新元号・令和の時代に入りました。日本列島では今、令和ブームが起きています。それが一定の経済効果を生むことは間違いありません。と同時に、日本経済は平成最後の数年間にアベノミクスによって景気回復が進み、一般にイメージされている以上に強さを取り戻しつつあります。日本を取り巻く国際情勢を見ると、米中貿易戦争や英国のEU離脱の行方など波乱含みですが、それでも令和の時代には景気回復の流れを引き継いで日本経済が完全復活できると見ています。

雇用は45年ぶり改善、企業利益は最高水準

まずアベノミクスによって、景気がどのぐらい回復したのかを見てみましょう。

最も顕著なのが雇用の改善です。雇用情勢を敏感に反映する有効求人倍率は、アベノミクス景気が始まる前の平成24年(2012年)11月は0.82倍でしたが、現在では1.63倍に上昇しています。有効求人倍率は「求人件数÷求職者数」で計算します。求職者を100人とすると、24年11月には求人件数が82件しかないという厳しさでしたが、現在は163件もあることを示しているわけで、雇用情勢がきわめて良くなっていることがわかります。

そして注目すべきは、現在のこの1.63倍は昭和49年(1974年)1月以来、約45年ぶりの高水準だということです。バブルの頃より現在のほうが高水準なのです。まさに歴史的高水準です。

しかも都道府県別の有効求人倍率を見ると、バブル期でも1.0倍未満の県が6つあったのに対し、平成28年(2016年)10月以降は47都道府県の全てで1.0倍を上回っています。これは有効求人倍率の統計史上初めてのことです。

有効求人倍率の上昇については「少子高齢化・人口減少によって求職者が減ったことが原因」とする意見があります。しかし実際は、求人件数がより多く増加した結果です。最近は、人手不足が問題となっていますが、それは景気が回復した結果なのです。企業の生産や販売などの増加で人手が必要となり、企業の業績も大幅に回復したため、実際に雇用を増やすようになったのです。

  • 有効求人倍率は約45年ぶりの高水準

    有効求人倍率は約45年ぶりの高水準

東京証券取引所の集計によると、上場企業の純利益額(3月期)は26年(2014年)と27年に過去最高益を更新。28年は小幅減益でしたが、29年と30年もまた連続して純利益も経常利益も最高益を更新しています。今年3月期は3%程度の減益になった模様ですが(東証の最終集計は未発表)、それでも高水準を維持しています。

業績回復は上場企業だけではありません。財務省が中小企業も含む全国2万社以上を対象に実施している法人企業統計によると、全産業(金融・保険を除く)の経常利益額とともに売上高経常利益率もこの数年は過去最高が続いています(最新データである2017年度は5.4%)。さらに注目すべきは、そのうち資本金1億円未満の中小企業でも経常利益額と売上高経常利益率ともにここ数年は過去最高を更新し続けており、2017年度の売上高経常利益率は3.5%に達しています。これは数年前までの全産業の水準です。2018年度の数字は未発表ですが、ほぼ同水準だったと見られます。

  • 中小企業の利益は過去最高――利益額も利益率も

    中小企業の利益は過去最高――利益額も利益率も

過去の景気回復との違い - 構造的な回復進む

こうした中小企業の業績向上や有効求人倍率の全都道府県1.0倍超えは、景気回復のすそ野が広がっていることを示しています。企業の業績の回復ぶりは、単にリーマン・ショックから立ち直ったというレベルではなく、多くの企業が本当の意味でのリストラ(事業の再構築)を進めて収益構造を改革してきたからにほかなりません。つまり、日本経済全体も各企業も地力をつけてきたのです。これが今回の景気回復の特徴です。

バブル崩壊後これまで4回の景気回復局面があったのですが、いずれもバブル崩壊によって傷ついた経済構造そのものの回復には至りませんでした。そのためすぐに不況に逆戻りし、景気回復は一時的なもので終わるという展開を繰り返していました。しかし今回は単に循環的な景気回復だけでなく、日本経済が構造的に回復してきた点がこれまでと異なっています。

この変化をもたらしたのは、やはりアベノミクスです。アベノミクスは、平成24年(2012年)12月に就任した安倍首相が、「デフレ脱却と日本経済再生」を目的に掲げたもので、(1)大胆な金融緩和(2)積極的な財政政策(3)民間投資を喚起する成長戦略という「3本の矢」をうたっています。

ここで逆説的な言い方になりますが、アベノミクスがその目的を「景気回復」としていない点がポイントです。それは、単なる目先の景気回復にとどまらず、日本経済の最大の構造問題であるデフレから脱却させることによって日本経済を再生させることを目的としているということなのです。3本の矢は、そのための基本戦略という組み立てです。

これまでバブル崩壊後の歴代内閣の経済政策は、小泉構造改革を除いてほとんどが目先の景気対策に終始していたのに対し、アベノミクスは経済再建の戦略を明示し、前述のように実際に効果も上げています。もちろんまだ十分ではないものの、アベノミクスは過小評価されていると思います。

もう一つ、現在の景気回復をめぐっては「実感がない」とよく指摘されます。 たしかに多くの人が「景気が良くなった」とはあまり感じていないのが実情でしょう。そのため「経済は回復なんかしていない」という人もいます。しかし実際には先ほど見たように、かなりの回復を見せているのです。景気が回復していない、と見るのは正しくありません。問題なのは「景気が回復していない」のではなく、「回復している事実があるのに実感がない」、すなわち"事実と実感のギャップ"なのです。したがって論ずるべきは、そのギャップの原因がどこにあるのか、そしてそのギャップを埋めるために何が必要か、という点です。