米アカデミー賞11部門の史上最多受賞に輝くピーター・ジャクソン監督が手掛ける『ホビット』シリーズが、今年12月13日公開の『ホビット 決戦のゆくえ』で感動のラストを迎える。大ヒット映画『ロード・オブ・ザ・リング』の60年前を描いた物語であり、本作をもって13年の歴史に幕を閉じる。完結編の公開を前に、映画の舞台"中つ国"のロケ地・ニュージーランドを訪問。第4回は、同シリーズでVFX(ビジュアル・エフェクト)スーパーバイザーを務める「WETAデジタル」のマット・エイトキン氏に、どのように映像が作られているのか、また、『ロード・オブ・ザ・リング』と『ホビット』での技術の違いなどをインタビューした。

マット・エイトキン氏(WETAの入り口に立つトロルの像と)

ニュージーランドの首都・ウェリントンにある「WETAワークショップ」と「WETAデジタル」は、ピーター・ジャクソン監督らによって設立された制作会社。これまで『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ、『ホビット』シリーズのほか、『キング・コング』『アバター』『ナルニア国物語』などを手がけてきた。マット・エイトキン氏は、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズと『ホビット』シリーズの全作品に、VFXスーパーバイザーとして関わっている。

WETA内にあるピーター・ジャクソン監督のプライベートシネマで、同シリーズの映像がどのように作られてきたのか説明してくれたエイトキン氏。2001~2003年にかけて公開された『ロード・オブ・リング』シリーズと、2012年、2013年、そして今年12月に最終章が公開される『ホビット』シリーズでは、かなりの技術の進歩があることがわかった。

『ロード・オブ・ザ・リング』では、ミニチュアとCGを組み合わせて映像を作ったが、『ホビット』ではミニチュアは使用せず、すべてCGで制作。CGのみで作った映像は、すぐに形や色を変えることができ、監督の希望に簡単に対応することができる。また、CGでは難しかった川、滝の水の流れも、『ホビット』では表現できるようになったという。

ミニチュアとCGを組み合わせたエルフの国・リーベンデールのシーン

演者の動きを取り入れるモーションキャプチャという技術も、『ホビット』で各段にレベルアップ。アンディ・サーキスが演じるゴラムはこの技術で作られているが、『ロード・オブ・ザ・リング』では、顔はモーションキャプチャできず、体の動きだけを取り入れ、顔は、パソコン上で手作業で行うキーフレーム・アニメーションという技術で作ったという。一方、『ホビット』では、顔もモーションキャプチャできるようになり、より表情豊かなゴラムへと進化した。

また、『ロード・オブ・ザ・リング』の時は、モーションキャプチャの撮影にはまぶしいライトが必要で、特定の場所でしか撮影できず、ほかの俳優と一緒に演技することはできなかった。ところが、『ホビット』では、技術の進歩により一緒に撮影することが可能になり、演技にリアルさが加わった。なお、顔の細かい部分を調整するために、『ホビット』でもキーフレーム・アニメーションは使用。手を加えることで「より俳優の演技が生きる」とエイトキン氏は語る。

ゴラムを演じるアンディ・サーキスと、その演技をもとに作られたゴラム

『ロード・オブ・ザ・リング』のために作られた技術もある。闇の勢力のオークやウルク=ハイなど、大量に登場するキャラクターのために、同じキャラクターを大量生産させるソフトを作り上げた。大量生産といっても、一人一人違った動きをすることができ、完成した映像を見ても、一人一人作っているようにしか見えない。

そして、すべて現地で撮影しているように見えるが、現地撮影ではなく、あとから背景を組み合わせているシーンが多いそう。また、レゴラスが川で樽に乗りながら弓を放つような実際に演技できない場面は、それ以外を撮影し、あとからCGでその部分を加えるという。レゴラスの場面では、CGで作ったレゴラスの下半身と、スタジオで撮影した上半身を組み合わせて完成させている。もちろん、CGと実写の境目は、完成した映像を見てもわからない。

ドワーフたちが樽に乗って川を下るシーンのCG加工の様子

今年12月に公開を控える最終章『ホビット 決戦のゆくえ』についても語ってくれた。「火、戦闘シーンの映像はさらに進化している。より複雑な映像になり、スケールも大きくなって、見ている人がその中に入っているような感覚になれる」と言い、「ライティングの技術もまったく新しくなり、よりリアルな光を表現することができるようになった」と明かす。

「映画は、現実以上のものが必要になる。写真をデジタルに変更することで、想像の世界を表現することができる」と、CGの持つ力を語るエイトキン氏。「100%CGといっても、ニュージーランドの環境がなければ生まれない。景色があって、それを生かすためにCGがある」。『ロード・オブ・ザ・リング』『ホビット』のファンタジーの世界は、ニュージーランドの雄大な景色と、WETAが誇るCGの技術が合わさって生まれた世界なのだ。

『ホビット 決戦のゆくえ』(12月13日公開)
シリーズ完結編『ホビット 決戦のゆくえ』では、恐ろしい竜"スマウグ"から奪われた王国を取り戻すために、ホビット族のビルボがドワーフ族たちと共に繰り広げてきた冒険が、いよいよ感動のラストを迎える。サウロン率いる闇の軍勢、仲間同士の対立など、最大の危機を迎える中、ビルボは自分を犠牲にし、仲間の命を守るために究極の決断をする。世界を二分する決戦のゆくえは果たして。

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