「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。

今回は、50代からのリスキリングやパラレルワークをテーマに、株式会社ネクストエデュケーションシンクの岸晶子氏にお話を伺いました。

  • 岸 晶子氏/株式会社ネクストエデュケーションシンク ソリューション事業部 デジタルコンテンツ営業部/都市銀行勤務後、出産を経て専業主婦に。3人の子育てがひと段落した際にデジタルリスキリングを実施。その経験を活かしDXビジネス教育に関するコラム記事や大学向け教材作成などを手がける

リスキリングに年齢の壁はない

――岸さんは、子育てが落ち着いてからデジタルリスキリングをされたとのことですが、当時はどのような環境下だったのでしょうか?

岸晶子氏(以下、岸氏):子育てがひと段落したのは、コロナ禍の初期の頃でした。3人の子育てが落ち着き、それまでは子どもたち中心の生活でしたので、解放感から映画を観たり美術館へ行ったりと好きな趣味の時間を持つようになりました。

ただ、子どもたちも含めて家族はみんな勉強熱心で行動的。じゃあ、自分はどうか?と。子どもたちがまだ小さいときは英検など一緒に受験したのですが、だれかから「やりなさい」と言われてやるのではない勉強に興味が湧き、当時はDXブームだったこともあり、デジタルスキルに挑戦したくなりました。

若いときにシステム部にいたこともあってDXには馴染みがあり、まずはDX関連のビジネス書を読み漁りました。資格を取れば仕事になるかもしれないとITパスポート試験を受けたり、DXビジネス検定を受けたりして。DXビジネス検定で何度か高得点を取ったら声をかけていただき、気がつけばDXビジネス検定の作問担当になって、自分でも驚いています。まだ受験者数が少ないときだったので、良いタイミングでリスキリングできたのかもしれませんね。

――子育てが落ち着いたこと以外に、なにかきっかけはあったのでしょうか?

岸氏:コロナ禍に行なったオンライン同窓会も、きっかけだったかもしれません。ずっと専業主婦だったコンプレックスがあり、主婦だとPCを開く機会もほとんどありませんから、Googleの機能も使えない。30年間子育てに一生懸命だったのですが、まるでなにもやって来なかったみたいで落ち込みました。

しかし、オンライン同窓会のための段取りは男性リーダーが率先してやってくれたのですが、ネット環境の構築は主に女性陣が行ったんです。私と同世代の女性は、中小企業勤務やフリーランスになっている人もいて、彼女たちはなんでも自分でやります。一方で、ずっと大企業で働いていた同世代の男性陣は比較的ITに弱くてもなんとかなる環境なのだと思います。PCやオンライン会議の設定は会社の部下がやってくれるわけですし、新しいことを積極的に学ばなくても逃げ切れるから学ばなくても済んでしまう。ずっと働いていても、みんながみんなデジタルに強いわけじゃないんだと気づきました。DXをちゃんと学べば、自分も仕事にできるかもと思ったんですね。

――生成AIを使ってみて、どんな感触でしたか?

岸氏:仕事の下ごしらえにとても役立つと思いました。ネタ探しもそうですし、経産省などのDXレポートの詳細を要約したり、膨大な情報から自分の知りたい内容をピックアップしたりと、便利に使っています。ChatGPTやClaudeなど、タイムリーに良いツールが出てきたなと感じました。noteのイラスト生成には、ChatGPTを使っています。

子育てとAI育ての共通点

――最初に入力したプロンプトとか、覚えていらっしゃいますか?

岸氏:最初はAIになにを聞いたら良いのかもわからなくて、簡単なことしか聞けていなかったと思います。簡単なことを聞くと「だよね」という回答しか得られませんし、驚きや感動までいかないですよね。プロンプトの浅さに気づいて、日々生成AIを使っているうちにプロンプトの精度も上がっていったと思います。AIも日々進化しますが、AIを使う私たちも日々進化しないといけないなと。

プロンプトの工夫としては、出力してほしいことを最初から詳細にリクエストするか、壁打ちでやりとりをしながら理想の形にしていくか。丁寧語の人間的な会話が成立するので、AIとのやりとりを楽しみながら成果物を一緒につくり上げていくのも楽しいと思います。ついつい、「ありがとう」とAIに返しちゃうこともありますし、パターンをAIが記憶してくれるので、なんだか子育てと似た感覚も覚えます。

よく「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」と言いますが、子育てもAI育ても似たところがあります。また、「子育ては自分育て」とも言いますが、AIを育てながら自分も成長していく感覚ですね。

――AI育てでも、子育ての経験が活かせそうですか?

岸氏:我慢強さやイレギュラー対応、マルチタスクなど、子育ては予想外なことが常に起こるので、かなり鍛えられたと思います。AI育てに活かせているのかはわからないですが、理想の回答や成果物ができるまでAIとのやりとりを根気強く続けることはできていますね。

効率化の先にあるもの

――AIの活用というと「業務効率化」や「省人化(コスト削減)」として取り組まれることが多く、若い世代だと単に新しい技術だからという以外に、「コスパ」や「タイパ」を重視する人が多いという観点からも受け入れられやすいのではないかと思います。岸さんのお子さんたちも、当然AIを使われているのでしょうね

岸氏:SEの子もいますので、AIは日々使っていると思います。まだ大学生の子もいるのですが、理系なので実験レポートなどでもAIは活用しているようです。便利なツールのひとつとして、AIは不可欠なものになっていますね。

私はコラムのネタ出しにもAIを使うのですが、文のはじめを自分でなかなか思いつかないときにもAIを使っています。追記したい内容を「うまいこと入れ込んで」とAIにお願いすると、実にきれいに書いてくれるときがあり、そんなときは正直悔しいですね。今はPCが当たり前になって、手書きでなにか書く機会も減ったと思います。それと同じように、AIを使うのが当たり前になって、使わないことの方が稀になっています。

――かつて人類が「文字」を開発したとき、それまで口伝だったわけですから記憶力が衰えたと思います。Googleで検索することが当たり前になったとき、記憶力はさらに落ちたと思いますし。そう考えると、AIが当たり前になると衰える力があり、劣化しないように注意も必要ですよね。

岸氏:そう思います。考える力が衰えないようにしないと。なんでもAIに聞くのではなく、自分で考えることを意識するかしないかで差が出ると感じますね。「AIがあってラクだな」だけだと劣化してしまいます。AIで効率化し、空いた時間でゼロイチを生み出すなど意識を向けないといけないですね。

「コスパ重視、タイパ重視」も良いのですが、じゃあ自分はなにをするのか? タイパが悪いからやらないではなく、じゃあなにをするのか?ですよね。人は生まれたら必ず死ぬわけで、その狭間でなにをするかが人生だと思います。AIを活用することは、人生を見つめ直し考えることにもつながるのではないでしょうか。

50代からでも遅いスタートなんてない

――岸さんはDX、AIなどを学び、実際に活用もされていて、検定の作問の他に公式テキストの出版もされていますよね。他にはどのような活動をされているのでしょうか?

岸氏:DXビジネス検定の公式テキストの他には、大学のテキストも依頼されてつくったことがあります。実は監修されるはずだった教授の方が辞めることになりお蔵入りになってしまったのですが、だれかの監修のもとで書いたのは初めてで良い経験になりました。

ライフワーク的に書き続けているnoteの他に、DXビジネス検定の公式サイトでもコラムを書いていて、それは第2シリーズに突入して「デジタルでビジネスをどう広げるか」など、より専門的な内容になる予定です。8回ほどの連載なのですが、愉しんで書いています。

noteについては、いずれは有料版にもチャレンジしたいですね。今は週に1~2回ほどアップしていて、継続が大事と思って続けています。「始めたい人10000人、始める人100人、続ける人1人」と言いますが、これからも続けていけばより価値ある情報が提供でき、有料版も実現できると思っています。

パラレルでシンプルな生活

――年齢を問わず、チャレンジしたいことがあるって幸せなことですよね。岸さんはお仕事以外に農業や介護もされていますが、子育てが落ち着いた今もマルチタスクですよね。

岸氏:同時並行なのでパラレルですが、充実した毎日です。必ずしも「週末農業」というわけでもなく、基本的に在宅ワークなので収穫時期は週末でなくても収穫しています。最近(取材時は3月)はジャガイモの時期なので、種芋を買って90代の義父が準備をしてくれました。のらぼうという大きな菜の花のようなものや、春かぶ、サラダほうれん草、ニラ、里芋、夏野菜、マメ類、柚子なども育てています。義父は70年以上農家をしてきたのですが、横の畑を夫婦で兼業農家として手入れしているところです。収穫したものは、日々おいしくいただいていますし、ご近所や友人にお配りすることもあります。柚子ジャムは豊作だと100瓶ほどになり、配るだけでも結構大変ですね。

介護は、週に1~2回は母の顔を見に施設へ行っています。父が亡くなって空き家になったので、庭などの手入れもしていますね。義実家には、おかずを届けたり、薬などの管理、義理の姉と協力して病院へ連れて行ったりもしています。直接的な身体的ケアを伴う介護とは違うのですが、在宅でできる仕事なので農業や介護との両立もしやすく本当に有難い環境だなぁと。場所や時間に拘束されると両立は難しいですから。

ウォーキングを兼ねて義実家へ行って様子を見て、午前は在宅で仕事をして、畑で収穫して、また仕事に戻ったり。そんなパラレルワークなのですが、複雑というわけではなく、シンプルで充実していると思います。

学べば学ぶほど増す好奇心

――子育てがひと段落して、なにかチャレンジしたいけど一歩を踏み出せないという人も多いと思います。最後に、そんな人たちになにかメッセージをお願いします。

岸氏:偉そうなことはなにも言えないのですが、自分が興味のあることにまずは踏み出してみるのが良いと思います。仕事にするなら、もちろん興味だけではダメなのですが、きっかけは「興味がある」だけで十分なのではないでしょうか。

50歳を過ぎてから本気でなにかを仕事にしたいなら、デジタルの知識は最低限でも持っておくと良いと思います。私も「どうせ…」「いまさら…」という気持ちやコンプレックスもあったのですが、今では仕事として楽しく取り組んでいます。せっかく働くなら楽しく勉強した方が良いですし、学べば学ぶほど興味の幅が広がり、好奇心も湧いてきます。デジタルを知ると、無料で学べることやできることがたくさんあることに気づきます。無料のサイトやコンテンツがたくさんありますし、無料で使えるソフトや無料で使えるAIもあります。お金をかけなくても勉強はできるのですが、お金をかけると「本気になれる」というところもあるので、まずはスモールスタートでお金をかけずにチャレンジしてみるのが良いと思います。自分でモチベーションをつくることも大切ですね。

子育ては落ち着いたとは言え、仕事と農業と介護などで時間のやりくりが大変なときもありますが、それでも楽しさが勝ります。知りたいことを知る喜びは、いろいろ経験してきた大人になってこそだと知りました。いろいろと経験した後で学ぶ喜びを、今はかみしめているところです。

日本人は、大人になると極端に勉強しない国民と言われます。社会の仕組みが年功序列や終身雇用だったので勉強しなくても済んだわけですが、今は一人ひとりが自分で考えないといけない時代です。だからこそ学びが大切で、仕事につながらなくても学び続ける姿勢を私も持ち続けていたいと思います。