• 遊川和彦氏(左)と野島伸司氏

――山田さんは、平成を代表する脚本家・野島伸司さんの連ドラデビュー作『君が嘘をついた』から『愛という名のもとに』まで5作連続でプロデューサーを務めました。その後、フジテレビでは『この世の果て』など、TBSでは『人間・失格』『聖者の行進』など、過激な作風に変わりましたが、今振り返ってどんな印象ですか?

山田:『君が嘘をついた』は、「自動車工場の工員とデニーズの女店員がお互いに見栄を張ってウソをつく話にしたい」って言ったら、大多くんが「そんなの当たりませんよ」と言われて、お上品な設定になりました(笑)

八木:いいですね。それ面白そうですよ(笑)。僕は「テレビドラマは家族そろって見るもの」と思っているので、目を背けたくなるようなシーンが多い『人間・失格』や『聖者の行進』みたいなドラマは、自分が作りたいと思わなかったです。もちろん否定はしませんけど、自分のモチベーションを上げるためには、「こういうのが流行っているから作ろう」とはしなかったので。

――八木さんは、こちらも平成を代表する遊川和彦さんの脚本家デビューから、ブギシリーズなどで関わっていましたよね。

八木:遊川さんは当時からコメディセンスがあって、彼自身がそういうキャラクターを持っていました。もともとは『うちの子にかぎって…』のADをやっていて、ある意味で自己顕示欲の強いADさんだったんですよ。「俺が撮ったほうが面白い」みたいな感じで(笑)。当時、「『うちの子』のスペシャルを作れ」と言われたのですが、たまたま(脚本の)伴一彦さんがフジテレビさんのほうでつかまっていて。そうしたら、遊川さんが「僕、書けますよ」と。「ホントか?」と思いながらも背に腹は代えられなくて書いてもらったら、これがスゴく面白くて。

山田:遊川さんは『学校へ行こう!』を書いていただきました。その縁をつなげてくれればよかったんですけど、TBSさんばかりになって、そのあと日テレさんばかりになって(笑)。でも、すごい才能を持っていらっしゃる方ですね。

八木:最近の遊川さんのドラマは設定とかキャラクターを、頭の中で作っている感じになっているのかなと思うところがあって、なかなか僕としては感情移入しづらい。もちろん、エンタテインメントとしてはアリだと思うんですけど。

――その遊川さんは、3月まで『ハケン占い師アタル』(テレビ朝日系)で脚本に加えてチーフ演出を担当していましたが、どう思われましたか?

山田:もともと監督志望だったから。

■もっとオリジナルの連続ドラマを

――『白線流し』は若手ばかりのキャストや地方ロケなど、今思えば思い切った企画だったのではないでしょうか。シリーズ化して最後まで描いたのはどんな狙いがありますか?

山田:当時、夜中に放送された1時間のドキュメンタリー(『別離の歌~飛騨高山の早春賦・「白線ながし」~』)があって、「こういう目線で若者たちを描きたい」と思っていたんですよ。「こういう青春ドラマをやりたいと思う人は集まれ!」という形で最初の路線作りをして、現場のプロデュースは本間(欧彦、現・北海道文化放送常務)くんにお願いしました。当時のフジテレビはまだ余裕があって、地方ロケのお金をかけられたし、キャスティングもほとんどオーディションにするなど、それほど視聴率がとれないであろうものに対して寛容でした。若手キャストや地方ロケが難しくなっているのは、フジテレビだけではないですけどね。

八木:そうですね。特に編成の人たちがサラリーマン化してるような気がします。連続ドラマの醍醐味は「次にどうなるのか分からない」というか、ワクワクドキドキするみたいな。それは作っているほう演じているほうも同じです。今は原作モノということで結末が見えてしまっている。単発ドラマならそれでもいいけど、連続ドラマはそうじゃないと思うんですよね。物語をつくるのはしんどいけど、そのしんどさが視聴者の興味につながるのかなと。原作モノが視聴率をとれていればいいんですけど、ほとんどとれてませんからね。オリジナルがもっとあっていいと思っています。

山田:でも今のTBSはドラマがしっかりしているなと思いますよ。フジテレビよりも。

八木:「日曜劇場」だけだと思いますよ。あとは似たり寄ったりだと思います。でも僕は『白線流し』が大好きで、『北の国から』もそうですが、良明さんとは好きなドラマが似ているみたいですね。『白線流し』は放送中も見ていたし、続編としてスペシャルもやるじゃないですか。成長とともに放送していくという形は、テレビドラマしかできないことですし、うらやましかったですね。

山田:本当はもっと(続編を)やりたかったんですよね。今、(主演の)長瀬さんは40歳でしたっけね。やりどころだと思うんだけどな…(笑)。なかなか難しいところはありますし、「誰かを殺して葬式で集まるのも悲しいだろうな」と思うとあれなんですけど、40歳のみんなは見てみたいですよね。2005年の(『白線流し~夢見る頃を過ぎても』)後も、(脚本の)信本(敬子)さんを呼んで本作りまでしたことはあるんですけど、やめたんですよね。『北の国から』もそうですが、最初から続編の展開は考えていないですから。『白線流し』は卒業するまででしたし、好評だったから続けることができたんです。

■シーズン1は超えられない

――原作モノではありますが、『半沢直樹』(TBS)や『逃げるは恥だが役に立つ』(同)など視聴者の待望論が強い作品は少なくありません。プロデューサーとしては、続編はやりたいものですか? それとも新作をやりたいものですか?

八木:会社がやりたいだけじゃないですか(笑)。作り手としては、最初からシリーズのつもりで作っていないし、やっぱりシーズン1が一番面白いんですよ。だから「視聴率がとれたとしても、クオリティとしては下がらざるを得ない」というか、だから楽しくないですね。

山田:『抱きしめたい!』も4回続編をやりましたよね。けっこう最近(2013年)もありましたし、今後も可能性はゼロではないと思いますよ。フジテレビが乗れば、2人(浅野温子、浅野ゆう子)はやるんじゃないかな。でも、八木さんがおっしゃったように、最初のシリーズを超えるのは難しいでしょうね。視聴者は「そんなこといいから見せてよ」という人が多いかもしれませんが。『白線流し』も続編の可能性はあるんじゃないですか? みなさんご存命だし、活躍されているわけですから。

●山田良明
1946年生まれ、大阪府出身。慶応義塾大学卒業後、69年フジテレビジョンに入社し、『北の国から』『君の瞳をタイホする!』『東京ラブストーリー』『101回目のプロポーズ』『愛という名のもとに』『白線流し』などを制作。広報局長、編成制作局長、常務取締役、共同テレビジョン社長などを歴任し、現在は同社相談役。18年に舞台『「新・幕末純情伝」FAKE NEWS』で71歳にして俳優デビューを果たした。

●八木康夫
1950年生まれ、愛知県出身。早稲田大学卒業後、73年東京放送(TBS)に入社。『パパはニュースキャスター』『ブギ』シリーズ 『カミさんの悪口』『協奏曲』『魔女の条件』『オヤジぃ。』などを制作し、10人の脚本家による2015年のオムニバスドラマ『おやじの背中』も話題を集めた。執行役員、取締役などを歴任し、現在は日本大学芸術学部放送学科で非常勤講師を務める。

■著者プロフィール
木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。