前回は資本性ローンの利用シーンについて説明いたしました。今回は継続的に融資を受けるために意識したい経営指標について考えます。

経営者が意識すると良い指標に関しては、様々な意見があります。株主はROE(Return On Equity、自己資本利益率)が重要と言うでしょうし、マーケターはLTV(Life Time Value、顧客生涯価値)が大事と言うでしょう。財務担当者がチェックする指標は、企業規模や事業フェーズによってバリエーションがありますが、本稿では創業してから経営が軌道に乗るまでの期間に絞って検討します。

起業して間もない時期は売上高が小さいです。融資を申し込む際には、返済可能性をどう表現するかがポイントになります。純資産の厚みがどれくらいあるか、もしくは、現預金の残高がいくらかによって、融資の金額が左右される場面が多いです。故に、純資産を増加させる当期純利益の数字を意識したいですし、利益剰余金の数字が大きくなれば大きくなるほど、資金調達の選択肢が増えます。

創業時は単月赤字が続くから純利益が出る訳がない、という意見はごもっともです。累積損失の状況が続いている場合に注目するのは売上総利益率です。粗利である売上総利益がなければ、どんなに営業活動に注力しても黒字となることはないです。「販売管理費を投入し続けたら、いつか黒字転換できる」と説明するためには、売上総利益率がプラスの値であることが最低限求められます。営業投資を続けたら近い将来黒字になる見込みですと金融機関側に伝えることができれば、融資を受けられる可能性が上がります。

創業当初に、例えば人件費のような特定の費目に焦点を当てないのは、毎年・毎月の変動が大きいからです。年間の売上高が5,000万円の企業が月収30万円の従業員を1名追加で雇うケースでは、社会保険や付随コストを加味すると経費率にして8%~10%費用が増加します。ちょっとした変化で経営指標が大きく変動する状況が続くため、経営規模が小さいうちは個別の勘定科目に注視するのではなく、全体を眺めるイメージで当期純利益や売上総利益をモニタリングすることをお薦めします。

継続的に融資をすれば将来的に利益を多く得られるという期待感を金融機関側に醸成するためには、ROA(Return On Assets、総資産利益率)を改善し続けることが肝要です。ROAは、資産を事業へ投資してお金を稼ぐ力を示します。ROAが高くなれば、稼ぐ力が強くなったことを意味するので、資金供給者の投資意欲が増進します。逆にROAが低くなれば資金を投下しても利益が上がらないと想像しますから、投資意欲が減退するのです。応援すれば先々儲かるという絵を描いて金融機関と共有することが、資金調達に繋がります。このことは、エクイティファイナンスにおいてもデットファイナンスにおいても変わりません。一時的にROAが低下することがあっても翌期には元に戻す、可能なら従前の水準よりも高くすることで、金融機関の信用を得ることができ長期的に融資を受け続ける環境が整います。

業界毎の個別事情を考慮しない一般論は上記の通りですが、同業他社の経営指標をベンチマークしたいというニーズもあると思います。余りにも相場から外れた費用構造を持っている企業は、融資の申し込みの際に金融機関へ詳細を説明しなければいけないので、自社の特徴を知るためにも対比する情報が必要です。Webで参照できる資料を2つ挙げます。

業種別開業ガイド
独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営しているポータルサイトJ-Net21の中に、300以上の業種・職種から選べる開業準備手引き書が掲載されています。業種ごとに内容の差異はございますが、開業資金のモデルケースや損益のイメージを調べることができます。

中小企業の経営等に関する調査
株式会社日本政策金融公庫のWebサイト内で、業種毎の経営指標を集計した資料が公表されています。従業者規模別に数字をまとめた資料もあり、事業フェーズが進むに従って経営指標がどのように変化するのか知ることができます。

継続的に融資を受けるために意識したい経営指標に関する考察は以上です。次回はデットファイナンスの新潮流と題して、資金調達の最新動向を紹介します。