寝苦しい夜が続く今日この頃。真夏の暑さを吹き飛ばすべく、3人のお笑い芸人に奇妙な体験について語っていただきました。涼しさとともにほかのなにかがやってこないよう、ご注意ください……

今回の語り手は、お笑いコンビ「井下好井(いのしたよしい)」の好井まさお。彼の家族にまつわる奇妙な体験です。

  • 井下好井・好井

    「井下好井」の好井まさおさんは幼い頃からたびたび奇妙な体験に遭遇してきたという

『黒い人……』

僕の実家では、毎年正月に家族で父のお墓参りに行くのが恒例でした。

ある年、お墓参りに行こうと家族で歩いていると、甥が、僕の母、つまり彼のおばあちゃんを指差して「ばぁばが死ぬで」と言ったんです。

なんだかイヤな感じがしたのですが、母は昔から体が丈夫で、そのときも健康そのものだったので、僕は「なに言ってるねん」と流そうとしました。

でも甥は真面目な顔してさらに言いました。

「ばぁばの後ろに黒い人がいる」と。

その3カ月後、芸人として東京で活動していた僕に姉から電話があり、母が末期がんで余命が3カ月だとわかったと知らされました。

僕は動揺しながらも、お墓参りのときの甥の言葉を思い出していました。そしてしばらく仕事を休み、大阪に帰って母のそばにいることにしたんです。

毎日母が入院している病院に行っていたのですが、たまに甥も連れて行くことがありました。そのとき、母は病院の3階に入院しているのに、甥は毎回必ず、なぜか2階の2204号室に行こうとするんです。

そこは誰もいない病室で、僕はまた「気味が悪いな」と思っていました。

  • 「黒い人」 - 井下好井・好井の話

    誰もいない2204号室には……

それから数日後、病院から母の容態が急変したのですぐにきてほしい、と電話があり、僕たちは慌てて病院に駆けつけました。

母がいるはずの3階の病室に向かおうとしたところ、看護師さんに「お母さんの病室が変わりました」と言われ案内されたのが、あの2204号室だったんです。

「え……」

と思いながらも病室に入ると、母はもう酸素マスクをつけていて、心拍も弱まっている状態でした。

そばに寄り添っていると、母がなにかを言おうとしているようだったので、マスクをはずして「どうしたん」と耳を近づけました。

すると母は、上のほうを見ながら「これ、誰や」と言うんです。

僕は「(親戚の)○○おばちゃんやん」と答えたのですが、母はさらに声をしぼり出すようにしてつぶやきました。

「ちがう、誰や、この部屋中にいる黒い人は」と。

そのまま母は亡くなりました。

ふと気づくと、一緒にきたはずの甥の姿がありません。彼はなぜか病室の外で待っていました。

母のことが大好きだったのにおかしいなと思い、病室の外にいる甥に「なんで入ってこないん?」と聞いたときの、彼の一言が忘れられません。

「真っ黒だから……。部屋が真っ黒だから入られへん」

井下好井・好井まさお

お笑い芸人。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。大阪府出身。2007年相方の井下昌城とお笑いコンビ・井下好井を結成。フジテレビ『人志松本のゾッとする話』にも数回出演。Netflixのオリジナルドラマ『火花』など俳優としても活躍している。