6月29日に、働き方改革関連法案が参院本会議で可決成立しました。労働基準法を中心に、労働安全衛生法、パート有期労働法、労働者派遣法など、8つの法律にまたがる幅の広い法改正です。労働法制に関しては70年ぶりの大改正ともいわれています。

  • 働き方改革関連法案を理解できてますか?

そもそも働き方改革関連法案とは、どのような主旨で、どのように法改正がなされたのでしょうか。全体像がよく分からない、という声も多く聞きますので、9項目に分けて、読者の皆様と一緒に確認していきたいと思います。

働き方改革関連法法案の目的

働き方改革関連法改正の根本的な課題は、少子高齢化への対応です。「男性が定年まで働き、女性は結婚したら専業主婦になる」という昭和の働き方モデルでは、日本企業が耐えられない時代になりました。

女性や高年齢者など多様な人材が無理なく働き続けられる、しなやかな就労環境を作っていく必要があります。

また、グローバル化や産業構造の変化に対応して、労働時間と成果が必ずしも比例しない職種も増えています。新しい「ペイ・フォー・パフォーマンス」の仕組みと運用が実現できる社会をめざしている、といってもよいでしょう。

実際には現在の法体系あるいは企業慣行とのバランスをとった法改正ですので、必ずしもパーフェクトな着地点ではないですが、上記のような狙いを念頭に置くと、以下9項目の各論も理解しやすいのではないかと思います。

高度プロフェッショナル制度の導入

年収1,075万円以上の一部の専門職を労働時間に関する保護から外す制度です。為替トレーダーなど、高度の専門的知識などが必要で、労働時間の長さと仕事の成果との関連性が低い職種が対象となり、適用職種は今秋以降に省令で定められます。具体的には残業時間や休日、深夜の割増賃金の支払いが適用除外となります。

残業時間の罰則付き上限規制

これまでも過労死ラインとして判例や通達で示されてきた基準が、今回初めて法的な拘束力と罰則のある上限として明記されました。

残業は、36協定を締結・届け出することにより、原則として月45時間、年360時間まで可能ですが、特別条項を付帯することで最大で年6回まで、月45時間を超えて残業をすることが可能です。

ただし、年間上限は720時間以内(法定休日出勤を除く)、またどんなに繁忙月でも月100時間未満、2~6カ月の平均で月80時間以内(法定休日出勤を含む)に納めなければなりません。(医師、運転手、建設労働者など一部適用除外あり)

勤務間インターバル制の促進

一日の勤務終了後から翌日の勤務開始までの間に一定の休息時間を確保する制度です。これはまだ努力義務なので法的な拘束力や罰則はありませんが、政府は2020年までに導入企業の割合を10%以上とする数値目標を閣議決定する見通しです。

ちなみにEU諸国では11時間の確保が義務づけられています。

年次有給休暇の消化義務

年10日以上の年次有給休暇が付与されている労働者には、一人につき最低5日取得させることが企業に義務づけられます。違反した場合は罰則も科されます。

中小企業の残業代割増率の引き上げ

大企業はすでに実施済みですが、2023年からは中小企業でも、月60時間を超える所定外労働割増賃金の割増率が5割に引き上げられます。

同一労働同一賃金の促進

正社員と契約社員、パートタイマー、派遣社員など、雇用形態の違いによる不合理な処遇格差を是正するもので、待遇差がある場合には、企業側には合理的な理由を明確に説明できることが求められます。

フレックスタイム制の清算期間延長

フレックスタイム制の清算期間の上限が1カ月から最長3カ月に延長できるようになります。ただし1カ月を超える清算期間を定めた場合は、1週間あたりの労働時間が50時間を超えた分については各月精算で2割5分の割増賃金を支払う必要があるなど、運用が複雑になるため、実際に延長する企業は限られると思います。

労働時間の適正把握義務

これまでも労働者の労働時間の状況を適切に把握することが義務付けられていましたが、これに管理監督者や裁量労働制適用者も加えて全労働者が対象になりました。また、残業が月80時間を超えた場合は、医師の面接指導が義務付けられます。

産業医・産業保健機能の強化

企業側は産業医に必要な情報を提供し、産業医の勧告を受けたときは、勧告内容を衛生委員会や安全衛生委員会に報告し、講じた措置の内容を記録・保存することが義務づけられました。

以上、概要を解説しましたが、ご理解いただけましたでしょうか。一部のモーレツ社員のみが生き残れる競争型企業ではなく、一つの職場に多様なニーズをもつ様々な就労形態の社員が共存する共生型企業となっていくことが、これからの日本企業の歩むべき道だともいえますね。

今回の働き方改革関連法改正は、そのための基盤整備であり最低限度のルールです。そういう意味では、必要にして不十分。テレワークのガイドラインの確立など、法律外での取り組みも注目されています。

真の働き方改革は、それら基盤と精神に基づいて、各企業や業界団体、労働者や生活者のしなやかな発想やアイデア、デザイン力に成否がかかっているのだといえるでしょう。

著者プロフィール : 米澤 実(よねざわ みのる)

社会保険労務士事務所 米澤人事コンサルティングオフィス代表
千葉県船橋市出身。株式会社リクルート(現リクルート・ホールディングス)でクリエイティブディレクター、ライン組織マネジメント、グループ企業の人事部長を経て、2010年独立。現在は「元気で強い成長企業の実現を支援する人事労務コンサルタント」として活動している。