だんだんと気温も上がり、バイク乗りにとっては快適な季節も近づいてきました。せっかくのツーリングをトラブルで台無しにしないためにも、シーズン前に愛車の点検を行っておきましょう。

3回に分けて深掘り紹介する「基本の点検ポイント」、今回は「後編」です。一番最後の「重要チェック項目」もお忘れなく!

■<スロットル>「パチーン! 」とやるのはNG! スロットル点検

ブレーキと同様、安全で気持ちのよいライディングに欠かせないのがスロットル(アクセル)の操作感です。一般的なワイヤー式の場合、古くなってくるとゴミや腐食で渋くなるので、定期的なメンテナンスが必要です。

スロットルをハンドルから外すには、グリップエンドやスイッチボックスのほか、ワイヤーを外す必要があります。かつてはスロットルとハンドルが滑りやすくなるようグリスを塗るのが一般的でしたが、現在はグリスがホコリを呼ぶのを嫌い、清掃した後は何もつけないという人も多く、ハンドルバーに巻き付けるテフロンシートも販売されています。この辺は好みによりますが、ワイヤー先端のタイコ部にはグリスを塗っておきましょう。ここはスロットル開閉で頻繁に可動するうえ、腐食などで破断しやすい部分だからです。

ワイヤーの動きが渋い場合はスロットルから外し、ケーブルインジェクターなどで内部をシリコンやフッ素系の潤滑剤で清掃するか、ひどい場合は交換します。外す場合は「引き」と「戻し」の2本があるタイプは遊びを緩めるなどのコツが必要です。メンテナンスが終わったらスロットルの遊び調整を行いますが、ワイヤーの取り廻しが悪いと、ハンドルを切った時に重くなったり、スロットルが開いてしまいます。見栄えやメンテナンス性から戻し側ワイヤーを外してしまう人もいますが、バイクの種類によってはスロットルが戻らなくなることもあるため、おすすめはできません。

また、メンテナンスが終わったあとに、スロットルを全開まで捻ってから手を放して「パチーン! 」と勢いよく戻ることを確認する人もいますが、これはNGです。スロットルバルブを痛めたり、キャブレターの多気筒車では同調が狂うこともあるためです。

  • しっかり整備されたスロットル廻りは、微細なコントロールや疲労度の軽減に貢献する

■<各部の締め付け>力まかせの増し締めはしない

近年のバイクは振動も少なく、ボルトやナットも緩みにくくなっているため、定期的にバイクショップに点検に出していれば、いきなり部品が外れるようなことは滅多にありません。それでもチェックしておきたい場所がある場合、ボルトやナットに適した工具を当てて、緩んでいないかを確認する程度でよいでしょう。絶対に緩まないようにと、力まかせの増し締めをするのはトラブルの元になります。

DIYでメンテナンスやカスタムをする方も多いですが、エンジン内部やブレーキのオーバーホールなども行う中~上級者以上は、重要な箇所にはトルクレンチを使ったりします。そこまでのトルク管理を必要としない部分でも、何度も経験を積んでいくうちに、適度なボルトの締め付け加減が身体に染みついていくものです。

ミスをしやすいのは初心者から中級者になりたての頃で、ボルトやナットが緩む原因の多くは単なる締め忘れや、間違った組み付けです。例えばハンドルバーやマスターシリンダーの交換や調整ではクランプ類の締め付けを行いますが、メーカーによっては部品の向きや締め付け手順があり、これを誤っていることがよくあります。

また、トップブリッジの中心にはフレームとの接合部に大きなステムナットがありますが、『こんな大きなナットが緩んだら大変』と、力いっぱい増し締めをするとハンドリングが悪化します。ガタが出ていたり、真ん中でひっかかるようであれば調整や修理が必要ですが、ここはデリケートな締め付け調整を要する部分なので、整備経験の少ない人はプロに任せた方がよいでしょう。

  • ハンドルやレバー位置を調整する際は、クランプなどの締め付け方に注意

■<冷却水>急激な減少はトラブルの可能性も……!

現在はほとんどのエンジンが水冷化されています。もっとも高温になる燃焼室やシリンダー周囲の壁を二重化して冷却水を入れ、ポンプでラジエターと循環させて冷やすという仕組みはご存じの方も多いでしょう。当初は安定して高いパワーを出すために考案されたものですが、現在は燃費や排出ガスといった環境性能の面でも欠かせないシステムです。

水冷エンジンにとって冷却水(クーラント)はとても重要なため、昔から2年ごとの交換が推奨されています。近年は自動車用に7年以上も持つロングライフクーラントが登場していますが、高回転まで回るバイクのエンジンは過酷なため、やはり2年で交換するのが無難です。劣化が進むと、冷却性能の低下やサビを発生させる原因になります。

冷却水の点検はリザーバータンクの量で確認しますが、短期間で急激に減る場合は何らかのトラブルを抱えているはずです。緊急時は冷えている時に水道水を入れてしのげますが、原因を究明しなければ大きなトラブルになるでしょう。古いバイクの場合、まれにタンク内に溜まったヘドロ状の汚れがホースを塞いでいたり、サーモスタットやポンプ、ラジエターファンやスイッチが故障していることもあります。

『空冷のエンジンがあるのだから、水がちょっと足りなくても平気なのでは? 』というのは大きな間違いです。水冷エンジンは水で冷やすことを前提に設計されているため、オーバーヒートするとエンジンの部品が歪んでしまうこともあります。冷却水が漏れていたり、水温系の針が振り切れそうなら、すぐにエンジンを停止して自然に冷やしてください。あわててラジエターキャップを開けたり、エンジンに水をかけるのはNGです。

  • リザーバータンクだけでなく、ラジエターキャップ内も点検できれば安心

■<サスペンション>フロントフォークの点サビに注意

サスペンションのトラブルで一番多いのは、フロントフォークからのオイル漏れです。停止状態では漏れていなくても、走行でサスペンションが動きだすとインナー/アウターチューブ間からジワジワと滲みはじめます。漏れたオイルはフォークを伝わり、真下のブレーキキャリパー内に入るとブレーキが効かなくなるため、すぐに修理が必要です。

フロントフォークがオイル漏れをする原因はオイルシールの不具合ですが、その多くは点サビによる損傷です。前を走る車両が跳ね上げた小石などでインナーチューブのメッキに傷がつき、ここに長期保管中に点サビが発生し、久々にバイクに乗ってサスペンションが縮んだ時にオイルシールをガリっと傷つけてしまうわけです。

オイルシールの交換は特殊工具を用いるため、アマチュアでも作業できる人は少ないようです。分解はせず、紙やすりを差し込んでシールを削って修復できることもありますが、これも一時的なものと考えた方がよいでしょう。インナーチューブの点サビに気づいたら除去しておくべきですが、がむしゃらに磨くと悪化させてしまうので注意も必要です。普段から汚れや湿気に気をつけ、ゴム・シールを侵さないシリコン系ケミカルでコートしておけば点サビの発生を防げます。

オフロードバイクのインナーチューブにはフォークブーツというジャバラの筒が付いていますが、これは飛び石による破損を防ぐ部品で、昔は多くのバイクに装備されていました。路面の舗装化が進むとオンロードモデルでは省略されましたが、現在はネオクラシックモデルで再び採用され、スポーツタイプでも盾のような樹脂製ガードがあります。これらを流用するのも一つの方法です。

  • サスペンションのオイル漏れは危険で修理も高額。普段から点サビに注意しておきたい

■<そのほか>最後の「重要チェック項目」も忘れずに

久しぶりに乗る場合は、念のため自賠責保険や任意保険、車検が切れていないことも確認しましょう。もしも自賠責保険が切れた状態で走行すると、1年以下の懲役か50万円以下の罰金に、免許停止(違反点数6点)という重い処分が科されます。

この状態で事故を起こした場合は大変で、さらに処分が重くなるだけでなく、すべての賠償が自己負担になります。仮に任意保険に加入していたとしても、車検切れの車両は補償適用外と判断されたり、補償額が大幅に減額されることもあります。

せっかく愛車を隅々まで点検したのに、保険切れの事故ですべてを失っては元も子もありませんので、最後の「重要チェック項目」として覚えておいてください。

  • 久しぶりに乗る時は、ナンバープレートに貼られた車検や自賠責のステッカーを確認