先週につづいて、米プロスポーツ中継をめぐるお金の話を少し。

来年末で現在のテレビ放映権が期限切れとなる大リーグ(MLB)のロサンゼルス・ドジャース。新たな契約については「総額40億ドル以上」といった金額もすでに出ているようだ——と前回の記事でそう書いたが、これをはるかに上回る「25年間で60億~70億ドル」という条件ですでにドジャースとフォックス・スポーツとの交渉が大詰めを迎えているという。


EXCLUSIVE: Fox Closing Deal For Dodgers’ TV Rights: Paying New Owner $6B-$7B For 25 Years; ‘We’re Out’ If Not Done By Nov. 30 - Deadline
Fox Closes on $6 Billion-$7 Billion Dodgers Deal, Deadline Says - Bloomberg (上記Deadlineの記事をもとにBloombergが報じた記事)

両社間の交渉は今月末に期限が区切られており、早ければ27日あたりにも合意が発表されそうな見込み。「現在年間4,000万ドルほどのドジャースの取り分が、契約更新後にはいっきに最大2億8,000万ドルになる可能性も」ということで、プロスポーツ生中継をめぐる権利の高騰ぶりをまざまざと見せつけるものにも思える。

この記事のなかで目を惹くのは、まず「なぜこれほどスポーツ放送の値段がつりあがるのか」という点。答えは「ハードディスクレコーダーが広く普及し、Hulu、Netflixといったウェブベースの動画ストリーミングサービスも勢いを増すなかで、もはやTVCMをスキップされずに、きちんと観てもらえる番組といえば、スポーツの生中継くらいしかない」というもの。

ケーブルテレビの加入料は月額100ドル以上するものもあり、しかも100を越えるチャネルがバンドルされているから、実質的に観ないコンテンツにもたくさんお金を払っている。そんな実情に加えて景気は2008年以降ずっと低迷中だ。こうした背景から、ムダな出費を嫌気した倹約家(?)の視聴者の間で、ケーブルテレビを解約し、安価に観られるウェブ動画や無料の地上波などで代替する「コードカッター」の流れが一時期大きく取り上げられていたことがあった。

そういうコードカッターの家庭で、亭主(あるいはボーイフレンド)がプロスポーツの試合中継を観るために、わざわざ近所のスポーツバー(米国の都会なら各ブロックに1軒づつくらいある)に出かけていく……という話を以前にどこかで目にした記憶がある。それだけの吸引力を持つコンテンツなら、CMも含めてしっかり全部観るというのは確かに頷けることに思える。

ところで。フォックス・スポーツといえば先週、ニューヨーク・ヤンキース(と、ブルックリン・ネッツ)の試合放映権を持つYES Networkという会社の半分弱を15億ドルほどで取得することが決まったばかり。

News Corp. to Acquire 49% of YES Network at $3 Billion Value - Bloomberg

この取引の前提となっているヤンキースとYESとの放映権をめぐる契約は30年間(2042年まで)有効で、YESからヤンキースへの年間支払い額は最終年度に3億5000万ドル程度のなる見込み。

いっぽう、野球に比べて年間の試合数が半分ほどのプロバスケットボールで、ロサンゼルス・レイカーズ(LAレイカーズ)がタイムワーナー・ケーブル(TWC)と結んだ契約が20年間で30億ドルという条件(MLBはレギュラーシーズンが162試合、対するNBAは82試合)。レイカーズの試合数を単純に2倍すると、20年間で60億ドルという皮算用になり、これらと比較すると「25年間で60億~70億ドル、しかもローカルのケーブルテレビに加えて、フォックステレビの地上波全国放送分も一部含むという内容はまあ妥当な線じゃないか」と見方が紹介されている(むろん、誰も30年はおろか10年先のことだってしっかりと見通せるような時代状況でもないから、途中で条件をみなおせるような条項も契約書のなかに挿入されているのだろう)。

なお、フォックスの親会社ニューズコープは昨年英国で同グループ傘下のタブロイド紙が大スキャンダルを巻き起こしていた。政界や各界の著名人まで巻き込んだこのスキャンダルで、ニュースコープが狙っていたBSkyB(British Sky Broadcasting)という会社——その名の通り、もともとは有料衛星テレビ配信事業者で近年はブロードバンド分野などにも進出——の株式買い集め計画が頓挫。この計画のために調達していた100億ドル程度の資金の使途が宙に浮いていた。BSkyBは英プロサッカー、プレミアリーグを長年独占的に放映してきた会社で、また今年のツール・ド・フランス(自転車ロードレース)で圧倒的な強さを見せつけたチームスカイ(Team Sky)もBSkyBがメインスポンサーとなって運営されているチームであったりもする。

またニューズコープは今後事業成長が期待できる映画・テレビ部門と、それほど期待できない出版部門(新聞・雑誌・書籍など、Wall Street Journalもこちらに含まれる予定)とを切り離す案もすでに明らかにしている。

さて。ドジャースとフォックス・スポーツとの契約更新をめぐる話し合いを報じた記事のなかには、ひとつちょっと意外な名前も出てくる。それはディック・クラーク・プロダクションズ(Dick Clark Productions:DCP)——「ゴールデン・グローブ賞」「アメリカン・ミュージック・アウォード(AMA)」などの放映権を持ち、あのライアン・シークレストも獲得に大きな意欲をみせていたが、結局つり上がった売値に泣く泣く手を引いた(?)とされるあの番組制作会社である。

以前の記事にも書いたとおり、このDCPを買ったのがグッゲンハイム・パートナーズという大手の投資会社。そして、ドジャースを今年春に21億5000万ドルという破格の値段で競り落としたオーナーグループ(「グッゲンハイム・ベースボール・マネジメント」)の中心もこのグッゲンハイムである。Deadlineの記事によると、両社の交渉はグッゲンハイムの有力パートナー(個人)と、フォックス・スポーツのあるベテラン幹部が差し(一対一)で進めているということだが、この話し合いのなかでDCPが手がける番組が材料に使われているらしい。要は、フォックスのテレビ放送網(Fox Networks)で流せるDCPの番組をいまより多くするということで、法外な金額をふっかけたグッゲンハイム側がフォックスに要求を飲ませるために言い出したのかどうかまでは定かではない。

ひとつ皮肉なのは、ニュースコープがかつて一度はドジャースを所有していたという点(1998年~2004年)。取得時に前オーナーのオマリー一族に支払った金額が3億5000万ドルで、売値は4億3000万ドル。この間毎年赤字続きだったとあるから、いわゆる「損切り」だったのだろう。

追記

フォックスにドジャースを譲渡したオマリー一族というのは1957年に、それまでニューヨークはブルックリンに本拠地を置いていた球団を西海岸に移転して、プロスポーツに関する呪い(いわゆる「エベッツ・フィールドの呪い」)を地元住民にかけたとされる元オーナー、ウォルター・オマリーの子孫(Walter O'Malley)。この地元の苦痛は相当なものらしく、バークレイズ・センターのオープンに際しても何度も記事に書かれているの目にした。またネッツの開幕戦では実際にかつてブルックリン・ドジャースでプレイしていた元選手らが試合前のセレモニーにも登場していた。

New Home, New Lineup and a Fresh Result - NYTimes

[ROAD TO BROOKLYN: THE BOROUGH] (なんとなくやばそうな感じの人が続々登場)

[JAY Z BROOKLYN: Dead Presidents/Can I Live?]
(iTunesでは売っていない「Live in Brooklyn」の一場面)

[Shawn Corey Carter & Warren Buffet Interview With Forbes
(世界で3番目の大金持ちで「伝説の投資家」などと呼ばれるウォーレン・バフェットとジェイ・Zがいっしょに登場しているちょっとめずらしい番組。聞き手はForbes誌会長・編集長のスティーブ・フォーブズ)