前回は起業家があえて創業融資を利用しないケースについて考察いたしました。今回は、筆者が2020年に読んだ本の中から財務担当者向けの参考文献を紹介いたします。新刊以外も含まれております。

東京マネー・マーケット 第8版
2019年11月発売。短期金融市場についての解説書です。金融機関が日頃の資金をどのように融通しているのか、垣間見ることができます。歴代日銀総裁在任中のイールドカーブというグラフが要注目で、1990年代初頭には6%台だったリスクフリーレートが、1990年代末期に1%以下まで暴落する様を見て取れます。デットファイナンス界隈には「負債は可能な限り圧縮すべし」という立場の専門家と「借りられるだけ借りるべし」という意見の専門家がおりますが、1990年代以前の時代を経験しているか否かがポイントだと言えそうです。

第14次業種別審査事典
第20回で紹介した業種別審査事典の最新版が発行されました。4年ぶりの全面改訂で、1,500を超える業種について網羅されています。内容については繰り返しになりますが、業界毎に市場の規模や動向、関連法令、業界団体、代表的な資金ニーズ、利用できる制度融資等の情報がコンパクトにまとめられています。自社の説明資料の構成を決めるときや、内容に抜け漏れがないか確認するときに参考になります。

近代セールス
金融機関の営業担当者向けの隔週誌です。金融機関が融資を検討する際にチェックするポイントを学習することができます。2020年8月1日号の特集は「コロナ禍こそ問われる! プロパー融資の進め方~信用保証や制度融資に偏らない支援のポイント」で、資本性借入金についても解説が載っていました。

税理士を代表して金融機関の友人100人に「銀行融資」について教わってきました
2020年2月発売。融資を意識して計算書や勘定科目明細を作る際に気を付けるポイントを、税理士の目線で整理している本です。融資をしようとした時、絶対求められるものとして「試算表(前の決算から半年ほど以上経過している場合)」があると書内で紹介されていますが、補足説明が必要で、いわゆるメガバンクと取引する場合は決算後2か月経過した時点で要求されるのが通例です。半年(6ヵ月)という期間は各信用保証協会のWebサイト等で説明されている内容になります。

「新型コロナ資金繰り対策」がすべてわかる本
2020年6月17日時点での情報をもとに、給付金・協力金・融資・助成金・補助金・納税猶予・支払猶予に関するトピックスをまとめている本です。第2章が融資に関する内容になり、コラムが充実しています。初心者が財務の基礎的な用語を理解する助けになると思います。

顧問先が融資を受けやすくなる! 税理士が知っておきたい 中小企業の財務改善ノウハウ
2019年12月発売。融資申込の支援をしている税理士がまとめた書籍で、帳簿作成時のチェックポイントや金融機関との付き合い方について、実践的なノウハウがふんだんに盛り込まれています。内容に関しては、融資金額の支店決裁枠に囚われすぎている節があります。支店決裁枠の大きな支店を求めて金融機関の営業エリアを越境する場合、地方自治体の制度融資が受けられなくなる可能性があるので注意が必要です。

検証中小企業金融「根拠なき通説」の実証分析
アカデミックな分野の書籍も1冊紹介いたします。2008年発行の研究書になりますが、データ収集の困難さが原因で従来は調査が困難だった中小企業の融資について、丹念に紐解いています。上場企業への融資に関する研究では、いわゆるリレーションシップバンキング(関係依存型金融)が観察されてきたとするものが多いですが、本書では「日本の中小企業向けには関係依存型金融が提供されてきたとはいいがたい」と結論付けられており、タイトル通り通説に根拠がないことが示されています。

参考文献の紹介は以上です。本年もデットファイナンスを巡る最新情報の提供と過去の連載内容の補足説明を中心に、9回に渡って連載させていただきました。2021年も引き続き、不定期ながら書き続けたいと思っております。お読みいただきありがとうございました。