FXの大相場の数々を目撃してきたマネックス証券、マネックス・ユニバーシティ FX学長の吉田恒氏がお届けする「そうだったのか! FX大相場の真実」。為替相場分析の専門家がFXの歴史を分かりやすく謎解きます。
今回からは、「アベノミクス円安」をとりあげます。「アベノミクス円安」とは、2012年12月の総選挙で自民党が大勝し、安倍政権がスタートする前後から、それまで75円まで下落していた米ドル/円は、ほんの2年半で125円まで、なんと50円近くも上昇した歴史的な円安大相場です。
それにしても、2年半で50円も米ドル/円が上がる相場。そこで米ドルを買っていたらいくらになってたみたいな、つい「捕らぬ狸の皮算用」をしたくなってしまうのではないでしょうか。その上で、「そうはいっても、そんな大相場、とても予想できるとは思えないし」と、冷静になって。
ところが、歴史的な円安大相場となった「アベノミクス円安」でしたが、そのスタートは、じつはこれまで見てきた「トランプ・ラリー」と同じだったと言っていいかもしれません。
トランプ・ラリーと同じ米大統領選挙年「アノマリー」
この「アベノミクス円安」がスタートした2012年12月は、4年に一度、米大統領選挙が行われた直後でもありました。「トランプ・ラリー」編でもご紹介したように、米大統領選挙年の米ドル/円には、選挙までは方向感の乏しい小動きが続くものの、選挙前後からとたんに一方向へ大きく動き出し、年末までに年初来の高安値のどちらかを更新するといった「アノマリー」がありました。 2016年11月からの「トランプ・ラリー」も、この「アノマリー」通りだったといえるものでしたが、「アベノミクス円安」も、そのスタートは「トランプ・ラリー」以上に「アノマリー」通りといえる展開だったのです。
2012年の米ドル/円は、10月まで70円台後半から80円台前半での一進一退が続いていました。ところが、11月頃から突如大きく上昇方向へ向かい出すと、年初来の高値を更新、一気に90円へ迫る動きとなったのです。
きっかけは、11月に当時の民主党・野田総理が解散・総選挙を決断し、自民党への政権交代見通しが強まったこと、そしてその自民党・安倍新政権の経済政策、まさにアベノミクスへの期待から株高も大きく進み始めたということでした。それに米ドル/円もつられる形で米ドル高・円安が広がっていったわけです。
ただし、米大統領選挙年の「アノマリー」からすると、政権交代も、アベノミクスへの期待も「きっかけ」に過ぎなかったということでしょう。そもそも、米ドル/円は一方向へ大きく動こうとしていた。アベノミクス関連の材料は、その絶好の口実になったということでしょう。
投資は「先読み」が基本であり、「後講釈」はあまり意味がありません。「きっかけ」とは、後から振り返って「あれがきっかけだったね」というもの。その意味では、「先読み」が重要な投資においては、この「アベノミクス円安」の大相場スタート時点では、「米大統領選挙前後から年初来の高安値を更新するまで一方向に大きく動く可能性がある」といった「アノマリー」情報は、もちろんその通りになるかはわからないとしても、価値あるものだったのでしょう。