「ファッション」と「テクノロジー」から成る造語であり、IT技術を活用してファッションの新しい価値を創出する「ファッションテック」。日々衣服を着て生活する私たちにとって、これからより身近なものになっていくかもしれない。

本稿では、ZOZOテクノロジーズで「Fashion Tech News」を運営し、東京大学でファッションに関する研究を行う藤嶋陽子氏に、「ファッションテック」の可能性を聞いていく。

第4回では、AIとファッションデザインの現在ついて解説してもらう。

みなさんは、AIが創作するということを、どのように考えますか? 今日、AIによって絵画や小説、音楽などを作り出す試みが数多く見られるようになりました。それは、極めて捉えにくい人間の「感性」をAIに理解させるという挑戦でもあります。

では、ファッションデザインではどうでしょうか?これまでのファッションデザインの歴史は、偉大なファッションデザイナーたちの歴史でもありました。そんなファッションデザインの領域にAIを持ち込むことで、何が起きるのでしょうか? 「ファッションテック」の潮流を紹介する本連載、今回はファッションデザインにおけるAIの活用の現時点について紹介していきます。

AIにファッションデザインはできるのか?

AIによるファッションデザインは、現時点でもたくさんの試みが登場しています。たとえば、2018年にイギリスのAIアーティスト・Robbie Barratが、AIを用いてBalenciagaの仮想のコレクションを作り出したことが大きな話題となりました。このAIは過去のBalenciagaのルックブックやランウェイショー、広告などの画像データを学習して作られています。このコレクションは、ブランドの世界観を表現することには成功しているように見えた一方で、服の境界は溶けて、そのままのデザインを実物の服にすることは難しいものでした。

このように、ファッションデザイナーの役割すべてを果たすことは難しい一方で、デザインプロセスの一部分に用いるものであれば、すでに実用化段階にあります。たとえばイメージに合うような模様やプリントの図柄を生成や、カラーバリエーションの提案などが考えられるでしょう。人間のデザイナーとAIが共創することで、より効率的な生産を可能とすることが期待されています。

ファッションデザインの在り方を捉え直すために

そんななか、AIによるファッションデザインを、既存のファッションデザイン工程や生産プロセスをスピーディにするためではなく、生産体制をよりサステナブルにしていくために用いる試みが登場しました。次代のファッションをつくりだす研究を行う、Synflux株式会社による「アルゴリズミック・クチュール」というプロジェクトで、H&Mファウンデーションが主催するグローバル・チェンジ・アワードでも特別賞を受賞しています。

この「アルゴリズミック・クチュール」は、デジタル技術とAIを駆使したデザインシステムで、生産過程における布の廃棄を大きく減らすことを実現しています。洋服を作るためには、型紙にそって布を裁断しますが、人間の身体は曲線的な凹凸があるので、四角形の布から切り抜くには多くの生地が端切れとして余ってしまいます。現状の裁断方法では布の25%もの部分が廃棄となることもあるそうです。環境にとっても、そしてコストの面でも大きな無駄を生み出しているわけです。それに対して「アルゴリズミック・クチュール」では、四角形と三角形を組み合わせて身体の形にフィットする型紙を自動生成することで、廃棄を大幅に少なくすることができます。

  • 「アルゴリズミック・クチュール」(Photo : Synflux)

SynfluxによるAIの活用は、見た目やシルエットのデザインだけではなく、生産プロセスも設計し直すことへの挑戦といえるでしょう。見た目としてのデザインと、生産プロセスの設計という意味でのデザインを掛け合わせ、ファッションデザインの在り方をテクノロジーによってアップデートしています。 現在では布帛だけではなくニットにも範囲を広げ、様々な柄のバリエーションを少ない糸の色数で生産可能とすることで、糸の廃棄を少なくすることにも取り組んでいます。ファッションブランドHATRAとコラボレーションし、GANで生成した図柄を用いたニット作品にも注目が集まりました。

  • 「Syn Feather」(Photo : HATRA+Synflux)

  • 「Syn Feather」(Photo : HATRA+Synflux)

ものづくりの未来のために

過剰な生産、深刻な環境負荷が問題となっている今日では、あえて新しいものをつくりつづけていくことに大きな責任が伴います。AIによるファッションデザイン、また生産への導入には効率化だけではなく、ものづくりの未来への思想が伴うことで、より良いテクノロジーとの共創の在り方が導かれていくことでしょう。

次回は最終回として、コロナ禍以降、注目が高まるバーチャルファッションについて、紹介していきます。