ICCパートナーズが開催した「ICCサミット KYOTO 2018」より、フィンテック業界のフロントランナー4社が議論するセッションを前回に続いて紹介したい。

登壇者はFOLIO 代表取締役CEO 甲斐氏、クラウドリアルティ 代表取締役 鬼頭氏、ウェルスナビ 代表取締役CEO 柴山氏、マネーフォワード 代表取締役社長CEO 辻氏で、進行をUBS証券 武田氏が務めた。

フィンテックのホットな話題

前半では各代表の自己紹介が中心で、後半は業界のホットトピックスを展開した。

柴山氏は「AI」、辻氏は「トークン」、鬼頭氏は「規制」、甲斐氏は「これからの銀行業」を気になるトピックスとして挙げており、最初に規制についてディスカッションし、そこから仮想通貨や銀行について話を広げることになった。

  • 司会役のUBS証券 武田氏

規制のサンドボックス

武田氏:今日ご来場の方々の中には、「レギュラトリー・サンドボックス」について初めて耳にしたという方もいらっしゃると思います。そこで鬼頭さん、現在どんな議論が産業の中で起きているのかということを少し紹介していただけませんか? そのうえで、他の3名からは「この規制が残念」「面倒だ」などという形でご意見をいただいて議論を深めてゆきたいと思います。

鬼頭氏: レギュラトリー・サンドボックスは、日本では6月に法令が施行され、委員会が8月に始まったばかりですが、海外ではイギリスやシンガポール、アブダビ、ドバイなどで既に始まっています。それらの国と日本との違いは、法体系です。いわゆる英米法系の法体系は、判例法主義に基づいています。判例を積み上げてルールを作る考え方で、試して駄目なものを改善する方法ですが、成文法主義の日本は逆で先にルールを作ります。

日本の方式では、現行法が施行された時点では想定していない革新的技術(フィンテック、AI、自動走行など)の実用化の際に、それが足かせとなり、イノベーションが起こりづらいという問題がある。

こういった革新的技術を用いたサービスの社会実装を行う目的で、サンドボックスという参加者や期間を限定したうえで現行法の足枷を外して実証を行うことができる枠組みを用意し、そこで得られたデータを基に規制改革にも繋げていく取り組みとしている。

武田氏:ビジネスとしてサービスを提供してゆくなかで、ある規制のためにとても苦労したとか、こんなサービスこそサンドボックスで検証してゆきたいとか、みなさんからご意見やご感想はありませんか?

辻氏:実は日本の金融庁はいろいろやってくれていて、ヒアリング機会も作ってくれるなどかなりオープンです。ただスマホにより、従来はタテ割りだった銀行業務や送金・決済などのサービスが融合してきています。こうしたヨコ串を想定した法体系は現在ないので、急いで作る必要があると危惧しています。

武田氏:甲斐さんの発言でもありましたが、日本では銀行業務のライセンスを持っていると、ビジネス面では大きなアドバンテージがありますよね?

辻氏:例えばマネーフォワードの社内で預金を動かしたい場合、現法体系では銀行代理業が必要です。その場合、全国の金融機関から情報を取得し、全ての金融機関と契約を結ぶ必要があります。それは非現実的なので、それじゃあどうするか? という問題。銀行は低コストで資金調達できることも強みです。

武田氏:甲斐さん、柴山さんはいかがですか? 規制に対するお考えやサンドボックスへの期待はどうでしょうか。

甲斐氏:弊社は第一種金融商品取引業者であるため、常日頃当局との対話をさせていただき、またウェルスナビさんや、そのほか複数社と協働して、日本証券業協会の方々と対話する機会を設けていただいています。具体的に、現状の規制に対する論点をあげると、モバイル上でのサービスの展開というものに最適な規制の運用というのは考えていきたいところです。

甲斐氏によると、現在FOLIOはLINEと協業しモバイル上の資産運用サービスを構築しようとしている。そしてモバイル上で広告審査基準を満たす表示を行う場合、視認性が逆に落ちたのではないかと感じる場合があるという。

甲斐氏:ぶっちゃけ、サンドボックスで出来ることは限られてると思っています。特に証券サービスの会社さんとかは、トライ&エラーをしにくいのかな? と感じますね。

こうした考えから、サンドボックスでの検証より、規制当局とのコミュニケーションを密に取りながら、規制やその運用を考えてサービスを最適化していくべきだと判断したと甲斐氏はいう。

  • 左から甲斐氏、鬼頭氏、辻氏

ここで辻氏より、資産運用サービスにおける利用規約に関する話題が投げ込まれた。

辻氏:リスクベースで1万円の投資をするだけで、あの分量のディスクレーマー(免責事項)は読むのが大変すぎますよね(笑)

甲斐氏:僕らのサービスは適合性の原則に従い、財産状況や投資経験の程度を聞くわけですよ。少額から分散投資ができる、投資初心者の方でもリスクを比較的低減させてご利用いただけるサービスを提供しています。そのようなサービスにおいて、そもそも質問としてどこまで聞くべきかという点については、いろいろと考えていきたいと思っています。

適合性の原則
投資家保護を目的とし、顧客に合った金融商品を提供するために金融商品取引法に定められている原則。金融商品取引業者は顧客の知識、経験、財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行ってはならないとされている。
出典:投資信託協会 投資信託の用語集より

辻氏:飲み屋でビール飲むときに「飲んだら、酔っ払って気持ち悪くなります」とかいわないですよね(笑)

柴山氏:ただ、プロの投資家はリスクをきちんと理解していますが、個人投資家の場合はそうとは限りません。そのため、たとえ少額であってもトラブルになる事例も多いと聞いています。