muscle Deliでは、会社名と同じ「Muscle Deli」と「YOUR MEAL」という2つのブランドの宅配事業を展開している。「Muscle Deli」はボディメイクやダイエットに最適な食事を提供するもの。メニューは管理栄養士が監修し、サブスク型で全国に提供している。

「プランは減量・維持・増量・低糖質の4つ。メニュー数は50種類以上です。冷凍状態で届き、電子レンジで温めるだけで栄養バランスの優れた食事を美味しく召し上がっていただけます。管理栄養士やトレーナーによる食事相談や栄養セミナーも提供していまして、楽しく食事管理をしながら理想の体を実現できるサービスです」

もう1つのプラン「YOUR MEAL」は、2022年に新しく立ち上げられたブランドだ。「YOUR」の名の通り、一人ひとりに最適な食事を届けるカスタマーミールデリバリーサービスで、自社開発したオリジナル食事診断により、その人の目的や体組成、日々の生活や嗜好性から必要な栄養素の分析を行っている。

「診断結果に基づき、約11億パターンの中からその方に最適な食事を冷凍した状態でご自宅までお届けしています。『Muscle Deli』と同じように、電子レンジで温めるだけで手軽に最適な食事を摂っていただけます」

現場の声を聞き、ビジネスモデルを大きく転換することに

新ブランドも立ち上げ、事業を伸ばしているMuscle Deli。しかし、過去にビジネスモデルを当初の想定から大きく転換したことがあったのだという。

「欧米にあるマッスルミール事業を日本でもやりたいと思ったのがきっかけだったので、当初は欧米のビジネスモデルをそのまま日本で展開しようと思っていました。でも、それが難しかったのです」

マッスルミールのビジネスモデルは、2016年当時はまだあまりなかったゴーストレストランとサブスクリプションとを掛け合わせたようなもの。立ち上げ時、西川氏は友人が経営するバーの昼間の時間帯を借り、自社で調理し、フィットネスジムにテレアポを取り、営業に行った。

「ジムのオーナーの反応は『こういうものが欲しかった! めちゃくちゃいい! でも、うちでは取り扱えない』というものばかり。理由は賞味期限と売れ残りの問題でした。日本では食品の規制が厳しく、調理したお弁当の賞味期限は数時間しかありません。ジムでお客さんに提供するタイミングが難しかったのです」

そこで、西川氏がもう1つ考えたビジネスモデルが、冷凍したメニューをECで販売するスタイル。しかし、このビジネスモデルには、豊富なメニューと多様な栄養パターンの食事を工場で製造してもらうだけの資金が必要であり、売れなかった際のリスクも背負うことになるという課題がある。さらに、食品工場の姿勢もハードルとなった。

「歴史が長く保守的な会社が多く、ネット上にも十分な情報がないんです。ようやく情報を得て、工場に『こういう商品を作ってほしい』とテレアポをしても、なかなか話を聞いてもらえない。話を聞いてもらえたとしても、ロットの少なさと品種の多さを理由に断られてしまってばかりでした」

繰り返し断られながらも、可能性のありそうな工場を代わりに紹介してもらったり、工場の探し方を教えてもらったりと、「何かを得られるまでは電話を切らない」執念でコンタクトを取り続けた西川氏。その執念が実り、新しいことに前向きな専務のいる工場との出会いを得る。その出会いのおかげで、冷凍×ECのビジネスモデルを構築できたのだ。

大切なのは「行動すること・ユーザーの声を聞くこと・執念を持つこと」

  • 会社のメンバーたちと

立ち上げ時の苦労から、西川氏は「行動すること、ユーザーの声を聞くこと、執念を持つことの大切さを実感しました」と語る。

当初の想定からビジネスモデルを転換できた最初の要因は、フィットネスジムにひたすらテレアポし、オーナーの話を聞いたことだ。当初想定していたビジネスモデルは、欧米のビジネスモデルを日本でもそのまま実現できるだろうと考え、ネット上の情報と卓上の議論、数名へのヒアリングで組み立てたものだった。しかし、実際にジムオーナーにヒアリングをしてみた結果、課題が浮き上がってきたのだ。

「プロトタイプの商品を見せながら、決済権者の意見を数十件聞き、当初のビジネスモデルの難しさを実感しました。この経験から、新しいことを立ち上げ、投資する際には、実際にユーザーとなる方など、リアルな現場の声を多く聞くことが大切だと気づけました」

もう1つの学びが、執念の大切さだ。多くの食品工場から断られても、諦めることなく行動し続けた結果、製造を引き受けてくれる工場と出会えた西川氏。「100件断られても、101件目は受け入れてくれるかもしれない」と語る言葉には説得力がある。

就活生・若手ビジネスパーソンにメッセージを

最後に、就活生・若手ビジネスパーソンに向けてメッセージをもらった。

「Muscle Deliの行動指針には、『挑戦し、学び、活かす』というものがあります。やりたいことや想いがあるのであれば、どんどん行動して挑戦してください。もし失敗しても、それを教訓にし、今後の行動に活かせれば、その失敗は学びになります。失敗を失敗で終わらすのも、学びや経験に変えるのも自分次第。失敗を乗り越えれば乗り越えるほど、大きな挑戦ができるようになり、器の大きな人間になれるでしょう」

失敗を恐れず挑戦し、途中で諦めずに試行錯誤しながら行動を続ける。その繰り返しがあるからこそ、大きな成功に繋がっていくのだ。西川氏は「人の批判や評論をして行動しない人よりも、行動して挑戦する人の多い社会の方が、きっと楽しく発展していけると思います」と笑顔で締めくくった。