上越新幹線は1982(昭和57)年に大宮~新潟間が開業。来年は開業40周年にあたる。2004(平成16)年、熊谷~高崎間に新駅として本庄早稲田駅が開業し、現在も上越新幹線の中で最も新しい駅となっている。
どの新駅にも言えることだが、それまで宅地造成されていなかった土地に新幹線の駅が新設されても、すぐに周辺が繁華街へと姿を変わるわけではない。少しずつ宅地が造成され、それにともない商業施設が増えていく。
本庄早稲田駅の所在地は埼玉県本庄市早稲田の杜。その名が示す通り、早稲田大学の本庄キャンパスや、付属高校である早稲田大学本庄高等学院への最寄り駅となっている。駅周辺を見渡せば、チェーン系の店舗ばかりが目立つ。いかにもニュータウン然とした街並みに、これまでのニュータウンとほぼ同様の過程で開発されてきたことを感じる。
本庄早稲田駅の周辺が新しい街だと感じさせる点はいくつかある。中でも交差点に歩車分離信号機が目立つことは、新しい街と感じる大きなポイントといえるだろう。
歩車分離信号機は、一見するとありふれた光景のように思えるかもしれない。しかし、歩行者として交差点に立っていると、歩車分離信号は普段から慣れている一般的な信号と比べて、明らかにシステムが異なることに気づく。歩行者と車が分離されているため、歩行者用信号が青に変わるまで時間を要するのだ。
今後、車の自動運転など技術が進化し、さらには高齢化といった社会の変化により、交通は大きく様変わりするだろう。同時に、それらは街のあり方を根本から変える可能性を秘めている。
本庄早稲田駅は新幹線単独の駅で、在来線であるJR高崎線の本庄駅から約2.7km離れている。徒歩だと30分以上かかる距離で、両駅を結ぶバスも運行中だが、本数は決して多いとは言えない。両駅間の幹線道路沿いには、レストランや居酒屋といった飲食店が多く並んでいる。
本庄早稲田駅は地元からの請願によって開業したこともあり、駅周辺はのどかな雰囲気が漂う。平成に生まれた駅らしく、駅前広場は広大なスペースとロータリーが整備されている。その駅前広場には、旧児玉町が輩出した偉人、塙保己一(はなわ・ほきいち)の像が立つ。
塙保己一は江戸時代後期に活躍した学者。幼少期に失明しながらも学問に励み、著名な国学者として功績を残す一方、障害のある人々の社会的地位向上にも力を注いだ。歴史的にメジャーな人物とは言い難いが、埼玉県では今年のNHK大河ドラマ『青天を衝け』の主人公、渋沢栄一と並ぶ偉人とされ、「塙保己一賞」も制定されている。旧児玉町は平成の市町村合併により、2006(平成18)年に本庄市と合併。本庄市では引き続き塙の功績を称え、後世に伝える取組みを行っている。
開業から15年以上が経過した本庄早稲田駅の周辺は、開発が進み、少しずつ商業施設が進出している。駅北口に隣接して、群馬県を拠点とするベイシアグループが運営するショッピングモール「ベイシアゲート本庄早稲田」の広大な敷地が広がる。本庄早稲田駅は埼玉県の駅だが、群馬県に近いこともうかがわせる。
「ベイシアゲート本庄早稲田」は駅前に立地しているにもかかわらず、広大な駐車場が併設されている。近隣住民のみならず、遠方からも買い物客や飲食店利用者が訪れるのだろう。なお、同施設の核店舗でもあるホームセンターのカインズは、駅を挟んだ反対側に本社を構えている。
本庄早稲田駅の南口側はカインズの本社をはじめ、早稲田大学本庄キャンパスと早稲田大学本庄高等学院の敷地が広がっている。両校ともなだらかな丘陵地にあり、木々があふれる光景は、いかにも新しく切り開かれた土地といった雰囲気を残している。その一画に、旧石器時代からの文化財を展示する「本庄早稲田の杜ミュージアム」がある。一般にも開放されているため、企画展や講演会などで多くの人が利用する。
広大なキャンパス内を散策するのも良いが、それよりも駅北口から右手へ向かってみたい。すぐに男堀川が見えてくる。男堀川は全長約5kmの短い河川で、本庄早稲田駅から約2km西にある本庄児玉インターチェンジ付近から分水している。
男堀川は本庄早稲田駅の整備で流路を付け替えられたものの、いまも用水路としての機能を有し、また地域にとって重要な親水空間になっている。
近年、本庄市と地域住民、早稲田大学、地元企業が男堀川の清掃と水質改善に取り組んでいる。その効果は少しずつ現れ、河川の周辺で多様な生物が生息し、植物が増えるなど、植生の回復が見られる。堤防から川へ降りて遊べるようになっており、河川の周辺にて親子で遊ぶ姿も目にできる。
男堀川に沿ってさらに歩いていくと、丘陵地に整備された「マリーゴールドの丘公園」が見えてくる。公園と名が付くものの、とくに遊具などは設置されていない。小高い丘の上に設置された日時計がシンボルになっており、公園の入口から頂上にかけての斜面にオレンジ色のマリーゴールドが植えられ、秋のシーズンになると遠方から行楽客が訪れる。
丘の頂上は展望台のように整備され、空気の澄んだ晴天の日には、群馬県の三名山として知られる赤城山や榛名山を望むことができる。
本庄早稲田駅は開業時から少しずつ利用者数を増やしたものの、ここ数年は1日平均乗車人員数2,000人ほどで推移している。駅周辺では、官民が一体となり、駅周辺の駐車場と連携したパークアンドライドを推進。利用者を増やす取組みが行われている。
奇しくも新型コロナウイルス感染症の感染拡大でテレワークが推奨されるようになり、同時に郊外への注目が集まった。本庄早稲田駅から東京駅まで、新幹線に乗れば1時間もかからない。そうした要因もあって、駅周辺はアフターコロナ時代のベッドタウンとしても注目を浴びているようだ。