苦難に耐えて戦った選手の姿に元気もらう

東京五輪が閉幕しました。今大会はコロナ禍のため1年延期、そのうえ緊急事態宣言の下で無観客という異例の開催となりましたが、日本代表の選手たちの活躍によって、日本のメダル獲得は金が27個、銀と銅を合わせた総数は58個と、いずれも過去最多を記録しました。

選手たちは大会までの苦しい時期を必死に耐えながらトレーニングに励み、試合も最後まであきらめずに戦っていました。その強い思いはテレビ越しでも私たちにひしひしと伝わってきましたし、選手たちのそうした姿は勝敗にかかわらず私たちに感動と勇気を与えてくれました。試合後のインタビューではどの選手も大会開催への感謝、自分を支えてくれた人たちへの感謝を口にしていたのも印象的でした。

個人的には自分が高校時代に卓球部だったこともあり、卓球の金メダルに大いに興奮しました。混合ダブルス準々決勝のドイツ戦で2-9からの大逆転勝利、続く準決勝も勝ち、決勝ではこれまで勝てなかった中国をついに破って金メダルという快挙を成し遂げたのでした。どんなに苦しくても最後まであきらめないことが、いかに大きなパワーをもたらすかということを教えてくれました。

日本経済と重なる日本卓球の歩み~長年の低迷を脱し復活へ

実は、日本の卓球は1950~70年代頃までは数多くの世界チャンピオンを輩出し、「卓球王国」と言われていました。しかし60年代頃から中国が急速に台頭してアッと言う間に日本を追い抜き、現在に至るまで長年にわたって世界一の座にあります。

一方、日本の卓球は長い間、‟冬の時代"が続きました。卓球が五輪の正式種目となったのは1988年のソウル五輪からでしたが、同大会から2008年(北京)まで6大会連続でメダル獲得ゼロでした。その間、メダルは中国がほぼ独占していました。

しかし日本卓球は2000年代後半頃から復活に向けて動き出します。小学生など若手の強化育成に体系的に取り組むとともに、若手選手が中国やドイツなどで武者修行をするなど努力を重ねました。その結果、2012年のロンドン大会で五輪初のメダル(女子団体・銀)を獲得し、続いて2016年のリオ五輪ではメダル3個と、成績を上げていきました。そして今大会で初の金メダルをはじめ4個のメダルを獲得したわけです。総合的にはまだ中国の壁は厚いのが実情ですが、あと1歩まで迫ったのは間違いないところでしょう。

  • 日本卓球の成績

こうした日本卓球界の歩みは、日本経済の姿に重なって見えます。日本経済も1990年代のバブル崩壊によって大きく落ち込み、長年にわたって低迷が続きました。入れ替わりに中国経済が高度成長を遂げたことは周知のとおりです。

しかしここ数年、アベノミクスによって景気回復が進み、日本企業も収益力を回復させるため懸命の努力を続けてきました。その結果、上場企業は今年3月期決算で27%の増益となり、コロナ禍でも好業績を上げています(詳しくは本連載の前回「第19回・意外にも(!) コロナ禍で強さを発揮する多くの日本企業」)。日本経済全体としてはコロナ禍で厳しい状況にありますが、日本卓球の快挙は、経済の面でも私たちにエネルギーを与えてくれたような気がします。

もちろんそれは卓球だけではありません。今回の東京五輪では、完全復活を遂げた柔道、新競技での若い選手の活躍、さらに女子の活躍なども印象に残りました。まさに「オールニッポン」の力を結集することが、コロナ禍を克服し経済復活をめざす原動力になると感じさせます。

五輪のメダル獲得数と景気の意外な(!?)相関関係

ところで過去の五輪での日本のメダル獲得数を見ると、意外なほど景気との相関関係があることがわかります。

  • 五輪のメダル獲得数と景気

1964年の前回東京大会では当時としては過去最高のメダルを獲得しましたが、高度経済成長の大きなステップとなりました。東京五輪の次のメキシコ(1968年)、ミュンヘン(1972年)でも日本は引き続き数多くのメダルを獲得し、高度経済成長も続きました。

その後、石油危機で不況に突入しましたが、景気回復が始まった1984年のロサンゼルス大会ではメダル獲得数で過去最高を更新しました。景気はその勢いのままバブル期を迎えることとなります。

やがて90年代に入ると日本経済はバブルが崩壊、メダル獲得数でも不振が続きました。バルセロナ(1992年)では金3個(合計22個)、アトランタ(1996年)は金3個(合計14個)、シドニー(2000年)は金5個(合計18個)と、低水準にとどまりました。まさにバブル崩壊後の日本経済を象徴するような結果でした。

しかし2004年のアテネ大会では金が16個と最多記録(1964年・東京)に並び、合計では37個と過去最多を更新しました。体操の男子団体決勝で金メダルが決まった瞬間の「栄光への架け橋だ!」という実況が話題になり、五輪観戦のため液晶テレビがブームとなり消費が盛り上がりました。五輪後は小泉構造改革の効果で景気回復が鮮明となっていきます。

次の2008年の北京大会の直後にはリーマン・ショックが起きて景気が一気に落ち込みましたが、2012年のロンドン大会では金は7個にとどまったものの、合計では38個とアテネを上回り過去最多を更新しました。当時の日本経済は日経平均株価が8,000円台、円相場が1ドル=70円台の超円高という低迷の極に達しており、加えてその前年には東日本大震災が起きていました。それだけに、同大会での日本人選手の活躍には多くの日本人が元気づけられました。

このロンドン大会から4カ月後の2012年12月から景気回復が始まりました。これは同月に第二次安倍内閣が発足しアベノミクスがスタートしたことが最大の要因ですが、日本中がロンドン五輪で元気づけられたことで、経済マインドも変化する下地ができていたとも言えるでしょう。

そして前回2016年のリオデジャネイロではさらにメダル獲得数の最多記録を伸ばしました。その前年の2005年から2006年にかけては、中国の株価急落などで世界的に景気回復が一服していましたが、リオ大会後の景気は再び回復基調に戻り、この流れがコロナ禍の少し前まで続いていたわけです。

あきらめない気持ちでコロナ禍を乗り切り経済復活めざそう!

このように、日本のメダル獲得数がそのまま経済の浮沈に表れています。やはり日本人選手が活躍すれば関連グッズやスポーツ関連消費などが盛り上がるという直接的な経済効果がありますし、前述のように高揚感や一体感などの心理的な効果が陰に陽に経済活動に影響を与えるわけです。

ただ今回は、緊急事態宣言の下で無観客となったことや選手・大会関係者の行動制限などさまざまな制約が課せられたため、直接的な経済効果はきわめて限定的なものにとどまると見られます。前述のような五輪と景気の相関関係が今回は薄れるかもしれません。

しかもここへきて感染が急拡大しており、逆に消費や経済活動がかなり抑えられることが避けられません。第一経済研究所の試算によれば、現在の緊急事態宣言によって今年7-9月期GDPは年率換算で2.3%程度押し下げる見通しです。今後の感染拡大次第ではそのマイナス効果がさらに大きくなることも懸念され、予断を許さない情勢です。

しかしそれでも五輪で多くの人が元気づけられたことは、長い目で見れば今後の経済活動を支える要因となることが期待できるでしょう。厳しい環境の中にあっても、あきらめない気持ちでコロナ禍を乗り切り経済復活をめざしたいものです。

さらにもう一つ、五輪後の日本経済を展望するうえで重要な要素が「海外が日本を見る目」です。これについては次号で詳しく分析します。