「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。

今回は、中立公平であり、かつ専門性の高いDeFi情報を提供するオンラインサロン『DeFIRE』を運営する島倉徹氏(合同会社KernelTribe 代表社員)、日向理彦氏(合同会社ジャノム CEO)にお話を伺いました。

島倉徹氏

早稲田大学基幹理工学部数学科、同大大学院基幹理工学研究科数学応用数理専攻修士課程修了 (数学)。中学・高校の教員免許 (数学、専修) を持つ。合同会社KernelTribe代表。DeFIREの最高責任者。日本最大級の英語辞書サイトでの経験を活かし、マーケット分析とエンジニアリングの両刀遣いとして活躍中。ほぼ全資産をGameFi系のアルトコインに突っ込みガチホ中。セルフGox経験者。難しいことをだれにでもわかるように噛み砕くのが得意。

日向理彦氏

東京大学理学部物理学科、同大大学院総合文化研究科修士課程修了 (物理学)。2013年末頃からビットコインの技術に興味を持ち始め、暗号資産 (仮想通貨) に関連したウェブサービスを多数開発。過去にはハードウェアウォレットの輸入販売も手掛けた。多額の個人資産をDeFiで運用しており、経済的自立 (部分的なFIRE) を達成している。Mt.Gox債権者。難しいはずのことを難しいとは思わないので、気づくと偉業を達成している。

暗号資産(クリプト)との出会い

――まずは、お二人の暗号資産との出会いから教えてください。

島倉徹氏(以下、島倉氏):私は、2017年にテレビで見たのがきっかけでした。中居正広さんの番組で、「ビットコインの投資で儲かった」という話をしていて。それで暗号資産(当時の名称は仮想通貨)取引所で口座開設して、少し入金してみたら値上がりして。これはおもしろいなと思いました。もともとエンジニアなので、その後に技術的な背景を調べたという感じです。

ブロックチェーンは「世の中を変える技術だ」と思います。ただし、実際は使いどころが正しくないとハマりません。

ぜひ、ご紹介したい本が3冊あります。

まず、「いちばんやさしいブロックチェーンの教本 人気講師が教えるビットコインを支える仕組み(杉井靖典 著、インプレス)」という本です。(※Web3の教本の方ではございません)エリック・ブルーワ氏が提唱したCAP定理について書かれていました。CAP定理は、分散コンピュータシステムのマシン間の情報複製に関する定理です。

C:Consistency(一貫性)
A:Availability(可用性)
P:Tolerance to network Paritions(ネットワーク分断への耐性)

次に、「イノベーションの解(クレイトン・クリステンセン/マイケル・レイナー 著、玉田俊平太 監修、櫻井祐子 翻訳、翔泳社)」という本です。この本には「顧客は用事を片付けるために製品やサービスを雇っている」と書かれています。こなれた表現をすると、「世の中には必要とされるものしか存在できない」という意味だと、私は捉えています。

最後に、「イノベーションのジレンマ(クレイトン・クリステンセン 著、玉田俊平太 監修、伊豆原弓 翻訳、翔泳社)」という本です。世の中には、それまでの技術を改良していく「持続的イノベーション」と、一部の界隈には刺さる新技術だけど、一般には使い物にならないと思われていたものが、時間が経つと技術力が増し、万人が欲しい物になって、既存のものと取って代わる「破壊的イノベーション」の2つがあります。(例えば、ガラケーからiPhone等のスマホへの移行がわかりやすい例です)

ブロックチェーンは、一般的に広く使われているリレーショナル・データベースとは異なるデータベースです。リレーショナル・データベースは、CAP定理のPを犠牲にしており、ブロックチェーンはCを犠牲にしています。Cを犠牲にするということは、言い換えると、ブロックチェーンを利用したサービスは、なにかと時間がかかるというデメリットがあるということを意味します。つまり、Cを犠牲にしてでもAとPが特徴となる特性を生かした、ブロックチェーンじゃなければいけないものを作り出せれば、いくつかの業界においては、ブロックチェーンは、「破壊的イノベーション」にあたると考えています。

例えば、金融が当てはまるのではないかと思います。世の中には、銀行口座を持っていない人が世界中にたくさんいます。そういったところからブロックチェーンやDeFiプロトコルが普及していき、あるタイミングで一斉に、既存の銀行・証券会社・保険等を利用していた顧客が、ブロックチェーン・DeFiプロトコルに移行してくるのではないかと考えています。

具体的な例だと、海外送金しようとした人が、ブロックチェーン・DeFiプロトコルを使って数分~数十分で格安でできることを知り、そっちに乗り換えたら、それまでの大手銀行で謎の手続きに時間をとられ、着金まで1週間ちかくかかり高額の手数料を払う、なんてことはもう必要と思わないので、世の中から急に必要とされなくなるであろう、ということです。ブロックチェーンは遅いのが特徴ですが、その遅さを遥かに上回るぐらい、大手銀行の海外送金は遅いので、ブロックチェーンは実用性に耐えうるわけです。逆に言うと、お店での決済という観点では、ブロックチェーンは基本的には、実用性に耐えれないとも言えます。そんなことを言うと、ライトニングネットワークの人たちに怒られそうですが(笑)

――「ブロックチェーンありき」で、「ブロックチェーンこそが正義」と妄信している方もいますが、ブロックチェーンである必要が本当にあるのか?は、常に考えないといけないですよね。

島倉氏:そうです。既存の技術ではダメなのか? 既存の技術の方が、コストも安く、できる人も多いことがあります。さらに、「事業として成り立つのか」という視点も必要です。そうでないと生き残れない、存在できないと思います。ブロックチェーンにおいては、CAP定理は、そのヒントを与えてくれていると思います。

私のブロックチェーンへの関心の話に戻りますが、ブロックチェーンの技術的な本だけでなく、その周辺のいろいろな本を読んだり、勉強会や講座に参加するなどして、暗号資産の世界に徐々にハマっていきました。

その後、池袋にあるマレーチャンというマレーシア料理店のお弁当のオンライン販売を手伝うご縁がありました。ハラル料理のニーズがすごくあったのですが、個人店なのでシステムなどは当然なくて。それで、業務フローの設計やシステム導入などのコンサルティングをして、その過程で「暗号資産決済(当時は仮想通貨決済)ができたらおもしろいのではないか?」ということに。350種類の暗号資産で決済できるお店にして、それが話題になって暗号資産業界の人が来店するようになりました。余談ですが、決済の遅さはわかりつつも、マーケティング施策として導入し、見事目論見どおりという感じでした。

そんな風に、業界の人たちと知り合ったり、暗号資産の世界にハマっていったという経緯です。

――日向さんは、この業界にはもっと早くからですよね。

日向理彦氏(以下、日向氏):2013年の秋に、ギガジンというサイトでビットコインの記事をみたのがきっかけです。怪しいコイン情報もたくさん載っていたのですが、「P2P」や「分散」の話に関心を持ちました。一般的な電子マネーですと、例えばSuicaだとJRなどの企業に「お金を預けるだけ」「自分のお金じゃない」という感覚ですが、ビットコインはだれにも預けませんし、自分で管理するのが面白いと思いました。

その後は、ビットコインを買ったりマイニングしたりしたのですが、取引所やウォレット、アマゾンギフト券をビットコイン等で買えるサイトを開発したりもしました。当時の会社は売却してしまいましたが、マイニングは継続していますし、YouTubeチャンネルでの情報発信なども続けています。

DeFiでFIREを目指すサロン「DeFIRE」

――では、話をDeFiやDeFIREに移したいと思います。まずDeFiですが、まだまだ知らない人も多いと思うので簡単に解説しておきます。

DeFi(デファイ、ディファイ)は2018年頃に生まれ、2020年頃から盛り上がり、イーサリアムブロックチェーン上を中心に数百以上のプロジェクトが立ち上がっていて、日本語では「分散型金融(Decentralized Finance)」と呼ばれています。

たくさんのサービスがありますが、主要なものは以下のとおりです。

・暗号資産(ステーブルコインを含む)を貸し借りできるレンディングサービス
・ブロックチェーン上で暗号資産同士の交換、証拠金取引、各種デリバティブなどの取引ができる分散型取引所(DEX)
・ユーザーが預け入れた暗号資産を運用し、運用益を稼ぐイールド・ファーミング
・トークンを一定期間ロックすることで報酬が貰えるステーキング

私はDeFiを、「金融サービスの自動運転」とよく説明しています。このDeFiでFIREを目指すオンラインサロンが、お二人が運営している「DeFIRE」ですね。

島倉氏:そうです。日向さんとは、定期開催されていたモナコインの勉強会で知り合いました。私が「コラッツ数列でブロックチェーン開発したい」という話をして、実証実験もしたのですが…(割愛)。

日向氏:私が経営していたフレセッツという開発会社も手伝ってもらっていたのですが、会社を売却して時間ができたので、DeFiなど当時の新しいことについて調べ始めました。暗号資産を知っているユーザーのなかでも、DeFiをやっている人はまだまだ少なくて、実際に利益を上げている人もいるので、これは可能性があるなと。

日本は長く続く低金利で、預金をしていてもお金は増えません。ところがDeFiだと、年利5~10%、なかには年利20%というものもある。もちろん、情報の精査はしないと危険なのですが、もっとDeFiについて知ってほしいと思ってオンラインサロンを立ち上げました。

金商法の兼ね合いで運用代行はできませんし、DeFiでは当面は認可も下りないと思います。ですが情報提供であれば今の法律でもできることなので、まずはできることからスタートしようと。島倉さんに声をかけて、一緒に始めました。

2022年の6月にスタートしたのですが、とても好評で約1ヶ月で累計約50名の方に参加してもらっています。

DeFIREは、「DeFi+FIRE」の造語です。DeFiをうまく活用してFIRE(経済的自立と早期リタイア)を目指すためのコミュニティで、FIREでよく言われる「4%ルール」はDeFiであれば達成しやすいと思います。

「ビットコインやイーサリアムで資産が数百倍になった」「アルトコインで資産が数万倍になった」という話題ばかりが取り上げられがちなのですが、再現性はありません。そういう博打のような世界ではない、堅実なDeFiの世界を広めたいと思っています。ドルなどの法定通貨と連動するステーブコインを使った運用で安定的に利益を得られなければ、FIREなんてできません。

――仮に資産が数万倍になっても、翌年には数百分の一になるかもしれない世界ですからね。精神衛生的には、着実・安定的に利益を得られる方が良いですよね。

DeFIREにはDeFi Labの面もある

――DeFiに関する情報提供をしているサイトやコミュニティはありますが、バイアスがかかっているというか、ポジショントークしているというか。公平な情報ってなかなかたどり着けないですよね。

島倉氏:そうですね。ですので、DeFIREではそういったバイアスは排除しています。DeFIREには、DeFi Labのような役割もあると考えています。DeFiに関する中立公平な研究機関のようなイメージです。

サイトやコミュニティでは、動画を使って初級者でもわかりやすい解説を心がけています。ハードウェアウォレットの使い方や、口座やウォレットの開設方法からイールド・ファーミングの手順までの解説、プロトコルの説明などもしていますし、初級者向けだけでなく上級者向けには金融工学、難解な数式を用いた話もしています。今後は、オンラインのやり取りだけでなく、リアル勉強会も検討しているところです。

初級者向けの情報だけですと、どうしても怪しさが残ります。「初級者をDeFiの世界に招き入れているだけ」というか。まだまだ怪しいと思われている業界なので、上級者向けの情報も発信することで怪しさを払しょくし、本当に価値のある情報を厳選して提供していきたいと思っています。

(後編に続きます)