内海桂子の弟子にして、落語芸術協会の三遊亭小遊三一門。2003年に漫才新人大賞を受賞、2008年の今年はお笑いホープ大賞とNHK新人演芸大賞をダブル受賞し、『M-1グランプリ2008』では決勝進出も決定したナイツ。今、一番勢いに乗っている芸人ではあるが、言い間違いのボケを畳み掛ける塙、訂正のツッコミを入れる土屋、という現在のスタイルに固まるまではウケない悩みもあったという。芸風が確立するに至った突破口とは、そしてナイツの描く展望とは?【前編はこちら

塙宣之(左)と土屋伸之

――師匠がいる芸人さんは今では珍しいですね

塙宣之(以下、塙) : 「あくまで一門の弟子ですけどね。カバン持ちをしたり、師匠の家に毎日行くって感じではなかったです。でも師匠のもとについて、寄席の世界に入れたのは本当にラッキーでした」

土屋伸之(以下、土屋) : 「今日も浅草でお年寄りを前に15分のネタをやってきました」

塙 : 「一門に入って感じましたけど、ファミリーの雰囲気っていいですね。芸人として一番嬉しいのは、死ぬ時に自分より優秀な弟子に囲まれることだと思います」

土屋 : 「僕らも最終的には弟子をとれるようになれれば」

――現在の芸風はどのようにして確立しましたか?

塙 : 「例えばアンタッチャブルさんの漫才コントほど面白いものはない。だから他の芸人もみんな『漫才コントをやらなきゃいけない』みたいな感じになるんですよ。でも僕らには合わなかった。結局、面白い人を真似ても、そこそこの笑いしかとれないことに気付いたんです。これでは突き抜けられないなと思いましたね」

土屋 : 「自分たちがしっくりくるやり方じゃないと」

塙 : 「冷静に分析すると、僕らの漫才でウケていたのは最初のつかみ。『今日は足もとの悪い中』というのを『臭い中ようこそお越し下さいまして』『お客さんに失礼だろ』ってやると、絶対にウケました。でもつかみが終わってコントの設定に入っていくと、ウケない。だったら逆に、つかみを続ければいいんだなって発想を変えましたね。全部をつかみのようなボケにすればいい」

土屋 : 「言い間違いの小ボケを重ねていくんです」

塙 : 「実際に披露するまでは怖かったけど、寄席にかけてみて、ウケたときは『イケる!』と手応えがありました。このスタイルならずっと続けられる、って。例えば林家正蔵さんの番組に出るときは『正蔵さんのことをヤホーで調べました』といって、言い間違い、覚え間違いを重ねていく。これならネタを消費しないし、その人自身も喜んでくれる」

――ネタはどうやって作ってるんですか?

塙 : 「毎日ブログで考えていて、ボケの部分だけ書いた紙を土屋くんに渡します。それを読んでしばらく考えてもらって、ネタ合わせしながら内容を決めていきます」

土屋 : 「僕のツッコミは言い間違いのボケを正しく訂正するだけですから、やりやすいです(笑)。大きなボケをつっこむテンションは苦手だけど、振りのない、いきなりポンと来るボケは処理しやすい」

塙 : 「ネタのリズムも標準語向きなのかもしれませんね」

土屋 : 「野球の守備でいうと、大きなフライを取る外野手が関西ノリのツッコミ。僕は千本ノックでゴロを取る内野手のよう」

塙 : 「ファインプレーは生まれない、みたいな」

土屋 : 「ファインプレーより、球をちゃんと拾うって感じ」

塙 : 「あとはボケがあまり飛びすぎないように気をつけます。例えば若い子はリズムでごまかせても、お年寄りは手強い。ヤホーじゃなくてインターネットのヤホーまで言わないと。この前はヤホーを諦めてパソコソって言いました(笑)」

――今後の活動の展望はありますか?

塙 : 「今後については、テレビに残るとしたら司会をやるしか道はないから、勉強しないと。それから僕は漫才協会の理事をやっていますから、学校でお笑いの授業が必須になるような働きかけをしたいですね」

土屋 : 「舞台芸人が食っていける場を都内に作りたいなとも思います。一定のライン以上の芸人に常に仕事があるシステム」

塙 : 「そうそう。むかし怒られたんですよね、芸人の仕事だけで食えてないのにプロって言うなって。例えばプロの球団に入れなかった野球選手は、普通に就職する。でも芸人は面白くない奴でも事務所に入って、舞台に立ってる。それだけで自分をプロと言うのは甘い」

土屋 : 「芸人は事務所の社員じゃないですからね。僕らも『ナイツ』という会社の経営者であって、事務所にマネジメントしてもらってるだけ」

塙 : 「一方で、食えてない人たちの中には受賞歴があったりする。落研の先輩のエレキコミックもそう。本当に面白い芸人だけが活躍できる場を作りたいですね」

土屋 : 「そのためにも、まずは『M-1』を頑張ります!」

12月21日には、いよいよ『M-1グランプリ2008』の決勝戦に挑む

ナイツ プロフィール

塙宣之●1978年3月27日生まれ。千葉県出身のA型。言い間違い、覚え間違いを畳み掛けるボケ担当。毎日ブログにネタをしたためる。2007年、漫才協会の最年少理事に就任。お笑い芸人の「はなわ」は実兄。
土屋伸之●1978年10月12日生まれ。東京都出身のAB型。塙の言い間違いボケを訂正していくツッコミ担当。公認会計士を目指すも、塙が部長を務める大学の落語研究会に入部。母親は元演歌歌手。ナイツ公式サイト『ナイツスタジアム