■歴代五指に入る究極の純愛ドラマ

1位『愛なんていらねえよ、夏』(TBS系、渡部篤郎主演)

  • 渡部篤郎

    渡部篤郎

  • 広末涼子

    広末涼子

「なぜこれが1位?」と思う人がいるかもしれない。実際、昭和臭と気恥ずかしさしか感じないタイトルがミスリードとなり、視聴率は記録的低迷。

しかし、『ケイゾク』(TBS系)、『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)、『TRICK』シリーズ(テレ朝系)などで飛ぶ鳥を落とす勢いの演出・堤幸彦、『星の金貨』(日テレ系)、『ピュア』(フジ系)らで純愛ドラマの騎手となった脚本・龍居由佳里、『ケイゾク』『ビューティフルライフ』などのプロデュース・植田博樹が手がけた力作だった。

主なあらすじは、「歌舞伎町の売れっ子ホスト・レイジ(渡部篤郎)は、仲間の裏切りによって7億3,000万もの借金を負い、命の危機にさらされる。苦境の中、盲目の令嬢・鷹園亜子(広末涼子)の生き別れた兄として名乗り出ることで返済を目論む」というもの。Vシネマやコントと紙一重の初期設定であり、それが低視聴率の要因にもなったが、「愛を信じない男女のラブストーリー」としての純度は、歴代五指に入るほど高かった。

亜子の盲目という設定は、目に言えない愛そのものであり、心を閉ざした者同士だからこそ、ふとしたきっかけで心が通いはじめ、愛の存在に気づいていく。「愛なんかいらない」と言い切り、なかなか距離が縮まらないにもかかわらず、ひしひしと伝わってくる2人の愛。愛に対する感度が高い2人の物語だからこそ、キスシーンなどの性的表現に頼る必要はなかったのだろう。

「嘘がバレるのではないか」という緊張感、大金をめぐる欲望の渦、忍び寄る病気の影。不穏なムードの中、堤監督はいつもながらの鮮やかな色彩感覚に加え、レイジと亜子の切なく、激しく、哀しい感情と映像をシンクロさせて視聴者の感情移入を誘った。近年の堤監督は、笑いを全面に出した作風で厳しい声も多いが、当作や『世界の中心で、愛を叫ぶ』(TBS系)のような純愛モノこそ最も力を発揮できるのではないか。

「レイジや亜子など悪人に見える人がむしろ善人のような純粋さがあり、亜子の家政婦・中田咲子(坂口良子)や婚約者・五十嵐彰(鈴木一真)のような善人に見える人ほどむしろ悪人」という真理をついたキャラクター造形も見事だった。

辛く苦しい年月を経てたどり着いた最終回は、視聴者の期待に応える大団円。空港で亜子が見えるようになった目を閉じてレイジを探し当てるシーンは語り草となっている。

坊主頭で役作りした渡部、透明感を消して棘を持つ少女を演じた広末を筆頭に、藤原竜也、西山繭子らキャストは漏れなく当時の「自己ベスト」を更新する熱演を見せた。裏MVPは、土壇場でまさかの活躍を見せた弁護士の真壁恭一(半海一晃)と、借金取りのウエダタクロー(森本レオ)。

主題歌は、池田綾子「Life」。盲目の亜子が静かに目を開けるタイトルバックの映像にフィットし、物語の透明感を表現していた。

■『ごくせん』『木更津キャッツアイ』『相棒』『濱マイク』

その他の主な作品は下記。

  • 仲間由紀恵

    仲間由紀恵

  • 佐藤隆太

    佐藤隆太

極道一家で育った高校教師・ヤンクミと不良少年たちの学園ドラマ『ごくせん』(日テレ系、仲間由紀恵主演、主題歌はV6「Feel your breeze」)。金八先生、GTOに次ぐ新たな連ドラ教師像を作ったほか、若手俳優の登竜門となり、第1シリーズでは、松本潤、小栗旬、石垣佑磨、成宮寛貴に加え、松山ケンイチも生徒役で出演していた。

野球の試合における表と裏を、劇中の表と裏のエピソードとして構成するなど、宮藤官九郎の自由自在な脚本が称賛を集めた『木更津キャッツアイ』(TBS系、岡田准一主演、主題歌は嵐「a Day in Our Life」。イケメン俳優たちが楽しそうに演じる姿で女性視聴者の支持をつかみ、DVDがバカ売れし、2度の映画化につなげた。当作以降、宮藤は濃厚キャラや本人役を駆使した作風を確立していく。

  • 水谷豊

    水谷豊

  • 金城武

    金城武

現在season17が放送されている『相棒』(テレ朝系、水谷豊主演、主題歌はインストゥルメンタル)の記念すべき第1弾は2002年。当時、杉下右京(水谷豊)の相棒は亀山薫(寺脇康文)で、視聴率もまだ10%台前半に留まっていた。シリーズを追うごとに脚本家の数を増やし、現在では約10人前後を起用しているが、当時は3人という通常のドラマと同じ仕様。

ボウリングに大人のラブストーリーを絡めた『ゴールデンボウル』(フジ系、金城武主演、主題歌はポール・アンカ「You Are My Destiny」)。色気たっぷりのサラリーマンボウラーを演じた金城の対戦相手に堺雅人、木村多江、松浦亜弥、山田花子らを配したほか、大滝秀治、竹脇無我、長門裕之、南田洋子らベテラン俳優も盛り上げた。「年の差恋愛」と「既婚者の恋」をフィーチャーしたのは、いかにも野島伸司の脚本。

  • 米倉涼子

    米倉涼子

  • 佐藤隆太

    佐藤浩市

今をときめく米倉涼子の記念すべき連ドラ初主演は何と『整形美人。』(フジ系、米倉涼子主演、主題歌はスガシカオ「アシンメトリー」)。「800万円をかけて全身整形してモデルになったが、心はブスのまま」というヒロインを米倉が熱演。双子の妹を演じた虻川美穂子とのビフォーアフターや、小倉久寛と柴田理恵の両親役も話題となった。ハイライトは劇中で『ビューティーコロシアム』に出演したシーン。

父親を死に追いやられ、最愛の女性に裏切られた柏木圭一(佐藤浩市)の壮大な復讐劇『天国への階段』(日テレ系、佐藤浩市主演、主題歌はhiro「Eternal Place」)。重苦しい復讐劇の中で、圭一と禁断の恋に落ちる江成未央を演じた本上まなみの純粋さが物語の救いに。風間杜夫、古手川祐子、古尾谷雅人、加藤雅也、津川雅彦ら名優で固めたどこまでも骨太な作品だった。

  • 永瀬正敏

    永瀬正敏

1990年代に3作公開された映画の連ドラ版『私立探偵 濱マイク』(日テレ系、永瀬正敏主演、主題歌はEGO-WRAPPIN’「くちばしにチェリー」)。各話すべて脚本・演出担当が異なる上に、フィルム撮影、各界からのゲスト招へいなど、こだわりはドラマ史上屈指だった。当時夫婦だった永瀬と小泉今日子の共演も貴重。

警視総監を祖父に持つ天才少女・銭形愛(宮崎あおい)が携帯電話を使って事件解決に挑む『ケータイ刑事 銭形愛』(TBS系、宮崎あおい主演、主題歌はオノ・アヤコ「彼女の情景 )。以降、堀北真希主演『銭形舞』、黒川芽以主演『銭形泪』、夏帆主演『銭形零』、小出早織主演『銭形雷』、大政絢主演『銭形海』、岡本あずさ主演『銭形命』、岡本杏理主演『銭形結』が制作され、若手女優にとっては飛躍の場となった。

さらに、『利家とまつ~加賀百万石物語~』『さくら』(NHK)、『リモート』(日本テレビ系)、『First love』『ヨイショの男』『太陽の季節』『おとうさん』(TBS系)、『人にやさしく』『空から降る一億の星』『ホーム&アウェイ』『初体験』『ロング・ラブレター~漂流教室~』『恋のチカラ』『天体観測』(フジ系)、『九龍で会いましょう』(テレ朝系)などが放送された。

■著者プロフィール
木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技 84』『話しかけなくていい!会話術』など。