「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。
この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。
今回から3回に渡り、「AIエージェント」に関するインタビューをお届けします。第1回は"人とAIエージェントの共創時代”をテーマに、株式会社セールスフォース・ジャパンの國本久成氏にお話を伺いました。
「AIエージェント」とはなにか? チャットボットとの違い
――いわゆる「生成AIブーム」がやや落ち着き、その先として「AIエージェント」「エージェンティックAI」に注目が集まっていますが、AIエージェントとはどんな存在なのでしょうか?
國本氏:生成AIの進化によって、ビジネスの現場では「AIエージェント」という新たな概念、サービスが登場しています。AIエージェントにはさまざまなアングルがありますが、「特定の目的に向けて自律的に思考・行動するAI」と表現できると思います。
これまであったものですと、チャットボットが近しいでしょうか。ただしチャットボットは、あくまでもルールベースで、あらかじめ決められた回答を提供するものでした。たとえばECサイトですと、①チャットボットが用件を聞く ②複数ある用件の中から「返品」を選ぶ ③名前や購入日、購入商品などの情報をユーザーが答える ④チャットボットが回答する ⑤必要に応じてコールセンターなどにつなぐ……という流れです。
しかし、生成AIをベースとしたAIエージェントは、ユーザーの問いに応じて柔軟に、ときには創造的に答えを導き出します。これまでのチャットボットは制限があり、システム側に合わせたユーザーとのやりとりでしたが、AIエージェントですとユーザーが自由に質問でき、応用性が高くなります。これは、あたかも人間のように情報を整理して判断し、行動を支援する“デジタルワーカー”のような存在です。
営業もバックオフィスも変える「AIによる提案力」
――カスタマーセンターなどとの相性が良さそうですが、人手不足が叫ばれる営業やバックオフィス業務にもAIエージェントは活用できそうでしょうか?
國本氏:AIエージェントの強みは、「提案力」にあります。営業現場であれば、商談の進捗に応じて次のアクションを提案したり、必要な資料を自動で準備したりすることが可能です。これまでは営業アシスタントの雇用が必要だった業務がAIエージェントと連携し、営業アドバイスや営業事務など、デジタルな労働力になってくれます。
バックオフィス業務でも、もちろん力を発揮します。たとえば、人事部に「産休に関する手続き方法を教えてほしい」という問い合わせがあった場合、これまでは人が就業規則を調べて回答していましたが、AIエージェントがその役割を担えるようになります。ルーティンワークから解放され、人はより創造的な業務に集中できる時代が到来しています。
AIがより人間と一緒に仕事をするようになり、AIエージェントによる労働力革命がさまざまな業界で起こると予測できます。簡単な業務やルーチン業務を大量に行うケースでも、AIエージェントは活用できるでしょう。
デジタル労働力革命でカスタマーセンターの夜勤が不要に?
――AIエージェントを導入できない業界の方が少なそうですね。カスタマーセンター・コンタクトセンターでは、すでにチャットボットは導入されていると思いますが、すぐにでも置き換わりそうです。
國本氏:多くの企業が直面するのが、コストと人手のバランスが難しいカスタマーセンター・コンタクトセンター業務です。夜間対応のために外注したり、交代制で人員を配置したりする必要がありました。
しかしAIエージェントは、24時間体制でユーザー対応が可能です。単なるFAQの自動応答だけではなく、ケースに応じて適切なアドバイスを行うこともできます。たとえば、保険契約の条件確認や、不動産サービスでの条件検索、旅行業での提案など、専門知識をもったAIエージェントが実用段階に入りつつあります。人の業務を補完する、まさに労働力の革命です。チャットボットは、夜間などすでに導入している企業も多く、シームレスにAIエージェントに移行できると思います。より付加価値や専門性の高いアドバイスであっても、質の高いデータを学習させれば適応できます。
「AIに仕事を奪われる」は本当か? 人の価値を再定義するとき
――あまり好きではないのですが、AIが発展・普及すると「AIに仕事を奪われる論」が出てくると思います。正確には、「AIを使いこなす人に、AIを使えない人が立場を奪われる」のかなと思いますが、AIエージェントとの協働が当たり前になったとき、ビジネスの現場で人の価値はどうなるのでしょうか?
國本氏:人の価値を、AIによって再定義する必要があるのだと感じています。たとえば宿泊業界では、チェックイン・チェックアウトをすべてAIが担うホテルもあれば、人によるきめ細かな接客を提供するラグジュアリーホテルもあります。どちらを選ぶかは顧客次第です。
AIによって効率性を追求する選択肢と、人間的な体験価値を提供する選択肢が共存する時代になるのではないでしょうか。人がどんな付加価値を生み出せるかが、今後ますます問われていくでしょう。では、「付加価値」とはなんなのか? 私は、あくまでも顧客視点の付加価値でないといけないと思います。AIエージェントを活用して、考え事や人と交流する時間を増やし、付加価値がなんなのか、どんな価値を提供できるのかを絶えず考え続けることが人の価値なのかもしれませんね。
企業もAIを恐れず活用するマインドセットを
――中小企業などでも人手不足の問題が顕著に表れていますが、AIエージェントを活用できる人が増えれば、働き方も大きく変わりそうですね。
國本氏:そうですね。生成AIやAIエージェントは、私たちの働き方を大きく変える存在だと思います。重要なのは、「どう共存していくか」です。「AIを使わない」というスタンスではなく、「AIを使って、どんな人間的価値を発揮するか」という視点に立つことが重要ですね。
AIは効率的に、瞬時に業務を処理できますが、一緒に仕事をするチームにおける信頼や人間関係、感情の機微など、人にしかできない部分もたくさんあります。特にこれからのマネージャー層は、AIを“使いこなす”スキルと、“人らしさを活かす”バランス感覚の両方が求められるようになるのではないかと。
経営層・雇用側の視点からは、「AIエージェントで効率性を上げる」という戦い方もあり得ます。ヒト・モノ・カネという経営資源の中で、人はもっとも不確実で曖昧です。人には離職リスクがありますが、AIエージェントにはそれがありません。やがてはAIエージェントだけでサービス提供を完結させることも可能になりますから、効率を上げて利益率を高めてAIにさらに投資することもできると思います。
しかし一方で、すべてがAIエージェントに置き換わるということではなく、人間らしさを求めるニーズも残る、あるいは反動で高まるかもしれません。効率を上げて省人化だけをするのではなく、研究開発に投資し、新しい事業領域を開拓することは企業にとっても重要です。
AIエージェント時代の自己投資
――ChatGPTなどの生成AIが続々とリリースされ、それとともに「リスキリング」という言葉も広まりましたが、AIがもたらした大きな変化はどんなところにあると感じますか?
國本氏:AIがもたらした最大の変化の一つは、「スピード」や「時間の使い方」にあると思います。リサーチ、ライティング、デザイン、動画制作、資料作成など、これまで多くの時間を費やしていた作業が、生成AIで瞬時にできるようになりました。もちろん成果物の品質は100点満点ではないかもしれませんが、たたき台として十分に活用できます。限られた時間を、どのように再配分するかが重要です。
時間の使い方とセットなのですが、リスキリングには「やめることを増やすこと」が重要です。検索や要約の手間をAIに任せることで、空いた時間を人との対話や創造的活動、自己研鑽に充てる。その一つひとつの積み重ねが、これからの人材価値を形づくっていくのだと思います。
「時間に対するイノベーション」が生成AIやAIエージェントによってもたらされており、人生も仕事をする時間も限られているわけですから、「限られた時間をどう使い、どう活かすか」。家族サービスや自己投資に時間を使うためにAIを活用するのも良いですが、今までどおりの行動をしていたら変化はありません。今までどおりの行動をやめ、変化の波に飛び込むことが大切ですね。「リスキリング=プロンプトエンジニアリング」という単純なことではないと思います。
トライ&エラーが人の役割
――日本は大企業も中小企業も、新しい取り組みを始める際に最初から100点満点を目指す傾向が強いと思うのですが、AIも完璧ではないので、トライ&エラーのくり返しをスピーディーに行う必要があるのでは? と感じています。
國本氏:AIが業務を効率化してくれる一方で、最も重要な役割は私も「トライ&エラー」だと思います。どんなに優れたAIでも、正確なフィードバックがなければ進化しません。人が実際に試し、結果を観察し、そこから学び、AIにも学習させる。こうしたフィードバックループをくり返すことで、人とAIが協働しながら成長していくことができます。
ここでカギとなるのが、「ヒューマン・イン・ザ・ループ(Human-in-the-loop)」という考え方です。これは、AIの判断や出力に対して必ず人が介在し、評価や修正を加えるプロセスのことです。AIの判断が正しいか、倫理的に妥当かといった観点を、人間が担保する役割です。
生成AIやAIエージェントが実用化されていく今こそ、人の介在による責任ある設計が必要とされています。リスキリングは単なる知識の習得ではなく、実践を通じたスキルの体得。そして、それを支えるのが時間の使い方と行動の変革であり、人が関わるからこそAIは社会の中で健全に機能していくのではないでしょうか。
――AIの進化は止まらないと思いますが、お客様は人ですし、社長も社員も人です。人間的な関わりがない職場では長く働けないでしょうし、ヒューマンタッチがないといつかは顧客も離れていくのかもしれませんね。AIはいつも正しい答えを出してくれるかもしれませんが、正論ばかりを言う人が好かれるとも限らないのが人間社会ですね(笑)。
「革命」は価値観の転換から始まる
――AIエージェントというデジタルワーカーが普及し、労働力革命が遅かれ早かれ起こると思いますが、どんなマインドを持つことが重要なのでしょうか?
國本氏:スマートフォンが一気に普及した新興国のように、日本でもAIエージェントが一気に広がる可能性があります。それは、「固定電話を飛ばしていきなりスマホが普及」と同じような飛躍です。しかし、その変化を受け入れるには、私たち自身が価値観を更新する必要があります。
革命とは、「前提を捨てること」だと思います。革命は、価値観が大きく変わる瞬間です。いろいろな前提を捨てないと、革命は成し遂げられません。これまで当たり前だった働き方、時間の使い方、価値の見つけ方を、根底から見直す。生成AIからAIエージェントへ──この流れは、単なる技術革新ではなく、私たちの生き方そのものを問う、大きな転換点なのではないかと感じています。AIなどのテクノロジーは、なにも若い人だけのものではありません。これからは、年齢を問わずAIを使いこなさないといけないと思います。