女優・内山理名(36)が10年ぶりとなる主演ドラマの会見で、「実は小さい頃、父親のことをそんなに好きではなかった」と告白したことがネットで話題になった。他界した父の財布から自分のテレホンカードが出てきたことで、幼いころに抱いていた印象が変化したという。初のNHK主演となる『マチ工場のオンナ』(11月24日スタート毎週金曜22:00~22:49/NHK総合・全国放送・全7回)は、父と娘の関係で彼女と重なる部分があまりにも多い。

内山演じる32歳の専業主婦・有元光は、夫・大(永井大)と息子の3人で暮らしていたある日、過労で倒れた父・泰造(舘ひろし)がガンで余命4日であると医師から告げられる。父に反抗していた光だったが、"父の背中"を振り返りながら現実と向き合い、町工場の社長を継ぐと決意。光が第1話「大嫌いなお父さん」で父の金庫から見つけたミニカーは、幼い頃に光が肌身離さず持っていた大切な「思い出」でもあった。

俳優・女優のターニングポイントに焦点を当てるインタビュー連載「役者の岐路」の第3回。「内山理名」という一人の女性と父との関係の真相のほか、デビュー2年目での朝ドラ抜てき、その後の職業観の変化を通して、「女優・内山理名」の転機を探る。

  • 内山理名

    内山理名 撮影:宮川朋久

■舘ひろしが演じた"大嫌いな父"

――ドラマ化の発表時、「不安も緊張もありますが」というコメントを出されていました。どのような心境だったのでしょうか?

どんな気持ちだったんだろう……3カ月ぐらい前のことなんですけど(笑)。いつもそうなんですが、はじまる時の気持ちってガラッと忘れちゃうんですよね。こうしたインタビューで「確かにそんなこと思ってたな」って思い出すことが多いです。

久しぶりの連ドラ座長だったんですが(『生徒諸君!』以来約10年ぶり)、台本が本当に面白くて原作もとてもすばらしかったので、さらに緊張していたのかもしれませんね。物語が面白ければ面白いほど「台本以上のものにしたい!」と燃えるんです。「面白い」と感じた最初の気持ちを一番大事にしたくて、それを届けられるのは自分次第だと思います。

――会見では「私でいいのかと思った」とおっしゃっていましたが、それでも台本を読み込むうちに先ほどのような気持ちに?

そうですね。どの作品でもそうなんですが、今回は最初に受けた衝撃が本当にすごかったです。

  • 内山理名

    ドラマ会見より(左から柳沢慎吾、竹中直人、内山理名、舘ひろし、永井大)

――そこまで引きつけられた理由は何だと思いますか?

第1話を読んだだけで主人公を好きになって、「早く現場に立ちたい」「ここに魂を込めたい」とすぐに入り込みました。それから、登場人物に悪い人がいなくて、どの人にも共感できるのも魅力で。深みがあって、温かい台本でした。私が演じた光は、自分の持っているものでしか勝負しないところも好き。強い女性ですよね。父親の泰造さんと似ているところがあるんだなとつくづく感じます。

――第1回は「大嫌いなお父さん」(11月24日放送)。人を「大嫌い」といえるまでには、それだけ相手のことを知る必要がありますよね。演じ終えて、父・泰造さんへの印象は変わりましたか?

第1話で亡くなってからも時々回想で現れるんですが、亡くなってから周りの人の話から父親がどんな人間だったのかを知っていきます。家庭で見せなかった父の顔や、どれだけ自分のことを思っていてくれたのかとか。会社を継いで、ようやく社長としての苦労も知ることになります。生きていた時にお父さんに言えなかった「ありがとう」という気持ち。後悔と共に「尊敬の思い」も強くなっていきます。それは亡くなってからじゃないと気づけなかったことで、でも生きている時には、たぶんお父さんも見せなかったこと。光も見ようと思ってなかったはずです。

  • 内山理名

■『スタジオパーク』で語った家族の思い出

――日常で知ろうとしても難しいですよね。

そうですね。当たり前のように日常が過ぎていって、知ろうとするきっかけもない。でも、光は会社を継ぐことになって知ろうとします。尊敬していなければ、自ら動き出すようなそういう力は出てこなかったと思うんです。悲しいけど、現実。そういうところも観てくださる方に伝わればいいなと。家族の死は誰もが経験することではあるので、共感してもらえるんじゃないかなと思います。

――会見で「父親のことをそんなに好きではなかった」とおっしゃっていたのが印象的でした。決して「嫌い」ではなく。先日の『NHKスタジオパーク』(11月25日放送)では、毎年軽井沢で家族旅行に行っていた話もされてたので交流はあったわけですよね?

父とはあまり思い出がないんですよ。『スタジオパーク』でお話したのは、毎年家族で軽井沢に行っていたことぐらいで。実は、夏と冬の軽井沢とお正月しか父との思い出がないんです。日常の父との思い出が全くなくて。

――この仕事をはじめたことが原因ではなくて、もともと距離があったと。

父は本当に仕事で忙しくて、私が寝る時でも帰って来ていなくて、起きた時にはもう仕事で出ているような生活でした。土日も仕事。軽井沢に行った時でも、久しぶりだからどう接したらいいか分からなくて。久しぶりすぎて恥ずかしかったんですよね。だから、普通の父と娘より距離感があったんだと思います。遊んでもらえないから、あまり好きになれなくて。でも、好きだったんですよね。仕事をしているお父さんはカッコイイなって思ってて、ずっと好きだったんですけど。でも、友だちから毎週末お出かけしたりする話を聞くと、全然違うんだって気づいて(笑)。一度もしてもらってないなぁとずっとモヤモヤしていました。