■話すようになったのは亡くなる数年前

――そういう関係性がその後も続いたんですか?

そうですね。でも、大人になってからは全然話すようにはなりましたけど、それでも普通の父と娘よりは距離感はあったと思います。「仕事」という共通の話題ができて、話すようになりました。

――出演作の感想も?

サラッと言うぐらいです(笑)。たぶん、照れ隠しだと思うんですよね。泰造さんを見ても思いますけど、たぶん照れてた(笑)。

――泰造さんの振る舞いには、随所にその恥じらいを感じます(笑)。

そう(笑)。子どもの頃はかわいくてかわいくてしょうがないけど、大人になってからはだんだん照れちゃうんですよね。私も幼い頃にかわいがってもらってたことが分かるような写真は結構出てくるんです。でも、記憶にあるのはさびしい思い出。大人になって話すようになったのは、亡くなる数年前ぐらいでした。もっと話せばよかったと後悔しています。

  • 内山理名

    「亡くなってからすごい知ることがありました。この物語と重なってつらかったんですけど、もっと早くに『ありがとう』とか言っておけばよかった」(会見より)

――亡くなられた後、お父さんのことについて知ることが多かったと会見でも発言されていましたね。財布の中に内山さんのテレホンカードが入っていたと。他にもそのような出来事があったんですか?

実家が神奈川なんですが、仕事がら東京に行くことが多かったみたいなんですね。父が亡くなった後、東京に友だちや知り合いがたくさんいたことがわかったんです。それは子どもの頃には知らなかったことで、私が行く先々で「お父さんにお世話になってました」という方が結構いて、お父さんとの思い出話をしてくださって。私の知らなかった「日曜日までのさびしい時間」の記憶が埋まっていきました。

お父さん、どこで何してるんだろう。幼い頃そう思っていた自分にとって、父の行きつけのお店があったりして、すごく感動したというか。仕事も含めて、すごく忙しかったんですよね。子どもには理解できないから、きっと言わなかったんでしょうね。

――今回のドラマとも重なりますね。

台本を読んだ時もドキッとしてしまって。そういうさびしさだったり、尊敬するところはたくさん共感できるところがあったので、自分の中での感情も引き出せたのかなと思います。

――『スタジオパーク』では、「現場ではドラマのことしか考えない」とおっしゃっていました。一方で、ご自身と重なる部分も多くて、会見では「『ここに必ずいる』と思いながら演じています」とも。いつもの撮影とは異なる状態だったのではないかと思ったのですが、いかがですか?

お芝居に入ると、プライベートのことは全く考えてません。ただ、自分の感情を引っ張っていないつもりでも、自然と出ているのかもしれませんね。感情は自分の中からしか生まれないもの。悔しいとか悲しいとか。でも、「父がここにいる」とはずっと思っています。

――そういったプライベートでの経験はやはり演技の支えになるものですか?

間違いなくなると思います。「演技のために」とは考えないですけど、いろいろなことは感じていないとは思います。感じられる自分でいたい。あまり壁は作りたくないし、頑固でありたくない。生きていたら「何もない」ことはないので、それを素直に感じていたいです。

  • 内山理名

■なぜ「無理をしない」を大切にしているのか

――インスタには「無理をしない」ことを大切にしていると書かれていました。常に心掛けていらっしゃるんですか?

そこだけ聞くと「何だろう?」と思われるかもしれませんが(笑)、先ほど言ったことにも通じることで、無理をしないでいろいろ感じていたい。自分に無理をしてストップするよりも、無理をしない自分を作っておくというか。あー、悲しい……泣こう……とか(笑)。そうやって自分の感情に素直になるということが、私にとって「無理をしない」こと。ヨガのインストラクターをやっているんですけど、みなさんには「無理をしないでくださいね」といつも声を掛けています。でも、絶対に無理しちゃうんですよ。ヨガはいつもそうで、レベルを上げるためにまず無理をしない自分を作っておくと、スッとできることが多いと思います。

――「無理をしない」は、ご両親の教えですか?

幼いころはどちらかというともっと不器用でしたし、無理をしている自分に気づかないことが多くて。でも、ほとんどの人はそうですよね。自分がヨガのクラスを始めた時にそうやって声を掛けても、みなさん絶対に無理をしてしまう。ということはきっと自分も同じで、「どうやれば無理をしないでいられるか」をいつも考えています。日常生活やお芝居では全く気づかないことでした。

  • 内山理名

――人に何かを教えるのは、すごく難しいことですよね。

言葉で人の心と体を動かすって、本当に難しいことだと思います。女優も違う面では人の心や体を動かしているとは思いますが、インストラクターは自分自身の言葉なのですごく考えます。研究して、体感して。東京に住んでいると、無理をすることがカッコイイとか、弱みを見せたくないとか、人と比べて負けたくないとか、私も無意識のうちにそうなってしまう。だからこそ自分を感じて、周りを感じて。今の私のテーマになっています。

――私はどうしても無理してしまいます(笑)。

別にいいんですよね(笑)。インスタには書ききれなかったんですが、自分を励ましていくというか。それはすごくエネルギー源にもなると思うんです。

――先ほどから話を聞いていて思うのですが、すごくメンタルコントロールに長けていらっしゃいますね。

もともと哲学とかに興味があったんですよね。女優は人の心や感情、人生と向き合うので自然と興味がわいて。私は基本的にあっけらかんとはしてるんですけど 本当に不器用でした。行くところまで行っても、それがどれくらいエネルギーを使うことなのか分からなかった。若い頃は体力があるからよかったのかもしれないですけど、気力があっても年々体が追いつかなくなってくるので(笑)。たぶん女性の30代っていろいろなバランスの変化があって、思い通りに行かないこともあると思うんですよね。