今日のお話は「身体が上下に動かないよう水平に進む」ということについてです。「もうこのタイトルだけで内容が分かるから、説明はいらないよ! 」と、思う人もいるかもしれませんが、そういう人にこそ読んでいただきたい内容です。

身体が上下に動く走り方ではいけない

なぜ身体が上下してはいけないのか?

「なぜ水平移動が良いのか? 」を説明するためには、「なぜ身体が上下してはいけないのか? 」という説明をした方が分かりやすいです。そのために、下り坂を走ることを例に挙げて説明しましょう。

下り坂は楽に走れて、ついついペースアップしがちですが、実は多くのランナーが泣かされるのが、下り坂であることをご存じでしょうか? 楽に走れるはずの下り坂は、平地よりも膝に大きな負担がかかります。その坂の角度がきつくなればなるほど、負担も大きくなります。

なぜならば、平地より着地する足の位置が下がるからです。平地でも体重の3倍とも10倍とも言われる負荷が膝にかかりますが、着地の位置が下りで少し下がる分だけ、膝への負担は大きくなります。ではそれを具体的な数字で示してみましょう。図-1のイラストをご覧ください。

図-1: 80mの高低差で、2kmの下り坂/図-2: それを一歩1mに換算すると高低差は4cm

分かりやすい三角形で書きましたが、高低差80mの下り坂が、2km続いた道とお考えください。これは「奈良マラソン」という大会の最大の難関とされる坂で、だいぶ身体にこたえる角度です。これだけではピンとこない人もいるかと思いますので、図-2もあわせてご覧ください。

たった4cmの高低差が大きな負担になる

ランナーの一歩の幅は人それぞれですが、私の一歩は1mくらいです。ここで、図-1を基にして、1m進むための高低差を計算してみました。それが図-2なのですが、一歩の高低差はたった4cmなのです。もっと緩やかな坂では、それ以下の高低差ということになりますよね。下り坂で膝を痛める人が多いのは、マラソン界ではよく知られていることです。その下り坂の高低差というのは、数字に表すとこんなにも小さな数値なのです。

身体の上下運動は、自ら大きな高低差を作り走っていること

では「なぜ上下運動してはいけないのか? 」という本題に戻りましょう。

一番上の写真をご覧ください。飛んだときと着地したときの高低差は、だいたい帽子の高さくらいですよね? この帽子の高さを測ってみましたら、12cmありました。すなわち、先ほど例に出した坂の高低差(4cm)の3倍の高低差ということになります。

もし、このような上下運動をしながら走っていますと、「奈良マラソン」の「だいぶ体にこたえる最大の坂」の3倍に相当する高低差を、常に自ら作りながら平地で走っているということになります。それだけ余分な負荷がかかっているのは明白です。

もっと分かりやすく言えば、常に12cmの下り階段を走って膝に負担をかけ続けているようなものだということです。身体が上下に動かないよう水平に進む大切さを、もうお分かりいただけましたよね? その解決方法が、第4回で紹介しました「蹴らないで進む」ということなのです。

身体が水平移動すると、膝への負担が少なくなる

著者プロフィール

鮎川 良
奈良県の学園前にて「RYO整体院」を営む整体師ランナー。整体師だからこそ分かる身体のメカニズムを基に、ストレッチの重要性を説き、クリニックも開催する。ストイックにタイムを追求するよりも、健康で楽しいマラソンライフを提案。筋肉痛になりにくい身体作りや疲労回復のケア方法、自身が提唱する疲れにくいランニングフォーム「エンジョイラン走法」で、フルマラソン走破を目指す人のサポートをしている。著書に『がんばらないで楽に長く走る』(学研パブリッシング)がある。また、累計200万アクセス超の人気ブログ「整体師に学ぶ~マラソンによる筋肉痛改善方法と、フル完走ノウハウ」も執筆している。