こんにちは、人事・戦略コンサルタントの松本利明です。私は戦略人事のコンサルタントとして25年以上「働き方や人事」に関するコンサルティングを行い、5万人のリストラと6,500名以上のリーダーの選抜をしてきた『人の「目利き」』と言われています。
最近、驚くことが増えました。本人は「周りに気を使い、慕われ、優秀な俺」と思っているけれど、周囲からは「勘違い野郎」と評価されている人が繁殖しています。特に令和になり、その傾向が顕著になりました。
ややこしいのは「本人は悪気がなく、よかれ」と信じ切っていることです。いわばグレーゾーンの範囲なので周りは指摘しづらい状況なので本人は気付きません。なので、うっかりするとあなたも「悪気がない困ったちゃん」の仲間入りを仕掛けているかもしれません。
本連載では、「悪気のない困ったちゃん」のパターンを知り、そこから抜け出すヒントを解説します。
One Teamかぶれ野郎
One Teamかぶれ野郎とは、2019年流行語の「One Team」に感化され、都合よく解釈したものです。「One for all,All for one」を唱えるのはいいのですが、その中心は自分でないと気が済まないのが痛いところです。
「スクール☆ウォーズ世代」だとさらに、その勘違いに輪をかけるのです。多様性の時代に真逆の精神を持ち込むので、かえってチームの士気も生産性も落ちるのです。主将 リーチ マイケルの名言をもとに、早速解説しましょう。
一言や態度のグレーゾーンはここだ
この一言を言われたら、あなたは付いていきたいと思いますか?
「僕の中では、勝つためにはキャプテンが最強でないと勝てない」
チームのキャプテンともいえる上司。弱いより強い方が良いには決まっていますが、仕事となると微妙です。プレイングしかしないマネジャーではチームはまとまらないからです。
昭和時代に生存していた、仕事面で部下に対し「俺と勝負するか!」とタイマンを張る。上司に相談すると「代打、俺!」と部下の代わりに全部でしゃばる困ったちゃんに成る可能性が9割。実際、600社の企業コンサルで現場も見てきた私の結論です。
この状態になるとメンバーが工夫しても「俺が一番!」とその方法をゴリ押ししてくるのでメンバーは考えることを止めてしまい、上司が好きなようにさせてしまいます。当然モチベーションは下がる一方で弱体化するのです。
「小さい者がデカい相手に勝つところを、それを証明しよう」
スポーツでも仕事でも弱者が強者を相手に勝つことにロマンを感じますが、並大抵の事では達成できません。
ビジネスでは業界大手企業が有利だからです。市場に影響を及ぼす顔ぶれは、ほぼ変わらず、その中でたまに順位が入れ替わるくらいなのは、あなたも見てきたことでしょう。ロールプレイングゲームでも、スタートしてラスボスがいきなり倒せないのと一緒です。
ビジネスの世界では小が無理してデカい相手に勝つことより、勝てる相手に「より確実」に勝ち続け、チーム全体が強くなる方が堅実です。
負けばかり続いて、サクッと上司が左遷やリストラされるといいですが、上司がメンバーの評価権を持っているので、上司がいなくなる前に、先にあなたが左遷やリストラとなってはたまったものではありません。
実際、6,500名を超えるリーダー候補の選抜と育成をしてきましたが、選ばれるリーダー候補は必ず、小さな勝ちを積みかさねていました。
勝つことはメンバーの能力の成長だけにとどまりません。勝ち癖と自信といった士気があがる空気感を醸成し、チームが勝てる戦力レベルに至るまでコツコツと地道に小さな勝ちを積み重ねていました。
「夢を持つことはすごい大事で、一番持ってほしいのは目標」
確かに、夢を持つことは素晴らしいです。残念ながら、多くの日本企業の職場は忙しすぎて、「夢を持つ余裕」すら持てないのが現実です。
講演や研修の場で「仕事、プライベート、お金など、全ても不安や問題が解消したら、どんなことをしたいですか?」と問いかけても「寝る、温泉に行く」など、目の前のほんと些細な幸せしか浮かばないのが日本の職場の実態です。(海外の方に同じ質問をすると、前向きでやりたいことがたくさんでてきます)。
この状態はみなさんも実は気づいているでしょう。なのに「夢を持とう、そして目標も」と言われても、「結局、夢を個人の業績目標に落とし込むだけでしょう」とナナメから本音を見透かされてしまいます。なぜなら、日本企業は、心に響かない、取って付けたような会社や上司のビジョンを毎年聞かされてきたから。
どんなに活動してもビジョンに近づかず、本気で目指している熱量も具体策も示されないまま、日々の業務に追われているからです。「今年こそダイエット成功」「今年こそ英語を克服する」と唱えても、アクションプランすら作らないことと一緒ということ。
会社でOne Teamを作るには
いかがでしたか。仕事の世界では競技と異なり、目に見える目標を描きにくいのです。上場などの大きな節目はスポーツの世界より少ないのと、日本代表チームのように選抜されたメンバーだけでなく、落ちこぼれ、ベテラン含め、いろんな立場の方々や考え方、意欲の温度差があるのが前提の違いです。
ではビジネスではOne Teamに成れないかと言えばそうではありません。アプローチの順番を変えることです。
メジャーリーグベースボール最低クラスの年俸総額でありながら、毎年のようにプレーオフ進出を続け、全30球団で最高の勝率、最多の勝利数を記録したオークランド・アスレチックスのGM ビリー・ビーン。
彼が用いたアプローチが有効で、映画化もされた「マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男」(ランダムハウス講談社)で詳しく解説されていますが、冷静に選手のスペックを分析し、そのスペックを活かして勝つ作戦をたてていくのが正解です。
そのための第一歩は、「キャラ」を知ることから始めればいいのです。格闘技ゲームでも技、力、速の属性やキャラの違いにより、使える技と武器が違うように、メンバーそれぞれ、使える技も武器も違うのです。
まずは対話から始めましょう。相手は自分とはキャラが違う前提で接し、個性、持ち味、考え方を知ることです。チームとしての現在の戦力をつかむことです。
そして、その戦力を元に、わずかでも結果につながることを続けていくことで、チームとしてまとまり始めます。自らビジョンを語り、リーダーシップを発揮して突っ走ることは格好よく見えますが、最初の一歩は地味なものです。実際、リーチ マイケルも対話を重視していました。
その一歩を踏み出すコツは、「相手に興味関心を持つ」ことです。ここから始めましょう。