2019年4月30日に幕を下ろす「平成」。マイナビニュースでは、「平成」の中で生み出されたエンタメの軌跡を様々なテーマからたどる。この連載は、「視聴率や俳優の人気は無視」のドラマ解説者・木村隆志が、平成元年から31年までのドラマを1年ごとに厳選し、オススメ作品をピックアップしていく。第12回は「平成12年(2000年)」(※以下はドラマの結末などネタバレを含んだ内容です。これから視聴予定の方はご注意ください)。

平成12年(2000)は、「ミレニアム」を祝うムードの中、正月から派手な記念番組が次々に放送された。

それが落ち着いた5月には、西鉄バスジャック事件が発生。7月には、沖縄サミットが開催され、イメージソングに安室奈美恵の「NEVER END」が選ばれた。9月には、シドニーオリンピックが開催され、高橋尚子、田村亮子、野村忠宏、井上康生、瀧本誠が金メダルを獲得。11月にはイチローがシアトル・マリナーズと契約し、日本人野手初のメジャーリーガーが誕生した。

バラエティでは、『内村プロデュース』(テレビ朝日系)、『ジャンクSPORTS』(フジテレビ系)、『クイズ$ミリオネア』(フジ系)がスタート。一方で『DAISUKI!』(日本テレビ系)、『ウッチャンナンチャンの炎のチャレンジャーこれができたら100万円!!』(テレ朝系)、『しあわせ家族計画』(TBS系)、『クイズところ変れば!?』(テレビ東京系)などが終了した。

ドラマのTOP3には、平成が終わろうとする今こそニーズがありそうな3作を選んだ。

桜子が毒気たっぷりの名言を連発

■3位『やまとなでしこ』(フジ系、松嶋菜々子主演)

  • 松嶋菜々子

    松嶋菜々子

  • 堤真一

    堤真一

いまだに松嶋菜々子を見ると、「お金に強欲な神野桜子」を思い出す人は多いのではないか。それほどのハマリ役であり、堤真一、矢田亜希子、筧利夫、須藤理彩、押尾学、森口瑤子、西村和彦、東幹久らを含めたキャスティングが輝いていた。

松嶋演じる桜子が「愛とお金」というテーマを全身で体現し、異常なほど金持ちとの結婚に執着。毒気たっぷりの名言を連発した。

「身長や顔や性格は生まれながらのものよね。しょせん遺伝子や環境の問題でしょ。本人の努力では変えられない不公平なハードルがあるわよね。でも、お金持ちになれるかなれないかは本人の努力次第でどうにでもなるじゃない。先天的なブ男でも後天的な努力で勝ち取れるのがお金持ち。私の選び方のほうがより公平な評価ができると思わない?」

「恋っていうのはね、人間ごときにするもんじゃなくて、お金にするものなの。お金は女を裏切らない」

「恋になんか落ちちゃダメ。あんなもんに落っこちるから、人生とっちらかっちゃうのよ。舞い上がったり落ち込んだり、そんなの単なるエネルギーのロスよ。本当に幸せになりたかったら、一時の病気よりも冷静な判断力」

毒気たっぷりでも視聴者に嫌悪感を与えなかったのは、お金をめぐる正論であり、上品で正直な桜子のキャラがウケたから。女性視聴者の好む王道のラブコメながら、結婚やお金について考えさせる社会派の側面もあるなど、男女を問わず話題となり、最終回の視聴率は34.2%を記録した。

ただ、桜子の突き抜けたキャラが愛された分、その結末は賛否両論。「あの人は私にお金より大切なものがあることを教えてくれたの」「残念ながら、私はあなたといると幸せなんです」と人が変わったような清純派になり、中原欧介(堤真一)と結ばれた。ハッピーエンドに歓喜する人が多かった反面、桜子らしさが一気に失われたことを嘆く人も少なくなかったのだ。

ともあれ、冬に何度も再放送された季節を感じさせる名作であることに疑いの余地はない。主題歌はMISIA「Everything」。

不思議な世界観の最終回は号泣必至

■2位『Summer Snow』(TBS系、堂本剛主演)

  • 池脇千鶴

    池脇千鶴

  • 小栗旬

    小栗旬

事故死した両親の後を継いで自転車店を営む篠田夏生(堂本剛)と、心臓の病を抱える信用金庫OL・片瀬ユキのラブストーリー。さらに夏生の弟・純(小栗旬)には聴覚障害があり、ひったくり犯の冤罪で逮捕され、妹・知佳(池脇千鶴)は純の幼なじみ・末次弘人(今井翼)と密かに交際し、17歳で妊娠してしまう。困難が重なり、貧乏暮らしの中、まっすぐさを失わない夏生を見て、ユキは閉じこもりがちだった生き方を変えていく……。

今年の夏は、『義母と娘のブルース』(TBS系)と『グッド・ドクター』(フジ系)の評判がよかった。どちらも“悲劇を前提にしたハートフルな作品”だったが、それぞれ家族モノと医療モノ。夏は恋の季節だからこそ視聴者は、悲劇を前提にしたハートフルな恋愛モノが見たかったのではないか。そんな意味も含めて、『Summer Snow』を2位に選ばせてもらった。

特筆すべきは、夏生のキャラクター。「両親の店を継いで借金を返しながら、高校生の弟と妹を育てる」「おバカでお調子者だが、情に厚く面倒見がいい」という江戸っ子風の金髪青年は、堂本剛のハマリ役だった。

それだけに結末の悲劇性はインパクト大。ユキは「心臓移植するしか生きられない」という状況になり、視聴者は「死んでしまうの?」「移植するなら誰の心臓?」という心境に……。ただ、察しのいい人は、「一番明るく元気な夏生が危ない」と感じていた。

案の定、夏生は子どもをかばって交通事故に遭ってしまうが、すぐにユキのもとを訪れて楽しく会話している。ほどなく心臓移植手術がはじまり、心配そうに見守る夏生。術後のユキを何度も見舞い、いつものように笑顔で話しかけ、やっとキスもできた。

しかし、外出許可をもらって夏生の自転車店を訪ねたユキは、知佳たちから真実を聞いてしまう。つまり、事故後の夏生は幻だったのだが、「これはどういうこと?」と視聴者の心にさざ波を立てながら、最後に2人が「一緒に見る」と約束した幻想的な“夏の雪”を映し出して終了。キツネにつままれたような不思議ムードの最終回だった。

聴覚障害でろれつの回らない話し方の純を演じた小栗旬、末っ子ながら母親のような母性がにじむ知佳を演じた池脇千鶴、夏生に感化されてチャラ男から人情派に変わる弘人を演じた今井翼、父親としてユキを心配する刑事・片瀬正吾を演じた角野卓三、ユキをめぐるライバルの嫌味な医師・橘青児を演じた中村俊介、子役時代の福田麻由子など、助演の熱演も光った。

ところで、今夏放送の『高嶺の花』(日テレ系)も、風間直人(峯田和伸)は「父の死で自転車店を継いだ」「純粋さでヒロインの心を変えていく」という設定だった。こんな設定は“脚本家あるある”かもしれない。主題歌は、Kinki Kids「夏の王様」。明るいサンバ調の曲だが物語の印象で、「哀しい歌にも聴こえる」「サビで泣く」という人も少なくなかった。