あなたの職場には、些細なことですぐ怒る人や思い通りにいかず不貞腐れる人など、怒り方が下手な「不器用に怒る人」はいないだろうか? よくわからない理由で突然キレる人、遠回しに嫌味を言ってくる人など、周囲の人から「面倒くさい」と思われがちな不器用に怒る人たち。「何でこんな怒り方しかできないんだ?」と不快に思いながらも、どうすることもできずにモヤモヤしているビジネスパーソンも多いのではないでしょうか。

そんな「不器用な怒り」が職場に蔓延すれば、人間関係がこじれて場の雰囲気が悪くなり、仕事のモチベーションも低下します。ともすれば、職場全体の生産性を大きく下げる結果にもなりかねません。これは組織にとっても大きな損失です。このような「不器用な怒り」と上手に付き合うためにはどうしたらいいのか、アンガーマネジメントを5回にわたって紹介していきたいと思います。

  • 人は、なぜ怒るのか?

アンガーマネジメントとは、アメリカで生まれた怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニングです。トレーニングですので、怒りの扱い方を覚えて毎日実践していくことで身につけることができます。「不器用に怒る人」とは、怒りの扱い方を知らないだけなのです。「怒り」の感情について正しく理解し、扱い方を覚えて練習することで「上手に怒る人」になることができます。

怒りの感情も怒ることも悪いことではない

怒り方が下手な「不器用に怒る人」を理解するために、まずは「怒り」という感情についてお話したいと思います。怒りは、嬉しい・楽しい・悲しいなどと同じで、誰もが持つ自然な感情の一つです。ですから、怒りを感じることは悪いことでもいけないことでもありません。「不器用に怒る人」と「上手に怒る人」の違いは何でしょうか? 両者とも「怒り」を感じてはいても、その感情自体は周囲の人からは見えません。その違いは、怒りを感じた時の表情や態度、発言や行動などの目に見える反応や表現方法の差なのです。

アンガーマネジメントは、怒りを感じない人になるのでも怒らない人になるのでもなく、怒る必要のあることには上手に怒ることができ、怒る必要のないことには怒らないようになることを目指しています。アンガーマネジメントができるようになれば、怒りを感じても上手に表現できるようになります。

なぜ怒る? 「自分の大切な『何か』を侵害されているから」

勢いよくまくし立てて怒鳴る人や言葉に出さなくても態度で怒っているアピールをしている人、職場のあの人はなぜ怒っているのでしょうか? それは、自分にとって大切な何かを「侵害されている」と感じているからです。

怒りには、自分にとって大切な何かを守ろうとする働きがあります。例えば、電話の声がうるさい同僚にイライラするのは、自分の時間や快適な空間を侵害されていると感じているからかもしれません。会議中、上司の提案に対して部下が意見を言った途端に上司が突然怒り出したのは、上司が「自分の提案をバカにされた」と思い、自分の「プライド」「仕事のやり方」「考え方」などを侵害されたと感じたからかもしれません。職場で起こったトラブルの原因が自分のミスだと理不尽に責められて憤りを感じるのは、自分の立場や尊厳を侵害されたと感じたからかもしれません。

自分の守りたいものや自分の大切にしていることは、人によって違います。異なる価値観の人ほど「守りたいもの」も違うため、あの人がなぜ怒っているのかを理解できないという場面に遭遇することもあるでしょう。日頃から自分や周囲の人が何を大切に思っているのかを知ることで、「不器用な怒り」に対処しやすくなります。

なぜ怒る? 「自分の理想や欲求通りにならないから」

私たちが怒りを感じるのは、「こうなって欲しい」「こうするのが当たり前」という自分の理想や欲求、願望などの「~するべき」が目の前の現実とギャップが生じている時です。自分の怒りの正体は、上司でも部下でも同僚でも取引先でもなければ、起こっている事象でもありません。怒りの正体は、自分が持っている「べき」です。

「メールの返信は、その日中に返すべきだ」と思っているから、翌日に返信してくる同僚にイラっとします。会議で一言も発しない部下にイラっとするのは、「会議では全員発言するべきだ」と思っているから。「こうあるべき」をたくさん持っているほど、あらゆる場面で怒りを感じます。また、譲れない「こうあるべき」という強い信念があれば、それが裏切られた場面では強く怒りを感じます。誤解しないでいただきたいのは、「べき」を持っていることがいけないことではありません。「べき」は、少なくとも本人にとっては正解であり、自分が多くの時間を過ごしてきた家庭、学校、職場環境から自然と身についてきた価値観の辞書のようなものだからです。

しかし、自分が「これは常識」「普通」「当たり前」と思っている「べき」が、相手と同じというわけではありません。相手には相手の「べき」があります。「べき」は、性別、年齢、国籍、職種、立場の違いでも人によって変わります。自分にとって普通だと思っている発言や態度が、誰かにとっての非常識に映ることもあるでしょう。自分はどのような「べき」を持っているのか、不器用に怒る人はどのような「べき」を持っているのかを知ることも、怒りと上手に付き合う方法として大切なことです。

次回は、イライラしたときのコントロール方法をご紹介します。