アースノーマット、アースジェット、モンダミンなど、日用品を中心に事業を展開している「アース製薬」。特に虫ケア用品部門、入浴剤部門は国内No.1のシェアを誇り、オーラルケア、消臭芳香剤、衛生用品、園芸用品も好調な売れ行きを推移している。

■アース製薬の“アース”は、ずばり「EARTH(=地球)」

今回、本社を訪れ、地球をモチーフにした企業ロゴを見て、初めて社名のアースが、地球のEARTHであることに気付いた。私たちの暮らしの中にあたりまえにある身近な製品ばかりなので親近感はあったが、正直グローバルなイメージはなかった。しかし社名が表すように、1892年の創業から一世紀以上にわたって、人々の役に立つ製品を世界中に提供し、今日まで社会と共に持続的に発展し、成長を遂げてきたのがアース製薬だ。

「生命(いのち)と暮らしに寄り添い、地球との共生を実現する。」を経営理念に掲げ、グローバルな視点と、未来に向けた取り組みを行ってきた。そして地球規模の社会課題解決のさらなる活性化を図り、2021年に社長直轄の部署として「CSR/サステナビリティ推進室」を新設。そこでアース製薬がどのようなサステナブルな取り組みを行っているのかを、CSR/サステナビリティ推進室長の桜井克明さんと、CSR/サステナビリティ推進室課長の田畑彩生さんにお話をうかがった。

  • 桜井克明さん/執行役員/グループ経営統括本部事業開発部長/兼/CSRサステナビリティ推進室長/グループ経営統括本部MA-Tビジネスセンター長

損害保険会社にて20年勤務後、アース製薬に入社。CSR取組推進、新規事業開発、アライアンス、M&A等の業務に従事。

  • 田畑彩生さん/グループ経営統括本部事業開発部CSR/サステナビリティ推進室課長補佐

国際NPO法人の運営や看護師としてタイ・ミャンマー国境にある移民・難民のための診療所など、国内外の病院・診療所へ11年勤務後、アース製薬に入社。サステナビリティ、CSR推進、東南アジア感染症対策を実施する国際NPO法人との連携事業などに従事。2021年より大阪大学大学院薬学部特任助教をクロスアポイントメントにて兼務。

「CSR/サステナビリティ推進室新設」の背景

持続的な企業価値の向上とサステナブルな社会の構築に貢献していくために新設された「CSR/サステナビリティ推進室」。お2人はもちろん、所属するメンバー全員が、グローバルな経験と、専門的で非常にユニークな経歴を持っている。まずは新設の背景を聞いてみた。

桜井さん:「アース製薬は、これまで虫ケア用品や洗口液の提供を通して感染症予防に取り組むなど、事業そのものを通じて、社会課題解決を目指す『CSV経営』に取り組んできました。そして近年のSDGsに関した情報開示拡大の社会ニーズの高まりを受け、入社後間もなく2017年にCSR報告書の作成を開始し、CSRの社内浸透を推進してきました。その後2021年、国内外のグループ会社を含めた情報発信・収集・連携をすべく、『CSR/サステナビリティ推進室』という専門セクションを新設し、更なる活動強化をめざしています」

アースならではのサステナブルな取り組み-「虫ケアステーション」「モンダミン体操」

その「CSR/サステナビリティ推進室」では、具体的にはどんな活動をしているのだろうか。

桜井さん:「弊社は東京2020オリンピック・パラリンピックをはじめ様々なイベント会場の側での『虫ケアステーション』の設置や、子供たちと一緒に体操を行う『モンダミンキッズ体操』など、虫による感染症リスクや薬剤の正しい理解・普及を促進するための虫ケア啓発イベントを開催しています。

また感染対策に細心の注意をはらい有観客にて女子プロゴルフ大会『アース・モンダミンカップ』を開くなど、スポーツ・文化への貢献を進めています。そのほか、環境に配慮した製品開発や気候変動に対応するための環境負荷低減の推進、教育現場への講師派遣といった教育CSRや生物多様性にも取り組みを拡大しています。我々のチームとして継続的に行うべきことは、これらの取り組みについてサステナビリティ・レポート等を通じ社内外に発信していくことや、CSVを進めるための現場での能動的な取り組みであると考えています」

虫を寄せつけにくい特殊加工衣類「スコーロン」を、デング熱の感染予防に

さらに、感染症予防のためのさまざまな研究・開発にも取り組んでいるという。

田畑さん:「JICAのSDGsビジネス支援事業では各企業と共同で研究・開発も行っています。蚊が止まっても吸血しにくくなるように、繊維に特殊加工を施した防虫衣類『スコーロン』がそのひとつです。インドネシア・スラバヤの国立大学『アイルランガ大学熱帯病研究所、昆虫学研究室』、『帝人フロンティア』と協働し、生産・販売の可能性についての調査をインドネシアで開始しました。学生服をはじめ、市場で働かれる方などへの衣類を東南アジアで展開し、蚊を媒介とするデング熱ウイルス感染症が増加している現地で感染予防に役立てて頂くことが目標です」

桜井さん:「昨年5月には、国際連合が提唱する『国際グローバル・コンパクト』に署名し、参加企業として登録されました。事業を通じた社会貢献活動を国際基準で“見える化”するとともに、グローバルにおいても、アースグループのESG経営をさらに推進していきます」

■地球規模の社会課題解決を目指して-「MA-T」と「ワールド・モスキート・プログラム」

新型コロナウィルスによって、この2、3年で我々の生活は一変し、今もなおウイルス感染症の脅威にさらされている。虫媒介感染症を予防する虫ケア用品をコア事業としてきたアース製薬は、さらなる「感染症トータルケアカンパニー」を全面に掲げて、事業領域の拡大および未来につながる新しい取り組みを行っている。

そこで現在チャレンジしている新たな2つの取り組み、『MA-T』と『ワールド・モスキート・プログラム(WMP)』のについて紹介しよう。

日本発の革新的技術「MA-Tシステム」で“未来が変わる”

桜井さん:「MA-Tは、マッチング・トランスフォーメーションの略で、日本初の革新的酸化制御システムのこと。MA-Tの主成分は亜塩素酸イオンで、これに含まれる活性種(水性ラジカル)が、ウイルスや細菌がいるときだけ瞬時に反応し、ウイルスの不活性化や細菌の殺菌を行います。MA-Tは高い安全性と除菌力、強い酸化力で除菌消臭ができるため、新しい除菌システムとして今注目を集めており、除菌消臭や口腔ケア製品など、身近な衛生対策製品に活用しています。また活性化の強弱を制御することで、農業や医薬など、幅広い分野での活用が期待できます」

現在プロ野球、Jリーグ、Vリーグをはじめ、大学・病院・自治体・警察などでMA-Tの活用が開始されており、社会実装が徐々に広がっているようだ。

なかでもメタンガスの温室効果は二酸化炭素の25倍であり、地球の温暖化に極めて悪影響を及ぼすと言われている。牛の糞尿からも出るメタンガスは、MA-Tのメカニズムを使うことにより、常温常圧でメタンガスを“液体のメタノール”に変えることができるという。大阪大学の大久保敬教授が発見したこの反応により、カーボンニュートラルなエネルギーの製造が可能になる。廃棄物から国産バイオエネルギーを製造できる、日本発の技術に大きな期待が寄せられている。

桜井さん:「このMA-Tの普及・価値向上・プラットフォーム構築のため2020年に『一般社団法人 日本MA-T工業会』を設立しました。現在様々な分野のリーディングカンパニーを中心に90社以上に参画いただいており、感染制御をはじめ表面酸化による新素材開発からカーボンニュートラルの実現までオールジャパンで取り組んでいきたいと思っています。そのためにも各省庁、大学や研究機関など、産官学の連携を進めていくことが今の課題のひとつです」

「WMP」によるジカ熱、デング熱防圧プログラムを支援

田畑さんは、国際NPO法人に所属し、デング熱などの感染症対策をタイとミャンマーの国境にて行っていた際に、桜井さんからの熱烈なアプローチを受けてアース製薬に入社。以来、アースグループのサステナビリティ推進のひとつとして推進している、「WMP」の取り組みについて詳しくうかがった。

田畑さん:「WMPは、オーストラリアのモナッシュ大学のスコット博士などの研究者らによって設立された、国際非営利型イニシアティブです。蚊媒介感染症は、ウイルスなどの病原体を持った蚊が、人を吸血することで感染しますが、蝶やハエなどの昆虫が持っている『ボルバキア』という細菌を、蚊に接種することで、ジカ熱、デング熱などの蚊媒介感染症の感染者数を減らすことができることを発見。実際に世界中の虫媒介感染症を撲滅する活動を行っています。

このプロジェクトにアース製薬も協賛し、ベトナムのパスツール研究所で蚊を飼育し、ボルバキア菌を持つ蚊を放っています。この技術を使うことで、蚊の個体数を減らさずに、生態系を崩すことなく感染症を減らすことができます。弊社はベトナムに事業地があるので、ベトナムからスタートし、タイ・フィリピン・マレーシアなど東南アジア中心に、世界中にプロジェクトを広げていきたいと考えています」

国際的に存在感を高めている、アース製薬の可能性

田畑さん:「私がタイやミャンマー国境の診療所、メータオ・クリニックで働いていた時に、現地で出回っている蚊よけコイルなどの虫ケア用品をよく使っていました。その中でも『ARS』というブランドの製品が、高品質で使いやすかった。のちにそれがアース製薬の製品だと知り、東南アジアの人々のニーズを満たす製品に可能性を強く感じました。実際、アース製薬は世界約50カ国に虫ケア用品などを輸出しています。

国際NPO法人の看護師として働いていた人が、一企業に転職するのは珍しいと思われるかもしれませんが、看護師として多くの患者さんと向き合ってきて感じたことは、“なによりも予防が大事”だということ。感染症患者を治療することはもちろん大事ですが、その前に感染を拡げない対策をすることが、人々の健康を支え、助けることに直結していると強く感じています。これまでに多くの虫ケア用品を開発し、グローバルでの存在感を高めているアース製薬なら、それを解決に導くことができるのではないかと思っています」

地球規模の課題解決を目指すアース製薬の新たな挑戦に期待したい。