働き方改革実行計画とは、「一億総活躍社会の実現」を提唱する安倍晋三首相を議長として、各界有識者による働き方改革実現会議が、平成28年9月から翌年3月まで10回にわたり開催され、その成果物として公表されたものです。

働き方改革実行計画の概要は、会議の当初9分野の改革の方向性が提示され、最終的には「働く人の視点に立った働き方改革と意義」と改革テーマの各論、最後に「10年先の未来を見据えたロードマップ(工程表)」を加えて完成されました。

  • 働き方改革実行計画を知っていますか

今回の働き方改革関連法改正に実を結んだものや、今後の働き方のトレンドとなっていく重要テーマが掲げられて示唆に富んだ内容なので、ここで概要をおさらいしておきましょう。

働き方改革実行計画の概要

働き方改革は日本経済再生に向けた最大のチャレンジと位置づけられ、労働生産性および付加価値生産性の向上と労働参加率の向上により、一億総活躍の明るい未来を切り拓こうとうたわれています。また、現状から以下の3つの課題を提示しています。

・正規、非正規の不合理な処遇の差を解消し、世の中から「非正規」という言葉を一掃していく
・長時間労働を自慢するかのような風潮が蔓延、常態化している現状を変えていく
・単線型のキャリアパスを変えて、ライフステージに合った仕事の仕方を選択できるようにする

これら働き方改革の大義と解決すべき3つの課題をおさえておくことは、各企業やビジネスパーソンが自社あるいは自分自身の働き方改革を考える際にも役立つことでしょう。

同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善

同じ会社の中で正規雇用労働者と有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者など非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。対象は基本給、昇給、ボーナス、各種手当といった賃金の他、教育訓練や福利厚生も対象としています。

賃金引き上げと労働生産性向上

企業収益を継続的に賃上げにつなげて労働分配率を上昇させ、総雇用者所得を増加させていく方針です。具体的には最低賃金の継続的な引き上げや、中小・小規模事業者の生産性向上支援や取引条件の改善などを進めていきます。

罰則付き時間外労働の上限規制の導入など長時間労働の是正

仕事と子育てや介護を無理なく両立あせるためには、長時間労働の是正が必要であり、時間外労働の罰則付き上限規制を法律に明記して、日本の長時間労働の慣行を変革しようというものです。さらに勤務間インターバル制度、パワーハラスメント対策、メンタルヘルス対策にも言及して、良好な人間関係づくりも推進するとしています。

柔軟な働き方がしやすい環境整備

時間や空間の制約にとらわれることなく働くことができるテレワーク、オープンイノベーションや起業の手段、セカンドキャリアの準備としても有効な副業・兼業を普及促進する方向性を打ち出しました。

女性・若者の人材育成など活躍しやすい環境整備

育児期の女性でも受講しやすい女性リカレント講座の開拓や、高度なIT分野を中心に技術革新と産業界のニーズに合った能力開発を推進、就職氷河期世代や若者の就業促進など、個人の学び直し支援の充実を図ります。また、配偶者控除の収入上限を103万円から150万円に引き上げ、企業の配偶者手当の見直しや復職制度の整備も呼び掛けています。

病気の治療と仕事の両立

病気を治療しながら仕事をしている人は、労働人口の3人に1人を占めています。そのような方が職場に居場所があって生きがいを感じながら働ける社会を目指します。具体的には企業の意識改革と受け入れ体制の整備を図るとともに、主治医、会社・産業医と、両立支援コーディネーターによるトライアングル型のサポート体制の構築を構想しています。

子育て・介護等と仕事の両立、障害者の就労

待機児童解消加速化プランの取組を進めるとともに、今後も新たなプランを策定して、子育てと両立して仕事が続けられるための支援策を講じます。育児休業給付の支給期間を最大2歳まで延長したことも、その一環です。また介護については、2020年代初頭までに50万人分以上の受け皿整備を推進します。介護人材を確保するため処遇改善も行います。さらに男性の育児・介護等への参加促進、障害者の法定雇用率を引き上げ、障害者等の希望や能力を生かした就労支援を推進します。

雇用吸収力、付加価値の高い産業への転職・再就職支援

単線型の日本のキャリアパスを変え、再チャレンジが可能な社会にしていくためには、転職や再就職など多様な採用機会の拡大が必要です。官民が一体となって、AIなどの成長分野を含めた転職・再就職者の採用機会を広げる方策に取り組んでいきます。

誰にでもチャンスのある教育環境の整備

子どもたちの誰もが家庭の経済事情にかかわらず、未来に希望を持ち、それぞれの夢に向かって頑張ることができる社会を創ります。そのために公教育の質の向上や高等教育の経済的負担の軽減策を推進します。

高齢者の就業環境

65歳までの定年延長や65歳以降の継続雇用延長を行う企業への支援を充実させ、将来的に継続雇用年齢等の引き上げを進めていくための環境整備を行っていきます。多様な技術・経験をもつシニア層が、広く社会に貢献できる仕組みや年齢にかかわりなくエイジレスに働けるよう、希望する方のキャリアチェンジを促進します。

外国人の受け入れ

高度IT人材のように、高度な技術、知識を持った外国人材の積極的な受け入れを図る一方、その他の外国人材の受け入れについては、ニーズの把握から治安まで幅広い観点から、国民的コンセンサスを踏まえつつ、真に必要な分野に着目しつつ、検討を進めていきます。

10年先の未来を見据えたロードマップ

以上を踏まえて、最後に、合計19項目からなる対応策の一つ一つについて、2026年度までに、どのような施策をいつ実行するかを具体的に定めたロードマップ(工程表)を作成、更改しています。

日本は今まで、1.5人前の労働時間と仕事量を見込める人だけを男性正社員として雇用し続け、それ以外は職場から排除していくマッチョ的な企業社会でした。しかし今後は、女性、シニア、障がい者、外国人、育児や介護など多様なニーズや価値観を持つ人材が、しなやかに共同参画できる企業や社会になっていかなくてはなりません。

その大改革を確実に実行するための課題と解決の方向性を各論ベースで整理したものが、この働き方改革実行計画でした。

著者プロフィール : 米澤 実(よねざわ みのる)

社会保険労務士事務所 米澤人事コンサルティングオフィス代表
千葉県船橋市出身。株式会社リクルート(現リクルート・ホールディングス)でクリエイティブディレクター、ライン組織マネジメント、グループ企業の人事部長を経て、2010年独立。現在は「元気で強い成長企業の実現を支援する人事労務コンサルタント」として活動している。