政府は5月25日、東京都など5都道県の緊急事態宣言を解除しました。これで宣言は7週間ぶりに全面的に解除となりました。政府が宣言解除に踏み切ったのは、感染がほぼ収束してきたことに加え、日本経済の落ち込みが深刻化していることもその理由となっています。今後は感染拡大防止と経済活動再開の両立をめざすことになります。

ただ経済再開に前のめりになるのではなく、あくまでも感染防止策はしっかりと取りながら感染第2波・第3波にも備えておくべきで、そのうえで徐々に段階的に経済活動の再開を進めていくことが重要です。

4-6月期GDPはマイナス20%の予測

確かに日本経済は危機的な状況にあります。内閣府が先日発表した今年1-3月期のGDP(国内総生産)は前期比・年率換算で3.4%減となりました。中国向けを中心に輸出が21.6%と急減少したのをはじめ、個人消費が消費増税で前期(2019年10-12月期)に大幅マイナスとなっていた水準からさらに落ち込みました。

しかしこれでも1-3月期の数字には、コロナの感染拡大の影響はまだ一部しか表れていません。コロナの感染者数がピークとなったのは4月であり、緊急事態宣言による「Stay home」や店舗の休業拡大などの影響が本格的にGDP統計に反映されるのは4-6月期の数字です。これが大変な落ち込みが予想されているのです。

日本経済研究センターが民間エコノミスト33人に聞いた4-6月期の予測の平均値は21.3%でした(調査期間は4月27日~5月11日、発表は5月14日)。この予測通りになれば、リーマン・ショック直後のマイナス17.8%(2009年1-3月期)を上回り、戦後最大の落ち込みとなります。

7-9月期以降はプラス成長に戻るとの予測が多いようですが、4-6月期までに大きく落ち込んだ後のプラスですので、景気が良くなるというような水準ではありません。少なくともV字回復は望み薄と言わざるをえないでしょう。

  • 日本の実質GDP成長率

4月の訪日外国人は99.9%減

さらに先日、衝撃的な数字が発表されました。今年4月の訪日外国人数がわずか2,900人、前年同月比99.9%減というもので、単月の訪日数としては統計開始以来最低でした。昨年1年間の訪日外国人数は3,188万人、月間では単純平均で266万人でしたから、まさに100分の1。私は長年、さまざまな分野の経済統計を見てきましたが、こんな数字は初めてです。

コロナ感染拡大によって外国からの入国をほとんど禁止しているのですから、当然の結果と言えばその通りですが、その落ち込みのインパクトは並大抵ではありません。訪日外国人数は2012年の835万人から2019年の3,188万へと驚異的に増加し、彼らの日本国内での消費額は4兆8,135億円に達していました(2019年)。これはGDP(名目金額)の1%近くを占めていますが、それがほとんど消えてなくなってしまったのです。

  • 訪日外国人の推移

今回、政府は緊急事態宣言を解除しましたが、それで訪日外国人が戻ってくるということにはなりません。世界的な感染が収束しない限り、訪日外国人が回復に転じるのは困難でしょう。               

国内の消費についても、今後は緊急事態宣言解除に伴い休業していた店舗などが営業を再開し買い物に出かける人も増え、徐々に活気が出てくると予想されます。しかしそれでも感染拡大防止が大前提ですので、経済活動の再開も段階的に進めていく必要があります。感染の第2波・第3波の兆候が出てくれば、再び制限をかけなければならない。そのような形で経済活動を進めていかなければならないわけで、日本経済がコロナ以前の状態に戻るには相当な時間がかかると覚悟せざるをえないでしょう。