前回は融資の金利を低くするための手段について整理しました。今回はデットファイナンスを活用した黒字倒産の回避法について説明します。

黒字倒産のメカニズム

WEBで黒字倒産に関する調査を検索すると、2017年の倒産企業のほぼ半数は黒字倒産という調査結果が出てきます(2017年「倒産企業の財務データ分析」調査東京商工リサーチ)。データから黒字倒産が十分に起こり得ることは理解できても、黒字倒産へ至るメカニズムをイメージしにくい人がいらっしゃるかもしれません。例を用いて検討します。

【設例】今年度の期初の預金残高が2,000万円で、業績予想は売上高が4,800万円、費用が3,600万円、利益が1,200万円と見込んでいるとします。売上が立てば、すぐに入金があることにします。

上記の仮定を置いて、現預金が底をつくか否か、シミュレーションをします。まず費用についてですが、人件費やオフィスの家賃のように、毎月コンスタントに支払いが発生するパターンが多いです。月々300万円の出費があると仮定しましょう。対して、売上高は毎月計上されるケースと、長期プロジェクトで年度の最後に一括計上されるケースを考えます。

売上高を毎月計上するケースでは、月々400万円の売上高で費用が300万円となるので、利益が毎月100万円ずつ積み上がる計算になります。現預金の残高は毎月100万円ずつ増えていくため、残高が底をつく心配はありません。

一方、長期プロジェクトで年度の最後に売上高を計上するケースでは、収入を得るまで1年間待つことになります。期中の入金はなく、毎月300万円ずつ支払い、7カ月目に現預金が底をついて倒産に至ります。仕事の着手から完了までの期間が長ければ、先出しの費用があるため、資金ショートの可能性が高まるのです。

極端な事例と思われるかもしれませんが、上場企業のIPO時の資料を調査すると、上場直前期の売上高が第4四半期のみに計上されているケースが実際に見つかります。上場企業ですら設例に近い場合がありますので、黒字倒産は対岸の火事ではないと感じます。

先述したような長期プロジェクトにおいて資金繰りを安定させるために、デットファイナンスを活用することがあります。手付金・前金等の名目で先に資金を入手する方法もありますが、費用全額を賄えないケースもあるので、融資は現実的な選択肢といえます。

俗に「紐付き融資」「ブリッジ・ファイナンス」と呼ぶのですが、信用力のある取引先との委託契約書(受託契約書)を提示して資金を借り、売掛金の入金を以て返済する形式を取ることができます。融資期間も3カ月程度の長さとすることが可能です。申込時に金融機関側とコミュニケーションをとる内容として、(1) コスト超過が起きないこと(採算が取れること)と、(2) スケジュール超過が起きないこと(返済期日を守れること)を伝える必要があります。

仕事の受注状況を確認しながら、適切なタイミングにデットファイナンスを実行することで、黒字倒産を未然に防ぐことができます。 デットファイナンスを活用した黒字倒産の回避法についての説明は以上です。 次回は、第16回では取り上げていない財務担当者向けの参考文献を、追加で紹介いたします。

※写真と本文は関係ありません

執筆者プロフィール:千保 理(せんぼ ただし)

株式会社情報基盤開発 CFO(最高財務責任者)

ロンドン日本人学校中学部、東京学芸大学教育学部附属高等学校、東京大学運動会バドミントン部を経て、東京大学大学院経済学研究科修士課程企業・市場専攻修了。専門は企業金融(コーポレート・ファイナンス)。生命保険会社のシステム子会社にて勤務した後、東京大学発IT系ベンチャー企業である株式会社情報基盤開発にCFOとして参画。Microsoft Innovation Award 2015にて勤務先が優秀賞を受賞した際のプレゼンター。融資による資金調達を得意としている。