日本では、以前からクレジットカードや電子マネー(Suica、Edy)などのキャッシュレス決済がありました。しかし日本は、現金主義の国であったため、キャッシュレス決済がなかなか普及しませんでした。

それが2021年現在、PayPayや楽天Payなど二次元コード決済/バーコード決済を利用する人や、スマホをかざして決済をする人が増加し、キャッシュレス決済は着実に普及し始めています。

この記事を読んでいただくことで、日本でキャッシュレス決済の普及が遅れていた理由や、急速に普及した背景がわかります。

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キャッシュレス決済が普及した背景

近年の日本でキャッシュレス決済が急速に普及した理由は、政府が普及を推進したためでしょう。

2016年時点で世界各国のキャッシュレス普及率は、韓国96.4%、イギリス68.6%、中国65.8%、アメリカ46.0%であるのに対し、日本は19.9%と非常に低水準でした。

出典 : 一般社団法人キャッシュレス推進協議会「キャッシュレス・ロードマップ 2019」

そこで日本政府は、日本のキャッシュレス決済比率を2025年までに4割に高め、最終的には世界最高水準である普及率8割を目指すべくさまざまな普及策を実施しました。

日本でキャッシュレス決済の普及が遅れた理由

キャッシュレス決済が遅れた理由には、以下2点が考えられます。

・キャッシュレスに対応している店舗が少ない
・キャッシュレス決済に対する不安感

店舗がキャッシュレス決済に対応するためには、専用の読み取り端末を導入しなければなりません。また端末や設備の導入には、初期費用や月額費用などのコストがかかります。

さらに消費者がクレジットカードで決済した場合は、店舗はクレジットカード会社に対して手数料を支払う必要があります。クレジットカード会社から売上が店舗に入金されるまでタイムラグがあるため、資金繰りが悪化する恐れもありました。

コストをかけ、リスクを背負ってまで設備や専用端末を導入しても、売上や顧客の増加が確信できなかったため、店舗はキャッシュレス決済の対応に積極的ではありませんでした。

また「クレジットカードで決済しすぎると破産する」というイメージを持っていた人は少なくありません。さらにスキミングはじめとしたセキュリティ問題も重なり、人々の不安感が拭えなかったことから、クレジットカードが現金に取って変わることはありませんでした。

キャッシュレス決済を普及させる政府の狙い

日本がキャッシュレス決済の普及に積極的なのは、インバウンド需要を取り込むためです。

現金決済が主流な日本は、海外の人々にとってはお金が使いにくい国でした。調査によると、日本に訪れた外国人の約7割が「クレジットカードや外貨両替などを使える場所がわかったら、もっと多くのを使ってお金を使った」と回答しています。

出典 : DBJ・JTBF アジア・欧米豪訪日外国人旅行者の意向調査(平成28年版)  ※結果は、おそらくを含む

キャッシュレス決済ができる店舗を増やすことで、日本に訪れる外国人旅行者の消費が増加されると考えられます。

また人手不足の解消や生産性の向上も、キャッシュレス決済を普及させる目的です。キャッシュレス決済を導入することで、レジ締めをはじめとした現金を管理する手間の削減や、従業員による売上現金の紛失・盗難のトラブルの防止が期待できます。

キャッシュレスを普及させる施策を開始

政府は、キャッシュレス決済の普及に加え、消費税の増税による景気の落ち込みを防ぐために、2019年10月に「キャッシュレス・消費者還元事業」を開始しました。

中小事業者に対しては、決済端末の導入やシステム開発、決済事業者に対して支払う手数料の補助などが行われました。また消費者に対してはキャッシュレス決済で支払いをすると、2%または5%のポイント還元が受けられます。

キャッシュレス・消費者還元事業は、2020年6月30日をもって終了しています。入れ替わる形で、2020年7月1日からは、キャッシュレス決済と個人番号カード(マイナンバーカード)の普及を目的とした「マイナポイント事業」が開始されました。

マイナポイント事業とは、キャッシュレス決済でチャージまたは支払いをすると、最大5000ポイントの還元が受けられる事業です。

企業のキャンペーンやスマートフォンの高性能化も後押しに

政府だけでなく企業もキャッシュレス決済の普及にさせるためにキャンペーンを実施しました。「誰でも20%還元」のようなキャンペーンを実施していたのも記憶に新しいです。

企業がキャンペーンを行っていたのは、キャッシュレス決済による購買データを入手できるためです。キャッシュレス決済を利用した人の年齢層や購入した商品、時間帯などのデータを蓄積・分析することで、企業のマーケティングやサービス・商品の開発に活用できます。

また2016年10月には「Apple Pay」の提供が開始されました。日本はiPhoneの使用率が高いため、Apple Payの提供開始がキャッシュレス決済の普及を後押ししたと考えられます。

加えて専用の管理アプリや家計簿アプリで管理がしやすくなり、キャッシュレス決済の使いすぎを防ぎやすくなりました。セキュリティも年々強化されていることもあり、人々のキャッシュレス決済に対する不安感は、徐々に解消されているといえます。

以上の結果、日本のキャッシュレス決済は2019年時点で26.8%まで増加しました。

出典 : 経済産業省 商務・サービスグループ キャッシュレス推進室

またニッセイ基礎研究所は、2020年のキャッシュレス決済普及率が29%まで足していると推計しています。

出典 : ニッセイ基礎研究所「コロナ禍における日本のキャッシュレス化の進展状況」