前回は融資と出資の違いについて補足説明いたしました。今回は起業家があえて創業融資を利用しないケースについて考えます。

創業融資は、その名称の通り創業時に特化した融資商品なので、起業した事業者が一番最初の融資として申し込むケースが大半だと思います。しかし、創業融資の利用条件を細かく確認すると、一番最初の融資であることは要求されておりません。創業時に申し込むことができる代表的な制度融資の利用者・対象者の情報(2020年10月時点)を、以下に抜粋いたしました。

  • 起業家があえて創業融資を利用しないケース

    起業家があえて創業融資を利用しないケース

日本政策金融公庫 新規開業資金

「雇用の創出を伴う事業を始める方」「現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方」「産業競争力強化法に定める認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める方」又は「民間金融機関と公庫による協調融資を受けて事業を始める方」等の一定の要件に該当する方。事業を始める方には事業を始めた方で事業開始後おおむね7年以内の方も含みます。

日本政策金融公庫 女性、若者/シニア起業家支援資金

女性または35歳未満か55歳以上の方であって、 新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方

東京都 女性・若者・シニア創業サポート事業

女性、若者(39歳以下)、シニア(55歳以上)で、都内における創業の計画がある方又は創業後5年未満の方(NPO等も含む)

東京都制度融資(東京信用保証協会)創業融資

  1. 現在事業を営んでいない方で、1か月以内に新たに個人で、又は2か月以内に新たに法人を設立して都内で創業しようとする具体的な計画をお持ちのお客さま
  2. 中小企業者又は組合であり、創業した日から5年未満であるお客さま(個人で創業し、同一事業を法人化した方で、個人で創業した日から5年未満の方を含む)
  3. 都内で分社化しようとする具体的な計画を有する会社又は分社化により設立された日から5年未満のお客さま
    ※許認可事業を開始される方は、原則として事業に必要な許認可等を受けている(受ける)ことが必要です。

東京都文京区制度融資 創業支援資金

この資金のあっせんを受けられるのは、文京区内で東京信用保証協会の保証対象業種を創業する方で、融資実行のとき、次の(1)から(3)のいずれかの創業資格に該当する方です。

  1. 事業を営んでいない個人であって、この融資と同額以上の自己資金額を有し、かつ1ヶ月以内に新たに個人でまたは2ヶ月以内に新たに法人を設立して、創業しようとする具体的計画を有し、原則として事業に必要な許認可を受けている方。
  2. 事業を営んでいない個人が、個人または法人で創業し、創業した日から1年未満の方。
    ※創業した日とは、原則として、法人の場合は登記簿上の法人設立登記日、個人の場合は税務署に届け出する「個人事業の開廃業等届出書」の開業日を指します。
  3. 中小企業である法人が、自らの事業の全部または一部を継続して実施しつつ、新たに分社化しようとする会社または分社化により設立された日から1年未満の方。
    ※この場合の分社化とは、例えば、中小企業者である法人が出資して、子会社を設立することなどです。代表者や取締役などが個人出資で子会社を設立する場合は、分社化とはみなされませんのでご注意ください。

制度融資の運営主体によって創業融資を利用できる期間に差異があるものの、ルール上2回目以降の融資で創業融資の制度を活用しても構いません。最初は短期融資(例えば期間が3か月、6か月、1年)を受けてビジネスモデルを小さく検証し、2回目の融資で創業融資を申し込むという計画を立てることができます。この考え方は、初期投資が大きくなるビジネスには不向きですが、プロジェクト型のビジネスに向いています。 ここで言う初期投資が大きいビジネスの代表例は、装置産業型の製造業と、内装工事や厨房設備を段階的に揃えることが難しい飲食業です。プロジェクト型のビジネスは、顧客毎のカスタマイズ要素が強い受注生産型の製造業や、ITソフトウェアの受託開発事業、専門性を活かして調査研究をし報告書を納品するような受託研究サービス等が該当します。

創業融資の前段階として短期融資を申し込む場合、紐付き融資のスキームで資金を調達することになります。原材料費や人件費を積算してプロジェクト運営に必要な資金額を割り出し、信用力がある企業と交わした契約書面を根拠資料として、金融機関と交渉します。融資を受けてプロジェクトを進め、顧客から代金を受け取って返済する流れを経験すれば、原価構造が実績値として判ります。事業を続けることで将来採算が取れるか否か、予測しやすくなります。短期融資を活用して商売が成り立つかを堅実に検証するフェーズを設けることで、あらためて長期融資(創業融資)を申し込む際の事業計画の信憑性を高めるのです。

起業家があえて一番最初に創業融資を利用しないケースに関する考察は以上です。次回は2020年度版の「財務担当者へお薦めする参考文献」を紹介いたします。