地方出身者が地元の料理を食べたくなったら駆け込める、同郷の人との触れ合いに飢えたときに癒してくれる、そんな東京にある"地方のお店"を紹介していくこの企画。コロナ禍の昨今、せめておいしい地方の物を食べて各地を旅行した気持ちになりたい! という他県のあなたも必見です。
今回のテーマは長野県。中部地方・甲信越地方に位置する内陸の地長野県は、日本で4番目に大きな都道府県で、山々に囲まれ県の8割が森という自然豊かなところです。
歴史ある信州、そばや野菜がやはり有名
長野県は善光寺、松本城、諏訪大社など歴史的に有名な建築物が多く、グルメでは日本三大そばに数えられる「戸隠そば」があります。農産物では、レタス、加工トマト、えのき、しめじなどの出荷量が日本一。農業の盛んな県なのです。
さて今回は、水天宮前の「水天宮酒場 ゴチ」(以下「ゴチ」)さんにお邪魔しました。半蔵門線「水天宮前」駅から浅草線「人形町」駅方面へ歩いて約3分、水天宮前交差点からすぐにあるお店です。
お店に入るとすぐに小さめのカウンター、その後ろにはテーブル席があり、ロフトのような2階も合わせると席数は35席ほど。ご店主がプロサッカーチーム「松本山雅FC」のファンとのことで、店内にはポスターがたくさん貼られていました。深い愛を感じます。
大らかな自然と豊かな水の恵みが活きる信州料理
最初にお願いしたのは「葉わさびの醤油漬け」(450円)。「葉わさび」とは、文字通りわさびの葉っぱの部分です。わさびの生産量が1位の長野県、その90%を占める安曇野にある、わさび屋さんの醤油漬けとのこと。
醤油漬けと表記されていますが、そこまで濃い味付けではありません。瑞々しくシャキシャキした歯応えに、わさびの香りと辛さがなんとも爽やか。薬味でよく使うわさびと比べれば、辛さは強くはないのでパクパク行けちゃう! って調子に乗っていると、ツーンと不意打ちをくらいます(笑)。
お次に登場したのは「イナゴの佃煮」(400円)です。信州の特徴的な食べ物といったら昆虫食は外せません。近年は食糧状態も良くなったこともあり、地元でも若い人はあまり食べないという話ですが、立派な食文化です。リスペクトを込めて噛みしめましょう。
味付けはお馴染みの佃煮です。甘くてしょっぱい、ご飯に合いそう。とはいえイナゴなので、表面の殻や脚の食感が特徴的で、魚や貝類のものでは味わうことのできないサクサク感がしてクセになります。佃煮に新しい価値観が生まれた。高タンパクで栄養価も高く、今や世界的に注目を集めるようになった昆虫食。是非一度お試しください。
続いて登場したのでは「信州サーモン刺」(680円)&「馬刺味噌漬」(580円)です(※今回は撮影用に盛り合わせにしていただきました)。
「信州サーモン」は、長野県水産試験場で10年の歳月をかけて開発され養殖されている新品種だそう。2004年に市場に登場して8年で出荷量は約10倍になり、知名度をジリジリと広げている食材です。
身は引き締まっていて肉質がしっかり。クセがなく、それでいてよく脂が乗っています。口に運ぶととろけるように旨味が広がっていく。うわ……これ、おいしい! 海のない県の特産品でこんなにおいしいお魚に出会えるとは。うれしい誤算です。
そして「馬刺味噌漬」。日本で馬肉を食べる地域として信州は有名ですね。ただ、馬肉の食べ方として馬刺しはポピュラーですが、味噌漬けというのは珍しい。これはトライしないわけにはいきますまい。
一かじりした程度でも、馬肉に凝集された味噌の旨味が強烈に訴えかけてきます。超濃厚!甘くまろやかで、ジワリジワリと染み出してきたものが口の中に長くとどまり存在を主張してきます。生の肉でやるからこその濃厚さなんでしょうか。完全に旨味の過剰摂取。超うまい! こんな時は日本酒が飲みたい。しっかりめで、どっしりしたやつ!
最新の信州の味覚「吟醸豚」とは?
続いて「信州吟醸豚の豚天」(750円)をお願いしました。「信州吟醸豚」というのは、県の中部にある北安曇野郡池田町で、日本酒の製造過程で出る酒粕を飼料に混ぜ、放牧で育てるブランド豚なんだそうです。
しかも酒粕の提供元は信州を代表する「真澄」の酒蔵である宮坂醸造! 「ゴチ」さんではそれを天ぷらにして提供しています。「信州吟醸豚」は、2017年に売り出された新しいブランドで、生産数の少なさから、なかなか口にすることのできない一品なんだとか。
大根を粗めにおろしたたっぷりの鬼おろしにポン酢をかけていただきます。天ぷらのサクサクの軽い衣と、さっぱりとした香りと酸味の向こう側から豚肉の甘味がフワーっと広がる。お肉のやわらかさを保ったまま、アツアツサクサク。食材のおいしさがマックスに引き出されていました。
そして最後に「鶏の山賊焼き」(850円=タルタルソース レギュラーサイズ)を注文。こちらは長野県の中部の松本市、塩尻市あたりで広く食べられているご当地グルメで、ニンニクと生姜と醤油のタレに漬け込んだ鶏肉に片栗粉をまぶして揚げた料理です。「焼き」といいつつ揚げ物です。
で、でかい。レギュラーサイズは大振りピースが2つで一皿なんですが、ハーフがレギュラーで、レギュラーはダブルと表現した方がしっくりきたのでは……。それくらいのボリュームです。
基本的には唐揚げなんですが、衣に片栗粉を使用しているので、バリっとクリスピーで歯応えがあります。現地では胸肉を使用することが多いということですが、「ゴチ」さんでは食べ応えを重視して、よりジューシーなモモ肉を使用しているそうです。
あのね……、おいしくないわけないんですわ(笑)。見て、このぶ厚い断面を! 肉汁ジュワー程度で済むわけもない、漬けダレの味もばっちりにじみ出ています。
そして、そこにお店オリジナルの和風タルタルをオン。詳細は企業秘密ということでしたが、きゅうりと玉ねぎが入っていて生の野菜のシャキシャキした食感と、コールスローのようなさらっとした味わい。山椒が軽くふりかけてあり、和の風味もプラス。山賊焼きの味わいをさらに高めてくれていました。あんなにボリュームがあったのにペロリと完食です。
日本酒だけじゃない! お酒造りが盛んな信州
長野県は、酒蔵の数が全国で2位。日本酒造りが盛んなんですが、それ以外にもビール、ウイスキー、ワイン、シードルといろいろな種類のお酒を造っています。長野県に旅行するときは酒屋さんを覗くのが楽しみのひとつだったりしますよね。今回は、敢えて日本酒以外のドリンクをおオススメいただきました。
まずは「信州ハイボール」(550円=並)。県の南部の上伊那郡にある本坊酒造さんの「マルスウイスキー 信州」を使ったハイボールです。長野県限定販売のウイスキーなので東京で飲めるのはレアかも!? 苦みが抑えめでやさしい口当たりなので、ハイボールが苦手な人も飲みやすい一杯です。
お次は、松本ブルワリーさんの「モザイクIPA」。華やかでフルーティなフレイバーと、IPA特有のホップ感が楽しめる、複雑でまさにモザイクのような飲み口です。「ゴチ」さんでは、瓶でも扱っているのですが、常設で松本ブルワリーさんの樽をつないでいます。こちらも東京ではなかなか味わえないので要チェックです。
そしてビアカクテル「山雅ビール」は、「松本山雅FC」を応援するご主人が考案。チームカラーの緑を再現した一杯になっています。これを飲みながら「松本山雅FC」へのアツい思いを語るんですな。
お店はもちろん家でも信州を満喫できる
「ゴチ」さんは、オープン5年目。長野県松本市出身のご店主・杉山健さんが、信州のうまいものを東京で届けたいという思いから始めたお店です。伝統的な料理やB級グルメだけでなく、最新の信州のおいしい食材やお酒も楽しむことができます。
緊急事態宣言下の現在では、信州の食材や漬物などを店頭で販売してらっしゃいました。種類もかなり豊富で、どれを買おうか迷うほど。巣ごもり生活に新しい風を吹かせてみてはいかがでしょうか。
また「ゴチ」さんは、「松本山雅FC」のサポートショップという面もあり、全試合のパブリックビューイングを行っています。東京在住のサポーターの集まるお店としても機能しているんですね。そんな信州愛盛り盛り、ゆかりの人も食材も集まってくる「ゴチ」さんにやぶちゃ(みんな)集まれ!
<お店情報>
「水天宮酒場ゴチ」
住所:東京都中央区日本橋人形町1-13-9 藤和日本橋コープ 1F
営業時間:17:30~20:00
(※取材時の2021年2月には、緊急事態宣言下にあり、短縮営業中)
定休日:不定休
※価格は税別
古屋敦史
取材・文=古屋敦史、構成=小山田滝音(ブラインドファスト)