■TBSのドラマ名手3人による最高傑作

1位『JIN -仁-』(TBS系、大沢たかお主演)

  • 大沢たかお

    大沢たかお

  • 綾瀬はるか

    綾瀬はるか

現代から幕末にタイムスリップした脳外科医・南方仁(大沢たかお)の活躍を描いた歴史×医療のファンタジー作。医療器具や薬品がほとんどない上に、「事実を変えてしまう」という葛藤を抱えながらも、目の前で苦しむ江戸の人々を救おうとするひたむきな姿が感動を集めた。

同作最大の魅力は、仁を筆頭に優しく純粋な登場人物であり、彼らが団結して困難に立ち向かうシーン。死の伝染病・コロリ、ペニシリンの製造、江戸の町を襲った大火事、野風(中谷美紀)の乳がんなどを乗り越えていく様子は、毎回クライマックスが訪れるほどの盛り上がりを見せた。

橘咲(綾瀬はるか)、橘恭太郎(小出恵介)、佐分利祐輔(桐谷健太)、山田純庵(田口浩正)、緒方洪庵(武田鉄矢)、勝海舟(小日向文世)、浜口儀兵衛(石丸謙二郎)、福田玄孝(佐藤二朗)、新門辰五郎(中村敦夫)……魅力的な人物がそろう中で最も目立っていたのは、内野聖陽が演じた坂本龍馬。最終回のわずか2週間後に、福山雅治主演の大河ドラマ『龍馬伝』(NHK)が控えていたが、「これが坂本龍馬だ」とでも言うようなノリに乗った演技だった。

野風とそっくりの恋人・未来などの原作漫画にはないオリジナル要素を加えたのは脚本家の森下佳子。「過去が変わると現代の写真も変わる」というファンタジーを巧みに盛り込んだ平川雄一朗。そしてすべてをまとめた石丸彰彦プロデューサー。のちに『とんび』『天皇の料理番』を手掛けた名手3人のトライアングルで、それまで少なかった「親子そろって楽しめる『日曜劇場』」を実現させた。

当作以降、『信長のシェフ』(テレ朝系)、『信長協奏曲』(フジ系)、『サムライ先生』(テレ朝系)、映画『幕末高校生』など、歴史にタイムスリップを絡めた作品が続出したが、医療、恋愛、群像劇、ミステリー……当作ほど、さまざまな魅力を共存させたハイブリッドな作品は現れていない。しかも、国内外の30を超える各賞を受賞するなど、品質の高さは他作とは一線を画すものがある。

さまざまな謎が解明されぬまま終わったことに疑問の声もあがったが、まだ原作漫画が終了していなかったことを踏まえればやむなしか。事実、原作漫画が終了した翌年の2011年に第2弾の「完結編」が放送された。ただ、インパクトや感動は、第1弾のほうが上回っていた感が強い。主題歌は、MISIA「逢いたくていま」。

■『Mr.BRAIN』『婚カツ』『ブザー・ビート』『小公女セイラ』

その他の主な作品は下記。

元ホストの脳科学者・九十九龍介が難事件を解決するミステリー『Mr.BRAIN』(TBS系、木村拓哉主演、主題歌はヴァン・ヘイレン「JUMP」)。脳科学や精神疾患の解釈があいまいな上に、「事故の影響でブスが好きになった」「脳のエネルギー源がバナナ」などの謎設定が影響したのか、全話平均視聴率20%超の割に反響が少ない作品だった。

区役所の「臨時職員募集の採用条件」が既婚者だったことから、一念発起して婚活をはじめる雨宮邦之の物語『婚カツ!』(フジ系、中居正広主演、主題歌はPUFFY「ウエディング・ベル」)。けっきょく幼なじみの春乃(上戸彩)との恋になるのだが、料理、ヨガ、ゴルフ、陶芸、猫好きなど、週替わりで登場するテーマ合コンのシーンで楽しませてくれた。

バスケ選手とバイオリニストの恋を描いた王道の月9ラブストーリー『ブザー・ビート~崖っぷちのヒーロー~』(フジ系、山下智久主演、主題歌はB'z「イチブトゼンブ」)。山下と北川景子の恋より、こっそり浮気し、人目を盗んでタバコを吸う相武紗季のヒールぶりが際立っていた。伊藤英明、永井大、溝端淳平、金子ノブアキ、青木崇高ら、肉体派イケメンがズラリ。

戦国武将を先祖に持つ草食系高校生が学校問題を解決していく痛快コメディ『サムライ・ハイスクール』(日テレ系、三浦春馬主演、主題歌はmonobright「孤独の太陽」)。突然サムライに覚醒する主人公は三浦のハマリ役。マドンナ役の杏、友人役の城田優と、やたら長身の2人を従え、威風堂々たる振る舞いで女性視聴者を喜ばせた。

刑期を終えた元暴力団員と、亡き恋人の間に生まれた少女のふれあいを描いた『白い春』(フジ系、阿部寛主演、主題歌は阪井あゆみ「横顔」)。実父に大柄な阿部、育ての親にコワモテの遠藤憲一、幼く小さい大橋のぞみのトライアングルがインパクト大。当初は「阿部と遠藤の役が逆では?」と言われたが、悲劇的ながら感動の最終回へつなげた。

「世界名作劇場」のアニメも大ヒットした『小公女』をリメイク。舞台を現代日本の全寮制女子校に移した『小公女セイラ』(TBS系、志田未来主演、主題歌はUVERworld「哀しみはきっと」)。素直で健気なヒロインの志田と、厳しい仕打ちを行う院長の樋口可南子に加え、脚本・岡田惠和、演出・金子文紀、プロデュース・磯山晶と何気に豪華布陣だった。

元殺し屋が過去を清算して秘境の温泉宿で働く姿を描いた『湯けむりスナイパー』(テレ東系、遠藤憲一主演、主題歌はクレイジーケンバンド「山の音」)。遠藤の初主演作だが、人情、笑い、色気を兼ね備えた物語と、大根仁の脚本・演出でベストにあげる人も。なかでも毎回挿入された「ポロリ」は、現在では見られないため、ある意味で記念碑的な作品に。

さらに、『天地人』『つばさ』『ウェルかめ』『外事警察』(以上NHK)、『ラブシャッフル』『スマイル』『ぼくの妹』『オルトロスの犬』『こちら葛飾区亀有公園前派出所』『官僚たちの夏』『おひとりさま』(以上TBS系)、『ヴォイス~命なき者の声~』『メイちゃんの執事』『ありふれたキセキ』『赤い糸』『BOSS』『リアル・クローズ』『不毛地帯』(以上フジ系)、『神の雫』『キイナ~不可能犯罪捜査官~』『赤鼻のセンセイ』『華麗なるスパイ』『ギネ 産婦人科の女たち』(以上日テレ系)、『臨場』『夜光の階段』『ダンディ・ダディ?~恋愛小説家・伊崎龍之介~』『コールセンターの恋人』『マイガール』(以上テレ朝系)、『セレブリ3』『嬢王 Virgin』(テレ東系)などが放送された。

■著者プロフィール
木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。