編集部とお笑いが好きなライター推薦により、今年ブレイク必至の芸人をピックアップする新連載『お笑い下剋上2021』。賞レースに対する意気込みやコンビの関係性などを聞きつつ、お笑いへの向き合い方やパーソナルな一面にも迫っていく。

最終回となる第5回に登場するのは、吉本興業所属の「ダイタク」。熊本出身・一卵性の双子漫才師だ。高校卒業後、兄・大は大学進学、弟・拓は就職と別の道に進んだが、大の卒業を機に揃って上京。養成所に入り、ともに幼い頃から意識していたという芸人の道に進んだ。

ダイタクは、2019・2020年連続で『M-1グランプリ』準決勝に進出。「ヨシモト∞ホール」の看板芸人であり、連日数多くの舞台に立ち続けている。芸人からの信望も厚く、二人の躍進を待ち望む人は多い。そんな二人に、賞レースや漫才に対する考え方、そしてこれからについて話を聞いた。

お笑いコンビ・ダイタクの吉本大(左)と吉本拓

ダイタク:吉本大(左)と吉本拓
2009年4月にコンビ結成。「M-1グランプリ2020」では準決勝進出

――大さんが大学を卒業するタイミングで拓さんが仕事を辞めて、東京NSC(吉本興業の養成所)に入ったそうですね。そもそも、芸人になることを意識したのはいつ頃ですか?

吉本 拓(以下、拓):親によると、幼いときから"なんとかライダー"とかよりもバラエティやネタ番組を観てたらしいです。小学校5年生のときに、プリンプリンさんのネタをコピーして兄貴に見せたのが(2人でネタをした)初めてで。そっから、なんとなく2人とも「テレビの向こう側の仕事」をやるんだろうなと思ってたんですよ。みんなからは「なにそのかっこつけた言い方」って言われるんですけど、漫才やったりテレビに出たりする人に「なるもんだ」と思ってたんです。だから、目指すというより「"その時"がきたらなるんだろうな」って2人とも思ってて。

吉本 大(以下、大):「芸人になろう」と約束したことは、1回も無いです。ただ、芸人に憧れてるなっていうのは薄々お互い感じてて。大学3年の冬に拓に電話して、「俺、就職活動してないし親にも言い訳つかないから、早く仕事辞めて帰ってこいよ」って言っただけですね。

拓:「時が来たな」って感じでしたね。大の電話切って、そのまま上司に電話しました。「3月で辞めます」って。

大:性格上、やんないといけないところに来るまでやらないんですよね。テスト勉強も、本当にギリギリになるまでやんない。芸人だって、やろうと思えば高校卒業したらできるじゃないですか。でも「はえーかな」と思ってやらない。で、(大学卒業という)リミットが近付いたんで、もうなるしかないと(笑)。

どんなに売れても「劇場で漫才」をやり続けたい

――今は『M-1』の予選真っ只中ですね。優勝を目指す芸人さんは多いと思いますが、二人にとって『M-1』はどんな存在でしょうか?

大:優勝したいとは思ってるんですけど、長くやってると「M-1が無かったら平和なのに」って思ったりもするんですよ(笑)。

拓:芸人にとって、1個の名刺になるじゃないですか。ここで結果残してないと、名刺を持ててない芸人になっちゃう。『M-1』のために芸人になったとは思わないし『M-1』が無くても漫才やってたと思うんですけど、まぁ、避けて通れないじゃないですか。

大:登山家になったら高い山に登りたいのと一緒で、そこに『M-1』があるから挑戦せざるを得ないというか。ただ、無かったらどんだけ平和だったんだろうと思います(笑)。

――ダイタクさんは「60分漫才」や「即興漫才」など、『M-1』に直結しない漫才も大切にしているイメージがあります。それはなぜですか?

大:『M-1』の漫才って"『M-1』用の"漫才なんで。『M-1』がダメだったら漫才続けられないの? って言ったら、僕はそうじゃないと思う。職人気質なのか分かんないですけど、どうせ漫才やっていくなら(M-1に直結しないネタも)どうなるかやってみたいみたいなところがあって。こいつはどう思ってるか分からないっすけど、僕の感覚だと、『M-1』出なくなったら双子ネタはやらないと思います。

拓:いや、やるんじゃないですか(笑)? でも、今までみたいなネタの作り方ではなくなるかな。

大:もうちょっとくだけた漫才というか。お客さんが喜んで笑ってくれたらそれで良いんで、最終的には日常会話みたいな感じでやっていけるのがベストかなって僕は思ってます。「これが漫才」「これは漫才じゃない」とかって無いじゃないですか。

拓:そういうネタを『M-1』に持っていっても良いんですけどね。

大:なかなか難しい。

拓:よく言うじゃないですか。4分の中で何個ボケた、何個ツッコんだとか。

大:そういうのはあんまり好きじゃない(笑)。だからそうやって作ったことは1回も無いですね。

拓:正直『M-1』に向けてネタを作ったことは無くて。今年作った面白いネタを持っていくって感じなんで、研究も1回もしたことないですし。

大:だからダメなのかもしれない(笑)。

――賞レース用にネタを研究して挑む芸人さんもいるんですね。

大:僕らはそれが性に合わないので、そういう作り方はしないって決めました。

拓:洋服のコレクションってあるじゃないですか、例えばパリコレとか。でも(普段着として)着てるの見たこと無いですよね。みんなパリコレを目指してデザインしてるけど、それが無くなったとき普通の服作れんの? って思うんですよ。俺らも『M-1』行きたいからって『M-1』用の漫才しかしてなかったら、それが無くなったときに(M-1用ではない漫才を)作れんの? ってなる気がするんです。そこの感覚を忘れたくないから、即興漫才とかもやる。『即興漫才-1グランプリ』とか『60分漫才-1グランプリ』とかあったら、余裕で決勝いけると思うんですよね。『M-1』しか無いから売れてないだけですね、俺たち(笑)。

大:そんなことない(笑)。でもまぁ、『M-1』ってそんくらい考えちゃうものなんですよ。昔は「お前ら絶対行けるよ」とか「優勝できるよ」って言ってくださる先輩が多かったんですけど、最近は応援というより「いつ行くんだ、いい加減にしろ」ってなるんですよ。いや俺たちも行きたいんだけど、みたいな。もう面倒くさいから、優勝したいと思ってます(笑)。

拓:『M-1』に向けてネタを研ぎ澄ますのって、やっぱりやってて楽しいもんじゃないんで。だって、尺が理由で泣く泣く削ったりするわけですから。本当はこのボケ見せたいのにとか、もったいないですよね。

大:だから『M-1』は『M-1』で割り切ってやる。(出場資格がある)4年以内に絶対獲ると思いますよ。じゃないと周りが面倒くさいんで(笑)。

――最近だと、ニューヨークさんやオズワルドさんなど近い存在の方が『M-1』決勝に進出していますよね。周りの躍進に影響を受けることはありますか?

大:そらありますよ。いずれ売れるだろうなと思ってた周りの芸人が、ちゃんと行ってるんで……漠然と、自分たちは「売れるし決勝行ける」って思ってたんですけど、周りが売れたことによって「やっぱり自分たちが思ってたことは正しいんだ」って明確に思えたというか。

拓:だから、悔しいとか嬉しいというよりも……

大:「そりゃそうだよね」っていう。

拓:そうだし、「俺たちがミスってただけ」っていう。

大:(決勝)行けば売れるし、一生漫才できる。

拓:単純ですね。

――「一生漫才」というのは、やはり劇場で?

大:もちろんです。

拓:テレビでもいっぱいネタやりたいですけどね。

大:テレビでやれば、劇場にお客さんが来てくれるんで。舞台は最高ですよ。1回やってみてください(笑)。

――売れ方によっては劇場に出なくなる芸人さんもいると思うんですが、ダイタクさんにとって理想の駆け上がり方ってどんな感じですか?

大:めちゃくちゃ売れたとしても、劇場は絶対残したいですね。相当大事にしていきたい。

拓:贅沢なこと言いますけど、ネタ番組出て、深夜番組1~2個持って、劇場で芸人と喋る時間は残したい。僕らはそもそも酒飲みですし、ギャンブルも好き。朝から晩まで仕事ってなると、酒飲む時間も無いじゃないか!ってなりそうなんですよ(笑)。

大:僕らって、楽屋でも必ず動くんですよ。暇な時間が嫌いで、まわりと喋ったりギャンブルやったり、後輩や先輩とご飯行ったり、空き時間にパチンコ行ったり。全部楽しい時間にしたい。だから極論は、楽しければなんでも良い。

拓:そうだね。

大:テレビが楽しければ、テレビに力入れても良い。でも舞台の楽しさは絶対的に知ってるんで、舞台は絶対にやりたい。

――最近は、ダイタクさんに近しい方がテレビにたくさん出演しているので、お二人も出るようになったらすごく楽しくなりそうですね。

大:そう。ものすごいやりやすい、理想の形に近付いてますね。

拓:やっぱり、はじめましてのMCだと、まず双子の"上澄み"をすくいたいじゃないですか。双子ってどうなの? とか、小さい頃ってどうだった? とか。でも今の僕たちのほうが、昔より面白いエピソードあるわけですよ。

大:見分け方教えてとか、テレパシーあるのとか、どうしても絶対言われちゃうんですよ。それって、僕らのパーソナルっていうより"双子"に対してのことじゃないですか。大と拓は全然違うのに。世間の人が、「大」と「拓」って(個々を)認識してくれたら、僕らがやる漫才もめちゃくちゃ変わってくるんですよ。そうなったときの漫才を自分たちでも感じてみたいんですよね。

拓:「双子だけど全然違う」ってネタを今やっても良いんですけど、それやっちゃうと戻れなくなるんで。僕らって簡単に言うとキャラ漫才なんで、1度方向性を変えたらそっちにシフトしないといけない。それは認知されてからできることなんで、まだやってない。

大:僕だけ太ったとかハゲたとか、それだけでも漫才の方向性変わるし。それはそれで楽しみじゃないですか。(方向性を変えれば)無限に楽しめますよね、僕たちが。