今年5月上旬から2週間かけて、筆者はドイツ、ベラルーシ、ウクライナ、ハンガリーを旅行した。そこで、これから3回に分けて、知られざる中欧・東欧の鉄道旅行の魅力を紹介したい。1回目は2016年12月にデビューしたフリーゲージトレイン「ストリージィ号」の乗車レポートをお届けする。
「ストリージィ号」ベルリン~モスクワ間5時間近く短縮
2016年12月、ロシア国鉄はベルリン~モスクワ間を結ぶフリーゲージトレイン「ストリージィ号」の運行を開始した。ソ連時代からベルリン~モスクワ間に国際列車は存在していたが、旧ソ連諸国(ロシア・ベラルーシ)とヨーロッパでは軌間が異なっているため(ロシア・ベラルーシは1,520mm、ヨーロッパは1,435mm)、ベラルーシのブレストにて台車交換を行う必要があった。
「ストリージィ号」はスペイン・タルゴ社製のフリーゲージトレイン「Talgo9」を採用。ブレストでの台車交換が不要となり、モスクワからベルリンまでの所要時間は4時間35分短縮され、20時間14分となった(ベルリンからモスクワまでは20時間35分)。
「ストリージィ号」のデビューはロシアだけでなく、ヨーロッパの鉄道界にも大きなインパクトを与えたようだ。なお、2018年5月現在、「ストリージィ号」はベルリン~モスクワ間以外にロシア国内(モスクワ~ニジニ・ノヴゴロド間)でも使用されているという。
筆者は5月7日、「ストリージィ号」の起点駅であるベルリン東駅から乗車した。東西ドイツの時代、ベルリン東駅は東ベルリン側の中央駅として機能した。しかし、2006年にベルリン中央駅が開業した影響か、構内はひっそりとしていた。ベルリン中央駅発着の遠距離列車が多い中、ベルリン東駅発の「ストリージィ号」は貴重な存在といえるだろう。
20時10分、引退が近づくドイツ鉄道120型電気機関車に率いられ、20両編成の441列車「ストリージィ号」が入線した。車体は白をベースに青帯と赤線が引かれ、ロシア国旗を連想させるデザインに。タルゴは低床式なので、屋根が低いことも大きな特徴となっている。
筆者は2等寝台の上段ベッドを予約していた。部屋に入ると下段が座席になっており、上段ベッドは収納されていた。試しに上段ベッドの裏側にある鍵のような金具を回すと、ベッドが目の前に出てきた。寝具もあらかじめ用意されているので、すぐに眠りにつくことができる。
ドア上部には荷物棚がある。イヤホンやスリッパも備え付けられていた。部屋にコンセントはあるものの、下段ベッドの1カ所のみ。上段ベッドを予約した際は携帯型の充電バッテリーを用意するといいだろう。
しばらくすると、モスクワに住むロシア人家族3人が入ってきた。20時22分、何の前触れもなく「ストリージィ号」はベルリン東駅を発車。ところで、ロシアの車両と聞くと、「車内はロシア語ばかりでは」と心配する人もいるかもしれない。その点はまったく心配無用だった。車内放送は英語・ロシア語の自動放送になっている。車端部にある電光掲示板も、ロシア語と英語で停車駅を繰り返しスクロールしていた。筆者が乗車した日の車掌は英語も話せたため、ロシア語が話せなくてもまったく不便はなかった。
部屋を観察し終え、夕食を取るために食堂車へ向かった。食堂車はロシア国鉄の車両とは思えないカジュアルな雰囲気。家族連れを中心ににぎわっていた。メニューを開けると、ウクライナ発祥のボルシチやボリューム満点のステーキが並んでいる。ボルシチは380ロシア・ルーブル(約680円)、ステーキは1,590ルーブル(約2,800円)だった。筆者は旧ソ連諸国でよく見られる飲料水「クヴァス」とロシア風チキンカツレツを注文した。
クヴァスは少し醤油にも似た、なんともいえない味わいだ。ロシア風チキンカツレツはジューシーで、お腹を満足させるボリュームだった。
ところで、「ストリージィ号」の食堂車における支払いについてはカード払い不可、ロシア・ルーブルでの支払いとなっている。筆者はユーロで支払ったが、お釣りはロシア・ルーブルで支払われた。あくまでも「ストリージィ号」はロシアのための優等列車であることを痛感した瞬間だった。
ドイツのフランクフルト・オーダー駅を過ぎ、ポーランドに入った後も150km/hで走り、揺れは少なかった。同室のロシア人に「ストリージィ号」の感想を聞くと、ロシア語で「清潔」を意味する「チースティー」という言葉を繰り返していた。「ストリージィ号」はロシア人にも高評価のようだ。「ストリージィ号」が快走する中、眠りについた。
ポーランド時間の午前6時に起床し、ポーランドの出国審査を受ける。続いてベラルーシに入り、腕時計を1時間進める。ベラルーシ時間の7時56分、今度はベラルーシの入国審査を受けた。
ここからブレスト駅へ向かうわけだが、従来はブレスト駅付近で台車の交換が行われている。そのせいか、周辺には台車が無造作に置かれていた。「ストリージィ号」はゆっくりとした速度で走っていく。やがて、検車場を思わせる小屋を静々と通過。8時28分に真新しいブレスト駅に到着した。その間に車輪の幅が変わったと思われるが、まったく違和感を覚えさせないスムーズな乗り心地だった。
ブレスト駅を発車すると、130km/hほどのスピードで東へ走る。ただし、ポーランドでの走行時と比べて少し横揺れが激しいように感じられた。11時55分、ベラルーシの首都、ミンスクに停車。筆者はここで下車した。
「ストリージィ号」はロシア国鉄が運営しているため、ロシア国鉄のサイトから予約可能。ベラルーシへ入国する際はビザが必要となる。なお、2018年5月現在、ロシア・ベラルーシ国境に関して、在ロシア日本国大使館は飛行機の利用をすすめている。「ストリージィ号」に乗車するならミンスク~ベルリン間にとどめておくことが賢明だろう。
フリーゲージトレインは中国に乗り入れるか
今後、ロシア~中国間でフリーゲージトレインが導入されるか注目されている。現在、ロシアはモスクワから770km離れたカザンとの間で高速鉄道の建設を進めている。このモスクワ~カザン間の高速鉄道はロシア~中国間の高速鉄道の一部になる予定。中国とロシアは軌間が異なるため(中国は1,435mm、ロシアは1,520mm)、高速フリーゲージトレインが導入されるか注目したい。いずれにせよ、なんらかの形で中国~ロシア~ヨーロッパの鉄道網において、フリーゲージトレインが積極的に採用されるのではないかと思う。