だんだんと気温も上がり、バイク乗りにとっては快適な季節も近づいてきました。せっかくのツーリングをトラブルで台無しにしないためにも、シーズン前に愛車の点検を行っておきましょう。

今回からは、「前編」「中編」「後編」の3回にわたり、基本の点検ポイントを深掘りして紹介します。

■覚えてますか? 「基本の点検10項目の呪文」

かつては毎日1回行う「運行前点検」として教わり、2007年4月の道路運送車両法の改正で、適切な時期に行う「日常点検」となった「ネン ・ オ ・ シャ ・ チ ・ エ ・ ブ ・ ク ・トウ ・ バ ・シメ」。何やら不思議な呪文のようですが、それぞれ10項目の点検箇所の頭文字です。念のため、おさらいしておきましょう。

ネン:燃料
オ:オイル
シャ:車輪
チ:チェーン
エ:エンジン
ブ:ブレーキ
ク:クラッチ
トウ:灯火類
バ:バッテリー、ハンドル、バックミラー
シメ:各部締め付け

これは古い時期に作られたものですので、現在は「水(冷却水の量)」や「サス(サスペンションの作動やオイル漏れ)」もチェックすべきでしょう。事項からは、この中で注意すべき点を深掘りして解説します。

  • かつての「運行前点検」(現在の「日常点検」)を基本とした点検箇所

■<燃料>極度に古いガソリンはトラブルの元

ガソリンは生モノなので、3カ月から半年ほどで劣化が始まります。保管されている環境にもよりますが、高温多湿や空気にさらされた環境でなければ、半年~1年位前のガソリンでもエンジンの始動はできるはずです。

本来のガソリンは無色透明ですが、灯油と間違えないようにオレンジ色に着色されています。酸化によって劣化が進むと色は濃くなり、異臭も強まりますが、さらに何年も放置するとガム状に変質し、ガソリンタンクやキャブレター、インジェクションの金属を腐食させたり、通路を詰まらせてしまいます。こうなると面倒な分解清掃や部品交換が必要になるので注意が必要です。

何年もバイクを保管する場合はガソリンや油脂類を抜いておくのが一般的ですが、半年ほどならシーズンオフの前に満タンにしておく程度で大丈夫でしょう。満タンにする理由は、タンク内の空気を減らしてガソリンの酸化やサビの発生を防ぐためです。また、PEA(ポリエーテルアミン)など、劣化を防ぐ添加剤を入れておくとさらに安心できます。

古いガソリンの使用が心配なら入れ替えるという方法もありますが、灯油用のポリタンクに入れて運ぶことは法律で禁止されています。実際に火をつけたことがある方なら分かりますが、灯油とは比較にならないほど危険だからです。ガソリン専用の金属製携行缶もありますが、「京都アニメーション放火殺人事件」以降はセルフスタンドで勝手に入れることができません。廃棄の件も含めて、ガソリンスタンドやバイクショップに相談してみてください。

  • 乗らない期間が長い場合、ガソリンタンクにPEAを配合した添加剤を入れておくのもよい

■<オイル>最低でも量は確認! 気持ちよくシーズンを迎えるなら交換も

オイルは保管中に蒸発してしまうことはありませんが、なければ焼き付いてしまいますので、最低でも量は確認しましょう。ガソリンと同様に劣化しますが、未開封なら5~10年、開封でも高温多湿を避ければ2年くらいは持つといわれています。すでにバイクに入っていたオイルでも、半年や1年程度なら油膜が保持できなくなるほど劣化することはありませんが、シーズンの初めを気持ちよく走りたいなら交換をおすすめします。

また、エンジンを長期間かけていないと、シリンダーとピストンの間の油膜が落ちてしまい、この状態でエンジンをかけて内部を痛めてしまう「ドライスタート」が心配という方もいます。昔は久しぶりにエンジンをかける前は、プラグキャップから燃焼しやすい2ストオイルを入れたり、ヘッドカバーを外してカムシャフトに注油する人もいたほどです。

しかし、現在はピストンやシリンダーの品質のほか、オイルの性能も格段に向上しているので、そこまで神経質になる必要はないでしょう。エンジンをかければ数秒でオイルは循環されるので、十分に暖気運転をすれば大きなダメージは受けないはずです。

ちなみに、暖気運転は停止状態で何分も行えば終わりではありません。熱源であるピストンやシリンダー周辺のほか、クラッチやギア、エンジン以外にもサスペンションやタイヤ、各部のブッシュやベアリングなども動かすことで適温にする必要があるからです。近所に対する騒音もあるので、エンジンを始動させたら、必要以上に回転を上げず丁寧な操作で走り出し、徐々に全体を温めていくとよいでしょう。

  • 最低でも規定量のオイルが入っているかを確認。窓やゲージタイプがあるが、入れすぎもNG

■<タイヤ>本体だけでなく、エアバルブも見落とさずに

「タイヤ」は安全なライディングにとても重要です。ここに不具合があると、ほかがどれだけ完璧でも事故や転倒のリスクは高まります。空気圧や溝の深さはもちろん、路面と接する「トレッド」や、真横の「サイドウォール」の亀裂もチェックしてください。ヒビは微細なものなら問題ありませんが、深い亀裂が多い場合はゴムの油分も抜けて性能が落ちているので要注意です。

タイヤの寿命は3年から5年と言われていますが、交換時期を覚えていない場合は、サイドウォールの刻印で製造した時期が分かります。メーカーによって頭にアルファベットの有無の違いがありますが、だいたい4桁の数字が刻まれており、前2桁が「製造した週」、後ろ2桁が「製造した製造年」です。(「3221」の場合、「2021年の32週」)また、バイクにはタイヤ以外にもさまざまなゴム部品が使われていますが、ゴムは適度に動かしていないと劣化が進んでしまうという特性を持っています。

もう一つ、タイヤの点検で見落としがちなのが「エアバルブ」の劣化。バルブを指で横に押してみて、根元に深いヒビが入っていたらすぐに交換しておくべきです。亀裂がさらに深くなるとあっという間にエアが抜けてしまい、パンク修理キットで直すこともできません。高いモノではないので、タイヤ交換時に変えておくのが無難でしょう。

また、しばらく乗っていないタイヤは表面が硬化して滑りやすくなっています。久しぶりに乗る際は、新品タイヤを履いた時と同様に、温度が上がって一皮剥けるまでは慎重にライディングしてください。

  • タイヤは安全にかかわる場所なので、十分にチェックしたい

■<チェーン>調整する場合は「張り過ぎ」に注意

ローラー内部にグリスを封入した「シールチェーン」が一般的になってからはメンテナンスの頻度も少なくなりましたが、やはり重要なパーツのため、清掃や注油、動きなどのチェックは行うべきです。

チェーンの点検は一箇所だけでなく、全周で行います。後輪を浮かして回すため、センタースタンドがないバイクの場合、数十センチずつ車体を動かしたり、メンテナンススタンドを使用します。たるみ具合は真ん中のあたりを指で上下に動かして確認しますが、チェーン全周を回して、一番少ないところが規定値になるように調整します。とはいえ、この規定値というのも「35~40cm」などと曖昧なので悩む方もいるはずです。

プロのメカニックがよく口にするのは、アマチュアが調整したチェーンの「張り過ぎ」です。たるみ過ぎで外れるのが怖いからだと思いますが、実は張り過ぎはチェーンの寿命を短くし、前後スプロケット周辺やリアサスペンションの動きにも悪影響を及ぼします。停止時はたるんでいても、ドライブスプロケット軸、スイングアームピボット、リアタイヤのアクスルという3つのポイントは「くの字」になっており、これらが走行中はスイングアームが動いて一直線に近づくため、チェーンが張られていきます。

そのため、チェーンが張り過ぎの場合は突っ張ってしまい、サスペンションは縮むことができず、チェーン本体やスプロケットのほか、前後のシャフトにも大きな負担をかけてしまうというわけです。サスペンションを取り外し、3つのポイントを一直線にした状態でチェーンのたるみを10mm程度に調整すれば理想的ですが、ここまでやる人はかなりのマニアでしょう。しかし、チェーンのたるみ調整をしっかり行っておくと、乗り心地はもちろん、スロットル・オープン時にリア廻りの動きがよくなるのが分かるはずです。

  • 走行時はスイングアームが動いてチェーンを張るので、調整する際は「張り過ぎ」に注意