常滑駅は1913(大正3)年に開設され、以降、愛知県常滑町の玄関として機能してきた。常滑駅を開設した愛知電気鉄道は1935(昭和10)年に名岐鉄道と統合。これにより、中京圏に広大な路線網を有する名古屋鉄道が新たに発足した。駅が所在する常滑町も、1954(昭和29)年に周辺町村と合併。常滑市が発足している。

  • 常滑駅西口はバスロータリーなどが整備されている

高度経済成長期が始まる前の1953(昭和28)年には、常滑競艇場がオープン。長らくボートレースによる収益が市の財政を潤してきた。娯楽の多様化が進んだ平成期になると、ボートレースの人気はかげりを見せるが、2005(平成17)年に中部国際空港が開港。空港への足を確保すべく、終着駅だった常滑駅から中部国際空港駅まで延伸し、空港線が開業した。中間駅になったことで、常滑駅の存在感はやや薄くなったかもしれない。

ところで、常滑は平安時代から良質な陶土・陶石が採掘される地として知られ、窯業が盛んだった。常滑駅は海から近い場所に立地しているが、東口から内陸部へ歩いていくと、広場のような一画や歩道にやきものが飾られていることに気づく。

  • 駅東口はこぢんまりとした構造

  • 駅前に「やきもの散歩道」の看板と案内塔がある

  • 「とこなめ招き猫通り」

駅の南側を切り通した「とこなめ招き猫通り」の壁面には、市民によって制作されたやきものが並ぶ。それらを目にすると、いかに窯業が盛んな地であるかを実感する。

常滑駅から徒歩5分ほどの場所に常滑市陶磁器会館があり、ここを起点にAコース(約1.6km、所要時間約60分)・Bコース(約4km、所要時間約2時間30分)という2種類の「やきもの散歩道」が整備されている。迷路のような散歩道には、懐かしさを感じさせる風景と自然が残り、巨大な招き猫「とこにゃん」は人気の撮影スポットになっている。

  • 「やきもの散歩道」の起点になっている常滑市陶磁器会館。館内にギャラリーがある

  • 常滑駅周辺の一帯では、土管を擁壁代わりに使用している小道も

  • レンガでつくられた煙突が街に残っている

  • 「やきもの散歩道」のシンボルともいえる巨大招き猫「とこにゃん」

常滑の丘陵地では、かつて多くの職人が工房を構えた。工房では食器類やタイル・瓦といった建材をはじめ、衛生陶器などが制作されたという。やきものの街・常滑は、昭和の時代まで大いににぎわいを見せていた。

現在、そうした窯業は部分的に残っているものの、かなり数を減らしている。そんな中でも、陶芸家・作陶家が工房を兼ねた店を構えており、散歩道の道中でも、あちこちで登り窯が見られる。茶碗や皿、マグカップなど食器類・雑貨類を販売する店も目にできる。

食器類に詳しくないと、並んでいる作品はどれも同じように見えてしまうが、やきものは原材料や制作工程から、土器・炻器・陶器・磁器の4つに大別できる。作品を見ながら、その美しさや質感の違いを比べてみるのもいい。

Aコースの途中には、やきものの工房だけでなく、江戸時代に廻船問屋として隆盛を誇った瀧田家の屋敷や土蔵も復元されている。屋敷内に生活道具なども保存・展示されているので、休憩がてら当時の暮らしぶりに思いを馳せることもできるだろう。

  • 江戸・明治時代の生活用具などを展示している廻船問屋の瀧田家

  • 散歩道の途中にある登り窯広場は、途中休憩にもってこいの場所

Aコースの南端から外れ、さらに南へ歩くと、常滑街道が見えてくる。自動車の流れからだと、常滑街道は市域を東西に行き来する道路のように見えるが、実際は途中から南へと折れる街道になっている。街道が南へ折れるあたりから道路が急に細くなり、この細くなっている一帯が、昭和の時代まで常滑の中心市街地としてにぎわっていた商店街。往時の面影を残すクラシックな建物が残る。

商店街を奥まで歩くと、からくり時計広場があり、そこからさらに10分ほど歩いたところで、「INAXライブミュージアム」が見えてくる。「土・どろんこ館」「世界のタイル博物館」「建築陶器のはじまり館」など6つの館で構成され、まさに常滑の粋を集めた施設といえる。TOTOと並ぶ世界屈指の衛生陶器メーカーとして知られ、現在はLIXILの製品ブランドとして名を残すINAX。創業の地はここ常滑であった。

  • かつて多くの人でにぎわった商店街の中心にある時計広場

  • 「INAXライブミュージアム」は大きな煙突が目印

  • 「とこなめ陶の森」の建物は、数寄屋造の研究に力を入れていた堀口捨己が設計

「INAXライブミュージアム」から北側へ足を向けると、小高い丘が見えてくる。その中腹に「とこなめ陶の森」がある。「INAXライブミュージアム」は企業による博物館だが、「とこなめ陶の森」は市立の文化施設。資料館、陶芸研究所、研修工房の3施設で構成され、資料館は常滑焼に関する資料の収集・保存・研究を行う施設、陶芸研究所は平安時代末期から現代までの常滑焼などを展示する施設、研修工房は次世代の職人を養成するとともに、研修生たちの作陶風景を見学できる施設となっている。陶芸研究所は茶室を研究し続けた建築家の堀口捨己が設計した。稀代の建築家が設計した茶室は館内に残されており、見学も可能だ。

常滑は、同じく愛知県の瀬戸や滋賀県の信楽とともに、日本六古窯のひとつに数えられる。長い歴史とともに歩んできた窯業だが、いまは食器類や建材において、金属・プラスチックのシェアが増えてきている。同時に、窯業は後継者育成の観点からも遅れをとっている。

とはいえ、常滑の陶磁器はいまでも多くの人々に愛用され、とくに食器・工芸品の分野で根強い人気を保っている。近年、海外で制作される炻器のテーブルウェアが「ストーンウェア」と称して人気になっていることから、日本国内でも炻器による食器類を再評価する兆しが出てきているという。

次世代に向けた課題を抱えながらも、常滑は食器・衛生陶器・建材といったいくつもの分野で、私たちの生活を知らず知らずのうちに支えているようだ。