「ファッション」と「テクノロジー」から成る造語であり、IT技術を活用してファッションの新しい価値を創出する「ファッションテック」。日々衣服を着て生活する私たちにとって、これからより身近なものになっていくかもしれない。

本稿では、ZOZOテクノロジーズで「Fashion Tech News」を運営し、東京大学でファッションに関する研究を行う藤嶋陽子氏に、「ファッションテック」の可能性を聞いていく。

第2回では、ECサイトの新しい形として、ZOZOMAT、ZOZOGLASSについて紹介しよう。

みなさんは、洋服をどのように購入していますか?もちろん店舗に足を運ぶ人も多いかと思いますが、ECサイトを利用する人も多くいることでしょう。特にコロナ禍の状況下で店舗の休業も続き、依然として外出にも不安が残る中で、ECサイトの利用機会は増えているのではないでしょうか。株式会社Virtusizeが2020年4月に発表した「調査レポート: ファッションECにおける新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響」によると、ファッションECサイトの売り上げは堅調で前年に比べて増加しており、購買は週末により一層集中、ピーク時間は、従来の21時に比べて早い19時にシフトしているそうです。しかし、サイズや着用感が重要なファッションアイテムを実物を見ずに買うことに、いまだ抵抗感がある人もいるのではないでしょうか?

「ファッションテック」の潮流を紹介する本連載、まずは私たちにとって身近な事例となる、ECサイトでの買い物をめぐるテクノロジーについて紹介していきたいと思います。

バーチャルフィッティングへの期待

ECサイトを眺めて素敵な服と出会い、購入して家に届くのを心待ちにしていても、実際に届いた商品が思い通りのものだったということばかりではないでしょう。いつもと同じMサイズを選んでも、それがたとえ過去に購入経験のあるブランドのMサイズだったとしても、素材やデザインによってウエストがきつい…なんてことがあるから洋服の買い物は難しいですよね。試着してみたら色味が自分には合わないなんてことも。返品はユーザーにとって手間であるのはもちろんだけれど、売り手にとっても他に購入を希望していたユーザーを逃したり、再販できない状態で戻ってくるリスクでもあります。そのため事前に着用感をユーザーに正確に伝えて返品の可能性を少なくする仕組みを作ることは、ユーザーにも売り手にもメリットは大きい取り組みとなるわけです。また、返品を減らして流通の回数を削減することは、環境負荷を下げることにも繋がります。

では、実際にはどのようなアプローチがなされているのでしょうか? 近年、注目を集めているキーワードのひとつに「バーチャルフィッティング(Virtual Try On)」というものがあります。いわば、試着の擬似体験です。方法は多様で、例えばスマートミラーやスマートフォンの画面上に映る自分の姿に商品画像を重ねるようなARを活用したものがあります。特にコロナ禍においては、コスメティクス領域で店頭でのタッチアップが難しい状況となり、口紅やネイルのシミュレーションができるサイトも増えました。また、アバターを着せ替えさせるようなアプローチもあります。これは自分の写真をアップロードするか、自分の容姿や体型に近いアバターを選ぶと試着した姿を合成してくれるようなものです。

こういったバーチャルフィッティングは、正確なサイズ感や布の動きの確認は現時点で難しいですが、着用した雰囲気を確かめるためには有効です。そのためECサイトだけではなく実店舗でも活用されるような事例も登場しており、例えば中国では、入店と同時に全身を撮影、スキャンし、気になったアイテムの二次元バーコードを読み取るとスマートフォンにて試着した姿を確認できるような店舗も登場、商品選択をアシストしてくれます。また特に、ウェディングドレスなど着脱の手間が大きいものの試着にも活用が期待されています。まだ試着できる対象の服が限られるなど課題はありますが、普及する未来も近いのかもしれません。

サイズ選びに悩まないために

上記のような着用イメージへのアプローチの他にも、正確にユーザーの身体を計測してサイズ選びの失敗を減らそうという試みもあります。自分でサイズを測るのは手間ですし、正確に測ったとしても商品情報と照らし合わせて判断するのは難しいですよね。

実際に皆さんに使ってみてもらえるサービスとしては、ZOZOが開発・提供している、サイズ選びの難易度の高い「靴」の購入にアプローチした「ZOZOMAT」というサービスがあります。これは「ZOZOMAT」という無料で配布された足の3D計測用マットとZOZOTOWNのアプリを使用してミリ単位で足を3D計測し、あなたにおすすめのサイズを相性度として提案してくれます。

"ちょうどいい"と感じるサイズ感は個々人で異なるもので、靴だけではなくパンツなど他のアイテムでも、少し緩めが好きなど好みがあるかと思います。従来はこういったサイズ感の好みをブランド側が把握することが難しいものでしたが、上記のような「ZOZOMAT」のサービスで感想をフィードバックしていくと、サイズ感に関するデータが集まっていきます。より多くの人が快適だと感じるサイズ感を、蓄積されたデータから解明することが可能となるわけです。

新しい商品との出会いをナビゲート

上記の「ZOZOMAT」は、欲しいと思った商品が自分の足と合うかを確かめるために使用できますが、それ以外にも自分の足にフィットするであろう商品と出会う手助けもしてくれます。ECサイトは実店舗のように物理的なスペースの制約がないため、非常に多くの商品が存在しています。それゆえに便利なのですが、欲しいものの具体的なイメージがなく、自分に合うものから探したいといった場合には、商品を検索することが難しいこともあるでしょう。そうした時に必要となるのは、未知なる商品と出会うためのアシストです。

同じくZOZOが提供する「ZOZOGLASS」というサービスもまた、こういった商品の海をナビゲートしてくれるようなものです。メガネ型の計測ツールをかけると肌の色を測定することができ、自分にあったファンデーションとマッチングしてくれるというものです。今まで、ECサイト上の商品へのナビゲートは購入履歴やユーザーの属性から判断して提示されるリコメンデーションでしたが、こういった測定サービスからのリコメンデーションは、自分では全く選択肢にいれてなかったような、存在を知らなかったような、でも自分に合った商品との新しい出会いをもたらしてくれるかもしれません。

買い物の体験をリッチに

ECサイトが私たちの生活のなかで必要不可欠なものになるなかで、単なる実店舗の代替ではなく、テク ノロジーの進展によって実店舗とはまた違う視点で商品に触れ、商品と出会う場となりつつあります。「ファッションテック」というものを通じて私たちの生活や買い物の未来をどのように変わっていくのか、ECサイトという身近な存在から、変化の片鱗を感じることができることでしょう。

次回は「ファッションテック」に関するプロダクトについて、紹介していきます。