前回は融資の担保と保証に関する補足説明をいたしました。今回は第17回でも触れた融資金利の相場について、追加の情報を提供します。

2年前の記事でも紹介した、帝国データバンクの預金・貸出金等実態調査の数字を見ていきましょう。下表の「貸出金」「貸出金利息」は各金融機関の決算短信(単体ベース)に記載されている情報を帝国データバンクが集計した数値、「利率」は筆者が計算した数値(貸出金利息÷貸出金)です。下記のプレスリリースに掲載された情報をもとに作成いたしました。

大手銀行(都市銀行)では2019年に利率が上昇する局面があったものの、地方銀行と第二地方銀行では低下傾向が見て取れます。

政府が発表している統計情報についても確認しましょう。総務省統計局のWebサイトに掲載されている『第六十九回日本統計年鑑 令和2年』の『第16章 金融・保険』のなかに、『16-17 国内銀行,信用金庫の貸出約定平均金利(平成22~30年)』という資料があります。下表はダウンロードしたExcelファイルの一部を抜粋したものです。

都市銀行においては長期金利の方が短期金利より高いですが、地方銀行・第二地方銀行・信用金庫においては長期金利の方が短期金利より低く、ねじれが生じています。また、帝国データバンクの発表からの推計値と比較したとき、金利の低下トレンドが観察されることが共通しています。2018年のデータを参照すると、地方銀行と第二地方銀行については貸出約定平均金利(短期金利)と先述の推計値の利率がほぼ同水準となっているのに対し、都市銀行については両者の間におよそ1%の乖離があります。

集計元となった生データの内容を確認できないので乖離の原因について推測することは難しいのですが、計算方法の差異も無視できません。帝国データバンクの発表からの推計値は単純平均のアプローチで算出しており、貸出約定平均金利は加重平均のアプローチで集計されています。どの数字を相場と見なすかについては、慎重な判断が必要です。

日本統計年鑑に収録されている貸出約定平均金利は、日本銀行が公表している『貸出約定平均金利の推移』が情報ソースです。本稿の執筆時点で最新の資料『貸出約定平均金利の推移(2020年8月)』には、月毎の値が掲載されています。それぞれの月に実行された貸出について集計した「新規」の貸出約定平均金利の情報を抜粋した表が下記の通りです。

金融機関の種類に関係なく、貸出約定平均金利が毎月変動していることがわかります。同時期の全銀協日本円TIBORの12か月の金利は0.14636%で安定しており、今夏に預金金利が引き下げられたことからも、金融機関側の調達金利が貸出金利へ反映されたとは考えにくいです。毎月の変動は大口の融資契約の金利が影響していると想定されます。

日本統計年鑑に収録されている数字をもうひとつ取り上げます。『16-3 国内銀行銀行勘定利率別貸出残高(平成22~30年)』から2018年の情報を抜粋し、加えて、筆者が利率の水準毎に全体に占める残高の比率を算出しました。

概算ですが、貸付残高ベースで97%を超える融資が3%未満の利率で実行されていることがわかります。いわゆるミドルリスク企業向けの貸出が、まだまだ浸透していない状況と言ってよいでしょう。

国内銀行銀行勘定利率別貸出残高の情報をもとに大和総研が発表したレポート『銀行の貸出種類別貸出の構造変化』には興味深い時系列グラフが掲載されています。

利率が「0.5%未満」の貸出金残高が大きく増加し、「0.5%以上1.0%未満」も増加傾向です。一方で「2%以上」が大きく減少し、「1.5%以上2.0%未満」も減少しています。残高の増加・減少のペースがほぼ一定であることから、長期契約の「1.5%以上2.0%未満」「2%以上」の融資が分割返済(約定弁済)され、段階的に「0.5%以上1.0%未満」「0.5%未満」の融資へと借り換えが進んだと考えられます。

「0.5%以上1.0%未満」「0.5%未満」の増加幅が「1.5%以上2.0%未満」「2%以上」の減少幅よりも大きく、貸出金残高の合計金額は増えています。利率が低くなると、利子の金額負担が変わらないように借り換えをした場合に、融資金額が大きくなります。例えば1,000万円を1.5%で借りていた企業は利子を年15万円支払いますが、金利負担を変えることなく1%で借り換えると融資金額は1,500万円まで許容できることになります。貸出金残高の合計金額が伸びた背景として、企業側の資金ニーズの増加もあると思いますが、金利低下の影響が大きいと言えるでしょう。

もうひとつ観察されるポイントは「1.0%以上1.5%未満」の貸出金残高が一定水準を保ち続けていることです。理由として推測されるシナリオが複数あり、本稿の執筆のために収集した情報だけでは特定することが難しいです。例として、(1)「1.0%以上1.5%未満」の融資を受けている企業が借り換えをするときに再度「1.0%以上1.5%未満」となるケースが多い場合、(2)条件改善の結果「1.0%以上1.5%未満」となったパターン、条件改悪の結果「1.0%以上1.5%未満」となったパターン、条件改善の結果「1.0%以上1.5%未満」より利率が低くなったパターン、条件改悪の結果「1.0%以上1.5%未満」より利率が高くなったパターンの合計4パターンが入り混じって、総体として均衡している場合等が想定されます。

融資金利の相場に関する検討は以上です。次回は第3回でも触れた融資と出資の違いについて、追加の情報を提供いたします。