大陸貿易の寄港地は楽天キャンプで盛り上がる

私ごと、いま北海道は稚内にきている。真っ白な北の果ての地で、はるか南の島の記事を書いているというのも、日本列島ほんとに長いなとそんな思いを改めて抱かせたり……と、稚内旅行記はまた次回のこととして、今回は稚内から直線2,500kmにも及ぶ彼方、沖縄県・久米島のお話なのである。


ここ久米島は、自治体の名称でいうと沖縄県島尻郡久米島町。地理的にはかなり離れているが沖縄県最北の島・硫黄鳥島(無人島)も、行政上はこの町に含まれている。

サトウキビ畑の脇に、収穫されたサトウキビが積まれている。その向こうには製糖工場の煙突。毎年初めの数カ月、沖縄の島々で見られる光景だ

訪れたのは2008年の春先と秋のこと。まずは1年ほど前、ちょうどプロ野球の春季キャンプシーズンが始まり、久米島には東北楽天ゴールデンイーグルスがやってきていた。島中が楽天イーグルス歓迎ムード一色。空港はもとより、島の至るところに楽天イーグルスを応援する横断幕が掲げられている。偶然にも泊まった宿は楽天の選手・スタッフが宿泊していたところで、ロビーではかの野村監督の姿も何度も見かけた。今年も本記事が掲載されてまもなく、春季キャンプがスタートする。

2月、島は楽天イーグルス歓迎ムードで満たされる。左の写真は空港内に設けられた展示コーナー。右は空港到着ロビー入り口脇にある像なのだけれど、なんとも微妙……

春季キャンプの頃、島は桜の季節でもある。滞在中、天気には恵まなかったものの、鮮やかなピンク色に咲き誇る緋寒桜を拝むことができた。それから季節は反転し、昨秋にも訪問。残念ながらこのときも台風が邪魔をして、文句なしの青空とはいかなかった。天候という点では、どうも久米島とはあまり縁がないようだ。

島南部・アーラ岳で見た緋寒桜(寒緋桜とも)。沖縄の桜は、ここ久米島でも、沖縄本島でも、1月から咲き始める。ちなみに久米島には、もっと色の白い久米島桜という種類もある

久米島は、沖縄本島の西、那覇からおよそ100kmの東シナ海に浮かんでいる。本島周辺の島々の中ではもっとも大きく、面積は約56平方km、周囲は50kmとちょっとある。沖縄県に属する島としては沖縄本島、西表島、石垣島、宮古島に次いで5番目に大きい。アクセスは那覇からの飛行機かフェリーのいずれかが基本だが、夏季には東京からの直行便も就航する。僕が訪れた季節はともに夏ではないので、行きは那覇からの飛行機、帰りは那覇までのフェリーを利用した。飛行機では25分。フェリーは途中の渡名喜島に寄る便が4時間、直行が3時間15分程度の道のりである。

手元に地図があれば見ていただきたい。久米島は沖縄本島から中国大陸へ向かう途中にある。よってこの島はかつて、琉球と中国の貿易船の寄港地としても使われた。琉球王国よりもっと古い時代のものとみられる交流の跡もある。そしてこの島より先には、大陸に至るまで陸地はない。

那覇との間を結ぶ久米商船のフェリーは島の南西にある兼城港に発着する。港のすぐそばには「ガラサー山」と呼ばれる奇妙な小島が。よく"男性のシンボル"のようだと説明されている。写真はフェリーから見たところ

ガラサー山が"男性のシンボル"なら、こちらは島の北岸にある「ミーフガー」。女性の象徴になぞらえられ、子宝祈願で拝まれているようだ。自然と人間が結びついた、いわゆる文化的景観とも呼べる地である

沖縄県はクルマエビの一大産地として知られるが、とりわけ久米島のクルマエビは名高い。海岸沿いには養殖場も見られる。刺身でも塩焼きでも、プリプリッとした食感がたまらなくうまい

久米島最大のリゾートエリア、イーフビーチ近くの「亀吉」でいただいた「さくな御膳」。サクナは長命草とも呼ばれる植物で、肝臓、腎臓や高血圧、リウマチなどさまざまな病に効くといわれる

東シナ海を前にして思う"端"の感慨

久米島というと、沖縄好きなら知らない人はいないと思うが、そうでない人々には案外名前が通じなかった。島で観光業に携わる方に聞いても、「那覇に一度旅行にきて初めて名前を知った、という方が多かったですね」という。しかし最近では、前出の楽天イーグルスのおかげで知名度アップ。また海洋深層水「球美(くみ)の水」から島の名前を知る人も増えているようだ。なお、球美とは久米島の古名である。

久米島というと最近では海洋深層水「球美の水」も注目されている。写真は海洋深層水の資源利用を研究する目的でつくられた沖縄県海洋深層水研究所で、あらかじめ申し込めば施設見学も可能

世界で初めて海洋深層水を利用した温浴施設としてつくられた「バーデハウス久米島」。そのすぐ脇には「久米島ウミガメ館」がある。そして両施設のそばにはこんな像が。やはり浦島伝説があるのだろうか

そしてもうひとつ、久米島の知名度を高めているものがある。もっともポピュラーな泡盛のひとつ、「久米島の久米仙」の存在だ。この泡盛を造る酒造メーカー、その名も「久米島の久米仙」は島の北部・宇江城岳のふもとに本社と工場を持ち、工場見学もできる。周囲には「比屋定バンタ」「ミーフガー」などの景勝地や、「宇江城城」「具志川城」といった史跡もあり、酒好き泡盛好きならずともぜひ訪れておきたいところだ。

久米島はもちろんのこと沖縄本島南部においてもいちばん飲まれている泡盛……という説もある「久米島の久米仙」。ちなみに、那覇に久米仙酒造という会社があり、「久米仙」という泡盛を出しているが、こことは無関係

景勝地として知られる「比屋定バンタ」から遠望した、はての浜。はての浜は久米島観光のクライマックスともいえるところで、泳ぎやシュノーケリングを楽しめる。ただし歩いては渡れないため、業者が催すツアーを利用する必要がある

動画
海岸の断崖を流れ落ちる滝が、凄まじい北風を受けて逆さに吹き上がる「阿嘉のひげ水」。まさに自然の驚異と呼ぶべき光景で、言葉を奪われる

久米島には数多くの観光名所がある。東海岸から橋でつながる奥武島の「畳石」、さらにその沖合いにおよそ7kmにもわたって延々と続く白砂の砂浜「はての浜」あたりがよく知られるところだろう。しかし今回、いちばん興味を持ったのは、島の北から西にかけての海岸である。そう、その先に日本がないところだ。

中でも感動を覚えたのは、宇江城城という城(グスク)跡からの雄大な光景だった。宇江城城跡は位置関係からすると久米島の久米仙のすぐ背後、島内最高峰となる標高309m余りの宇江城岳の頂にある。沖縄ではもっとも高い場所にある城跡だ。南東側を眺めれば、海に連なる白いはての浜と、その向こうに慶良間諸島を、視線を少し北に移せば渡名喜島を、さらに北を見やれば粟国島の姿を望むことができる。条件がよければ遠く沖縄本島も見渡せるそうだ。

宇江城城跡を訪れたとき、ちょうど石積みの修復が行われていた。作業員に「いつ頃完成するんですか?」と聞いたら、「さぁ、予算しだいだからわからないねぇ~」と実にのんびりとしたお返事

しかしそちらの向きは、言ってみれば"人が住む"方角である。横を向いて北を、さらにくるりと西のほうを見つめれば、そこにはもうユーラシア大陸の縁まで陸地がない壮大な紺碧の海が広がっている。そこが日本の端である実感がさらに湧いてくる。

久米島はいわゆる東西南北のどの極みとも認定されていないし、日本の端として意識されることすらめったにないので、こういう思いはすべて個人的な感慨かもしれない。しかしそれは、できることなら多くの人に、現地で実感してほしい思いでもある。

宇江城城跡の石垣の上から見た北西の海。この遠く向こうは、もう日本ではない。琉球と大陸を行き来した古の人々の姿が目に浮かぶようだ

北西岸の崖の上に位置する具志川城跡。宇江城城跡が県指定遺跡であるのに対して、こちらは国指定遺跡。中国の古銭や陶磁器が出土しており、大陸との交流をうかがわせる

久米島の観光名所として知られる「畳石」。正確にいえば久米島ではなく橋でつながれた奥武島の海岸にある。溶岩が冷え固まるときに生まれた、亀甲のような自然の造形だ

宇江城岳一帯のキクザトサワヘビの生息地が2008年10月、湿地保全のための国際条約「ラムサール条約」に登録された。久米島の生物といばクメジマボタルも有名である。写真は久米島ホタル館

上り坂のように見えるがモノを転がすと下っていく「おばけ坂」。要は錯覚である。実際に行ってみると……期待ほどでもなかったのが残念なところ。まあカラクリを知ってるからだけど

次回は宗谷岬・稚内編、厳冬期の"最北端"を訪れる、をお送りします。