ICCパートナーズが開催した「ICCサミット KYOTO 2018」より、フィンテック業界のフロントランナー4社が議論するセッションを紹介する。
前回は「AI」、「サンドボックス」、「銀行業」をテーマに議論が展開した。今回はそこから発展した別テーマの議論となる。
メンバーはFOLIO 代表取締役CEO 甲斐氏、クラウドリアルティ 代表取締役 鬼頭氏、ウェルスナビ 代表取締役CEO 柴山氏、マネーフォワード 代表取締役社長CEO 辻氏で、進行をUBS証券 武田氏が務めた。
仮想通貨・トークン
武田氏:今日は議論したいことがたくさんあるので、次のテーマに移りたいと思います。辻さんが挙げてくださった「仮想通貨・トークン」が個人的に非常に気になります。オーディエンスの方々もきっとこれからどうなるの? と関心が高いのではないかと思います。ということで、まずはじめに辻さんがなぜ、このトピックを選んだのか? ということについてお聞かせください。
辻氏:様々なものがデジタル化・分散化していくと仮定すると、ユーザーに直接届けることが担保できれば、トークンが普通に発行できる世界になるかなと考えています。日本は仮想通貨が流行しましたが、顧客保護やマネーロンダリングなどの問題が残っています。そのため、規制を強化せざるを得ないし、それは正しい方向性だと思います。ただ仮想通貨の取引所を作るハードルは非常に高くなりましたが、取引所がなくても、たとえば現金とトークンを交換できる仕組みを作れば、世界の経済圏にくい込んでいけるかなと考えています。
また辻氏がもう一つ挙げたのが、仮想通貨がETFに選ばれるか否かだ。これは重要なポイントで、ETFとして認められると機関投資家の資金が流れることになり、規模が大きく変わるそうだ。
辻氏:いまの仮想通貨のプライシングは底値かもしれません。今後どうなるかわかりませんが、面白いことになるのでは? と個人的に思っています。
ここで、柴山氏より議論を深める意見が出された。
柴山氏:先ほどレギュラトリーサンドボックスの話がありましたが、日本の仮想通貨は、本来であればまさにサンドボックスで起こるべき出来事でした。仮想通貨が自由に発展し、その結果、当初予測してなかった事件が起きました。そしてファーストペンギンが数多く行政処分されています。今回の仮想通貨をめぐる一連の動きは、規制が発達していない領域で新しいビジネスを始めようとする人にはネガティブに受け止められると思います。皆さんはどう考えますか?
鬼頭氏:日本で起きたことがネガティブな結果になった一因として、適合性の問題もあると思っています。サンドボックスのようなインフォームド・コンセントを前提としたマーケティングが行われなかったので、保有者が適合していない人も含めて広範囲に広がってしまったのではないでしょうか。
鬼頭氏:仮想通貨をめぐる騒動があっても、それを社会実装の過程として支持するのはマウントゴックス時代からの知見を持っている方や、プロダクトの理解度が高い方に多い印象です。まずはブロックチェーン・テクノロジーの可能性やクリプトに興味がある人などのイノベーションに対する理解者に参加してもらい、閉じたなかで行えば、もっと違った形になっていたと思います。
辻氏:金融のプロである鬼頭さんからみて、クリプトはアセットクラスになると思いますか?
鬼頭氏:金や株のような機能やネットワークそれ自体に価値があるものになるでしょう。
仮想通貨の可能性や経済圏に及ぼす影響を肯定的にとらえる議論のなか、甲斐氏は「スタンダードになるために何が必要か?」という視点の不足を指摘した。
甲斐氏:ICOはプライマリーマーケットです。コインの発行はできても、セカンダリーマーケットがないと資産になりません。この二つのマーケットがうまく成立・機能しないと、資産と捉えられないし、マーケットメイクは流動性がないと難しい。ここをきちんと考えておかないといけないと思います。
ここで甲斐氏は、メタップスの「タイムバンク」をたとえに説明した。同サービスは様々な時間を売買できるマーケットプレイス。ユーザーは、専門家が販売する時間を購入、使用、売却、保有することができ、専門家は隙間時間を収益に変えることができるとしている。
甲斐氏:すごくおもしろいアイデアですよね。今後伸びていくサービスだと思っていますし、その前提でお話しますと、まだまだ需要側が供給側と比較して少ないのでマーケット機能を持つのがまだ難しいフェーズかなと思っています。
ICO以降に資産価値を持たせるには、流動性とボラティリティをいかに作るかが課題だと甲斐氏は指摘し、同氏はそれをFOLIO上で実現したいと語る。
武田氏:その通りですね、マーケットメイクできるパワーがあるかどうかは大事な部分ですね。
鬼頭氏:流動性の部分はテクノロジーで解決できないでしょうか?
甲斐さん:難しいと僕は思います。マーケットメイクって、まずは自社でマーケットリスクをとって在庫を抱えながらやって行くんですが、流動性がない状態でボラティリティだけが高いものをマーケットメイクして行くのは非常にチャレンジングだと思うのです。例えば「さるぼぼコイン(飛騨信用組合が発行する地域限定の電子通貨)」ってありますよね? あれだけの流動性があれば、マーケットメイクできると思います。でも必ずしも全てのICOトークンがそうではないかなと感じます。
辻氏:上場時の審査を受ける際、管理体制を強化や労務や就業規則などの見直しなどを行いました。売買による流動性を高めるためには、こうした仕組みが必要なのだと思います。その意味では、仮想通貨も仕組みがしっかりした取引所が複数できれば変わってくる気がします。
そしてセッションも終盤となり、会場の参加者からの質問に登壇者が答える方式となった。
会場参加者:フィンテックでは各社とも大規模な資金調達額を行っていますが、ダイリューション(株式持分の希薄化)をどこまで許すのでしょうか?
柴山氏:フィンテックではバリュエーション(時価総額)が高いので、あまりダイリューションしていない印象です。問題はそのバリュエーションは本当に正しいのか? だと思います。