PL脳は影響するか

ここで甲斐氏は、『ファイナンス思考 日本企業を蝕む病と、再生の戦略論』(ダイヤモンド社)という書籍で紹介されている「PL脳」の影響は(上場すると)あるのかと質問し、辻氏が回答した。

辻氏:そうした議論はありますが、最初から中・長期の成長だと伝えています。四半期決算の良い面は、細かいサイクルで投資家に報告できる点です。

武田氏:実際、マーケット関係者からも、四半期ではなく半期での決算発表でよいのでは? という声が聞こえてきたりします。しかし、コミュニケーションのサイクルをどうするかよりも、コミュニケーションの中身の方がより大事なのではないかと自分は考えます。その企業とマーケットがなにでエンゲージするのかという努力が大事なのだと考えます。もちろん、利益でエンゲージする関係があってもよいとも思います。バリュエーションはアートだと言われるのは、PERがあればPSRもあるし、DCFもPBRもあるからです。産業や企業が置かれているステージによって、市場環境の変化によって、どの手法をマーケットが好むのかは常に移ろい続けます。また、同じタイミングであっても全てのマーケット関係者が同じ手法を用いる訳でもありません。なので、利益を元にしたバリュエーションが固定観念化しているという固定観念をこそ打破したいですね。

ここで辻氏より、GMOペイメントの例が紹介された。同社の株価は安定して上昇しているが、上場より一貫して売り上げ以外の指標を発表し、投資家とコミュニケーションを取れているという。

これに対して武田氏は、マーケットと企業が時間軸をしっかりと共有できているかどうか、その一方で決算発表においてお互いにチェックすべき指標が何なのかについても認識を揃えることができている、そういう好事例であるだろうと話した。

この意見に対して、辻氏は時間軸の捉え方は経営者として非常に難解だが、アマゾンのジェフ・ベゾス氏はどんなに株価が下落しても、経営方針が変わらないので凄いと感想を述べた。

ここで、投資における長期視点の大切さを伝える柴山氏は、ロボアドバイザーやAIと比較した時、人間の重要さを痛感する場面が多いと発言した。

投資における長期視点

柴山氏:例えば「フィンテックの会社で、ロボアドバイザーの事業です」と話して、銀行から融資を受ける時、もしもAI融資なら信用スコアが低くて断られます(笑)。そもそもビジネスモデルの前例もないので、判断すら出来ないかもしれません。

しかし現実では、人間のバンカーが事業計画を理解し、彼らとコミュニケーションを深め、一定のリスクを踏まえて融資を受けることが出来るそうだ。そして、本セッションで何度も登場したセカンダリーは、「機関投資家の判断や信頼関係など、人間臭いところが重要になり、そこがビジネスとしての面白みにつながる」と柴山氏は言う。

武田氏:セッション時間も終わりとなりますので、最後に一言ずつお願いします。

柴山氏:資産運用は「長期・積立・分散」が王道。あと、自己判断でお願いします。

辻氏:フィンテックは今からだと思っていて、実業とフィンテックがさらに絡みだすと思うので、これからも期待していただけるとうれしいです。

鬼頭氏:私もフィンテックはこれからだと思います。日本だけでなくグローバルでもまだまだ解決すべき課題は山積みですので、今後も是非注目して下さい。

甲斐氏:これからLINEとのサービスが登場しますが、大きな社会実験だと考えています。今後の1年は、実験を成功させるために注力したいです。


こうしてフィンテックを様々な切り口で話すセッションは終了。終了後も、登壇者の前には個別の質問をする参加者が列をなしていた。