最近、英語ができる人は年収が高いとか、国内で英語公用語化する企業が増えているというニュースを聞きませんか? 学校卒業以来、英語には縁がなかったけど、やっぱり必要かなと思い始めている人や、英語学習が続かなかったけど「今年こそ本腰を入れて」と考えている人も多いと思います。

このシリーズでは4回にわたって、忙しいビジネスパーソンが初級レベルから始めて継続して学習し、仕事で英語が使えるようになるになるためのヒントをお届けします。

「やり直し」より「大人の学び方」

よく「やり直し英語」という言葉をききますが、私は学校や大学で学んだやり方とはまったく違う学習法をおすすめします。理由は3つ。まず、ビジネスパーソンはとにかく忙しいので、使える時間ごとにその状況にあう学習を組み合わせ、最短距離でゴールに至る効率的学習が必要なこと。つぎは、学生時代はいつ使うかわからないけれど成績のために学びましたが、大人の学びは実践に役に立つ実利的メリットが動機となるため、内容も方法もおのずと違ってくるということです。そして最後は、ビジネスで一番必要なのはスピーキング力ですが、学校の勉強のやり方ではこれが不十分だということです。

「学校卒業以来、英語には縁がない。何から始めたらよいですか? 続けられるか心配です」
「英語はやらなきゃと思うんですが、以前続かなくて、それっきりになってしまいました」

こんな人は多いのですが、心配いりません。ビジネスパーソンは仕事を通じて段取り力がついているので、それを英語学習に応用するのだと思えば、案外大丈夫なものです。

実際、英語習得に成功したビジネスパーソンは、意識したかどうかにかかわらず、英語学習の「プロジェクト化」ができています。ゴールとのギャップを把握し、ギャップを埋めるリソースとステップを決め、実直にそれを習慣化しています。大切な自分の時間とお金を投資するのだから、ちゃんとリターンも得たいですよね。

英語学習を「プロジェクト」として考えるときに、以下の6つのポイントを意識してみましょう。

簡単に図解で示してみましたが、ひとつひとつプロジェクトの組み立て方を見ていきましょう。

1.英語学習の目的を考える

なぜ英語を学習するのか、自分の答えを持つことは英語学習を始める第一歩です。たとえば、キャリアの選択肢を増やす、やりたい仕事や今の仕事に必要、勤務先の方針、昇進・昇格要件、転職、留学、収入アップ、副業に役立つなど。家族に格好いところを見せたいという人もいるでしょう。目的について自分の答えを明確に持っておくと、くじけそうになった時の心のより所にもなります。

自己投資という点では、英語は正しく学習すればだれでも習得できるし、英語でビジネスができるレベルになれば、高いポストへの挑戦も可能になります。最近の調査でも英語力が後述するCEFRでB2以上の人は年収1000万円以上(*1)の割合が多いなどのデータも出ています。ある意味、英語学習はコスパのよい自己投資と考えられます。

*1:英会話力と年収に関する調査(レアジョブ調べ)

2.ゴール設定をする

ビジネスで使う英語力のゴールとしては、「総合的な英語力」と「ビジネスシーンでの対応力」の両面で考えるとよいでしょう。ただ初級者はまず総合的な英語力を上げることに専念したほうがよいでしょう。一定以上の英語力がないと、会議やプレゼンなどのビジネスシーンで必要な対応ができないからです。

なお英語力のレベルについては、これからは国際的な語学力基準CEFR(セファール)で考えるのが良いでしょう。

■総合的なスピーキング力

CEFRのメリットは、実際のコミュニケーション活動で何ができるかをレベル別に定義してあることです。だからビジネスにも活用しやすいのです。4技能(スピーキング、リスニング、リーディング、ライティング)別に定義されているのでスピーキングだけにフォーカスすることもできます。日本人の場合、スピーキング力は初級者はA1~A2レベル、中級者はB1、上級者はB2以上と考えるのが良いと思います。一般的に、ビジネスに支障ないスピーキング力はB2以上とされていますが、初級者の人は、まずはB1をめざしてみましょう。

■ビジネスシーン別のコミュニケーション力

ビジネスの英語は様々な場面で使うことが想定されます。打ち合わせ、会議、プレゼン、1on1, 商談、交渉、接待など。中級以上になるとこうしたシーン別のコミュニケーションのやり方にも慣れておくことが必要です。例えば、B1の人は、会議で簡単なやり取りはできますが、ちょっとこみ入った話になると議論についていけません。プレゼンでは準備すれば簡単なプレゼンができますが、質問されて即座に的確に応えることはできません。会議の進行役をやったり、商談で交渉するには最低限B2が必要になると覚えておきましょう。逆に言うと、そのCEFRレベルに至っていないのにビジネスシーン別の学習をしてもあまり効果がありません。

スピーキング力については、CEFRレベルごとにビジネスシーン別にできることを示したCANDOリストをレアジョブグループが作成しています。そのリストから、総合的なスピーキング力が上がると、どんなビジネスシーンの研修を受ければ有効なのかを知ることができます。またリストを逆引きして、交渉が必要なポジションにつきたいなら「B2は必要」というように、つきたいポジションで必要なCEFRスピーキング力を確認することもできます。そのCANDOリストのさわりを次の図でご紹介します。

3.ゴールと現在の英語力のギャップを見つける

前項で、めざすゴールはわかりました。次は自分の現在の実力をテストでチェックしてみましょう。よく、スピーキング力を試すのに、TOEIC®L&Rを受ける人を見かけますが、このテストは、リスニング力とリーディング力をはかるのに適しています。スピーキング力を伸ばしたいなら、スピーキングテストを受けましょう。CEFRの考え方に沿うなら「PROGOS®」や「LinguaSkill」などCEFR準拠のテストがいいと思います。なぜなら、国際的な基準であることに加え、実践的な定義にのっとり、自分で考え自分の言葉で答える問題が出題されるからです。

テストを受ければ、ゴールとのギャップを把握し、正しいスタートラインから始めることができます。しばらく英語に触れていないという人は、テストの結果はA1~A2レベルだと思います。でも悲観的になることはまったくありません。そのレベルから英語学習を開始する人は大勢います。

4.時間の確保と学習にかかる費用を可視化

忙しいビジネスパーソンは使える時間とその状況にあう学習法を組み合わせることがポイントです。おさえておくべき点は次の通りです。

<効果的な時間の使い方>

・声に出さないリスニングやリーディング、文法のおさらいは、通勤などのスキマ時間に ・発話練習や英会話レッスンは周囲が気にならない家や昼休みの会議室で ・長めのライティング課題や一週間の予習復習は、まとまった時間がとれる週末に ・中上級になったらニュースやインタビュー、ドラマを見るなどの日常的活動を英語でやる

■<学習スケジュール例>

平日:1.5時間x5日=7.5時間を学習時間に充てる

通勤時(在宅なら始業前・終業後) 15分x2 =>リスニング、リーディング
夜 30分スピーキング、発話リピーティング含むリスニング 30分 =>オンライン英会話

週末:2時間x2日=4時間を学習時間に充てる

朝2時間:1時間 中学英語のおさらい 中上級になったら長い動画等を見る/1時間 1週間分の復習、次週トピックの予習

月ごと:毎月1度はスピーキングテストで実力チェック

■<学習教材選び>

・教材・デジタル教材はあちこちかじるのではなく、自分のレベルにあうものをじっくりマスター
・リスニング教材とスピーキング教材は連動しているものがおすすめ
・リスニング教材は聞くだけでなくリピーティングや発音練習、シャドウイング(*)ができるもの(*シャドウイング:聞こえてくる英文のすぐ後を追いかて発話する練習)
・初級者は中学レベルの学習の要点をまとめた大人用教材でおさらい

■<学習にかかる費用面>

費用はお金をかける部分と、無料で活用できるものをメリハリをつけて使い分けましょう。教材選びのコツは以下の通りです。

・無料で聞けるアプリなどルーチン化してできるものをうまく使う
・オンライン英会話サービスの無料体験を受けてみる
・リスニングなどデジタルで済む学習と、人が相手で時間が決まっている会話学習の特徴を使い分ける
・継続と習慣化が心配な場合はカウンセラーやコーチを活用する
・会社が提供する研修機会や自己啓発制度を活用する
・教育訓練給付金制度などを利用する

5.計画の実行

上記プロジェクトの1~4を考えることができたらあとは実行するのみです。現在のレベルと、ゴールとのギャップ、使える学習時間の集中度によりますが、半年から1年は続けてみましょう。たとえば、上述の学習時間例にそって学習をつづけると、1週間で11.5時間、1ヵ月で約50時間、1年で約600時間になります。日本では小学校から大学までの英語授業時間がだいたい1000時間で、使えるようになるにはあと1000時間必要と言われています。上記を1年半強続ければクリアですね。あくまでも人とニーズによりけりですが、せっかく始めたのなら英語で仕事ができるB2レベルまで上げてしまうのをおすすめします。

上記の教材を使って何をいつ、どの時間にやるかと決め、週次の工程表(英語学習WBS)でつくる人もいますし、カレンダーとリマインダー機能をうまく活用しているケースもあります。コツは日課を定め1週間のリズムを定着させることです。もし自走に自信がなかったら、コーチやアドバイザー、家族など伴走者をつけてみましょう。

最初から気負うことなく、実行はまず1週間やってみる、できたら1ヵ月、大丈夫そうなら3ヵ月、でいいと思います。

6.学習の進捗管理をする

学習計画を立てて実行するなかで、思うようにテスト結果が伸びなかったり、業務の繁忙期にストップしてしまうこともありえます。それらがきっかけとなり、モチベーションが下がり学習を諦めてしまうケースもあります。そんなとき、どんなことで自分のモチベーションが上がるかの自己分析に基づく自己管理策を考えておくことも有効です。それから毎月1回はスピーキングテストを受けてみて、レベルが上がったか、フィードバックから弱点補強するところがないかを見ていくのも継続につながるコツです。

この回は英語学習をプロジェクトとして考えてみましたが、いかがでしたでしょうか?

次回は、今までの概念にとらわれない、ビジネスパーソンのための学習方法を紹介します。